【イベントレポート】trialog.vol.5~信頼のおける仲間と組めば、もう少し幸福になるの?クリエイティブのための新しい組織や関係~

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(by 葛西祝

「BadCats Weekly」では様々なメンバーが集まっている。ライトノベル作家の蛙田あめこ氏から、星新一賞で入賞している、あでゆ氏、そして英日の翻訳者である武藤陽生氏など、様々なメンバーが寄稿しているサイトだ。ジャンル複合ライティング業者みたいにめちゃくちゃな経歴を自称していても受け入れていただける、大変ありがたい場所である。

このサイトはそんなふうに、様々な経歴を持つ人たちとのコラボレーションで出来ている。
いろんなメンバーが関わることで、何か新しいものが生まれるのではないか?そんな可能性を見せているところでもあるだろう。

ちょうどそんなことを考えているとき、トークセッションイベント「trialog.vol5」にて「新しいクリエイションのための、新しいチームの作り方」が渋谷にて行われた。

クリエイティブに関しては、旧来からの会社に所属して行うのに限界があって、オルタナティブとなる新しい形があるんじゃないか?とTrialogの主宰である、元WIRED日本版編集長の若林恵さんと、水口哲也さんは繰り返し語っている。

たとえば信頼のおける仲間と一緒に仕事していけば、もう少し幸福になるのだろうか?まったく別の分野のクリエイターと組むことで、何が生まれるのだろうか?答えはないながらも、トークセッションが行われた。

「才能を肯定してくれる」ことを基準に、異なるクリエイターと組むこと

「自分の音楽を肯定してくれる人と組みますね。」ミュージシャンの中村佳穂さんは、自分が様々なクリエイターとコラボレーションするときの基準をそう語った。肯定してくれる方、もしくは肯定してくれるであろう方と連絡を取るそうだ。

中村さんはソロのアーティストだけではなく、デュオやバンドなど、様々な形態で多くのミュージシャンとコラボしていく活動をしている。そのために「最低限、肯定してくれる環境を作りたい。」と話していた。今年3月にもGRAPEVINEとライブでコラボレートするなど、精力的なコラボレーションを行う背景には、自分の活動を評価してくれる人たちと関わることを意識しているという。

中村さんがいろんな人たちから評価されるのも、もちろん本人のやってきたことが大きい。Mikikiに掲載された、中村氏の最新作『AINOU』を制作したミュージシャンたちは「天才だけど、根性がある。中村佳穂は孫悟空みたいな音楽家」と評価している。「普段からあんな感じですよ、いつも歌ってるし」、「この間も、泊まったホテルのロビーに電子ピアノがあったから、それをいきなり弾きだして。通りがかった外国人の宿泊客が拍手する、みたいな」と中村さんを語った。

中村さんもライブに向かうとき、「仕事だと呼ばないようにしているんです。ライブに行くのも、遊びに行くとか、なるべくそういう言葉を選んでいます。」と話しており、自然に音楽に向かいあうエピソードを話していた。

面白かったのは、コラボレートによる新しい表現がどんなかたちで出来るのか?という話だ。「なんで私を肯定してくれているんだろう?って人と組むと、新しいことが生まれることがあるんです。」と中村さんは説明していた。

ほかに中村さんの発言で興味深かったのは、“飽きる”ということだった。「自分が飽きることに恐怖しているんです。みんな大丈夫なのか、そんな恐怖と対峙できるのか。」と語り、中村さんが多くのコラボを重ねる背景には、そうやって自分の飽きを解消することもあるみたいだ。

セッションで対照的だったのが正能茉優さん。「ラーメンライスみたいなものなんですよ。人よりもいっぱい食べるけど、食べたいから食べてるみたいな。」多岐にわたる、自身のキャリアをそう例えた。

正能さんはソニーモバイルの社員でありながら、ハピキラFACTORYの代表取締役を務めている。事業は主に地方の名産物を「かわいい」をテーマにプロデュースしていく。それだけではなく、慶応義塾大学の大学院にて特任助教まで務める。会場では「パラレルキャリアの代表格」と紹介されていた。

「会社に勤めるなんて考えたこともなかった」と話すアーティストの中村さんと違って、正能さんのお話は実業家の視点が強い。ハピキラFACTORYを創業したのは大学生のときで、当時は地方創生がブームだった。正能さんはブームに乗る形で起業。長野県で老舗の菓子店と組み、バレンタインの商品を作り、渋谷で販売したことが始まりだった。

「世の中には扉がふたつあるんです。」正能さんは創業したころを例に挙げて語る。「ひとつめの扉は、周りの環境で勝手に扉が開くんです。地方創生ブームがそれでした。そこには本物の大人と、本物じゃない大人が混在しているんです。」

正能さんは独特のたとえ話で、時代の流れや環境の変化から入り込んだ人たちを話す。会場からは「本物の大人とは?」と質問も上がったが、おそらく地方創生ブームのときに、ブームに乗っているだけの人と、本当に何をやるかを見越している人がいたのだろう。「ふたつ目の扉は、自分の扉を開ける人ですね。自分の意志で開ける人。」と、そのあとを語った。

そんな正能さんにとって、トークテーマである仲間とはどういうふうに付き合っているのか?「私の会社は友達と7年やっているんです。揉めたこともない。「私たちにとって、どれがいいと思う?」ってやり取りをしているから、対立しないんです。」

正能さんは「揉めたくないから、メンバーを増やさない」と強調していた。「会社を大きくしていくことは幸せなの?幸せの規模は保ちたいんです。」たとえばスターバックスのような大企業になれば、創業者の手の届かいところでも事業が展開される。それが嫌だという。

会社の規模を、自分の手の届く範囲に収めることについて「“誇り高き小ささ”をどうしたら保っていけるか」と正能さんはまとめた。最近、創業者が本来適正である規模の会社経営を越えて、大きくしてしまったことで、かえって本来の事業ができなくなるケースを見たため、やけにこの言葉は重く聞こえた。

正能さんが会社員でありながら、企業経営をする背景には、自分の適正規模で事業を続けていくためもあるのかもしれない。会社はおおよそ拡大させ続けざるを得ない背景もあり、適正規模を保つ難しさがあるからだ。

組織とクリエイティブの関係

中村さんや正能さんは、どうあれ個人をベースに自分の活動を広げてきた人たちだ。

でも会社に所属して、組織をベースに活動していくならば?「もともと独立する気はなかったんです」 Enhanceの代表を務める水口哲也さんは、会社員としてクリエイティブを行う難しさを口にしている。

「前に70人くらいの会社で、チーフみたいな立場でやっていたんです。みんな会社員的。クリエイティブを突き詰めていくと、会社員というシステムと相性が悪い。不健康な感じがするんです。」水口さんはかつてセガに在籍し、『スペースチャンネル5』や『Rez』をディレクションしていた経験を持つ。

「クリエイティブではできる奴から辞めていくんです。「俺のほうがやってるのに評価されない」みたいな。ひとつの会社に縛られるよりも、いろんな経験で繋がっていたほうが幸せではないかと。」

後半のセッションでは、そんな水口さんを司会にPARTYの川村真司さんと、元ほぼ日のCFOを務めていた篠田真貴子さんから、新しい組織からクリエイティブをすることをテーマにお話をうかがっていた。

「僕も作りたいものが先にありました。」川村さんはそう言う。彼の所属するPARTYとは、プロダクトやサービス、エンターテインメントなどを作る会社だ。所属しているメンバーもクリエイティブに関してブランドを持っている人が集まっている。

会社組織とクリエイティブは、その職能上バッティングしてしまうことがある。そこをどうしているかというと、まずPARTYに所属するメンバー全員がファウンダーという構造を取っているという。

水口さんは「個性の強いメンバーで、どうやってやっていくの?」と質問したところ、川村さんは逆に「PARTYが回っているのは、個性がバラバラだったからです。」と返した。「スーパーグループ的に始めて、一緒に演奏しようぜって感じではなくて、無理しなかったのが上手くいきました。」

しかし、会社の財務を管理するCFOを抜きにスタートしているのもあり、川村さんは「学びながら働いていましたね」とも語っていた。水口さんは組織でクリエイティブをやっていくために、必要なことやニーズについてを篠田さんに伺ったところ、「何を成したいかで決めていると、上手くいきやすいですね」と答えた。

会社組織ベースで“クリエイティブ”の新しい組織作りを評価する限界

水口さんは、篠田さんが翻訳した「ALLIANCE アライアンス」に強く影響を受けたそうだ。「終身雇用から、終身信用へ」というコピーで、Paypalのスタートアップに関わり、LinkedInの創業者であるリード・ホフマンが提唱する新しい雇用の形をまとめた本だ。

「アライアンスとは”同盟”という意味です。同じ立場で同盟を結ぶように、仕事の関係を結んでいくんです。」旧来の会社と従業員の雇用関係ではない方法に、水口さんや川村さんはいたく共感していた。

クリエイティブを組織で行う場合、ひとつの答えは“同盟”なのかもしれない。実際に水口さんが経営するEnhanceでは社員がゼロだという。様々なクリエイターとプロジェクトごとに個別契約するかたちでコンテンツ制作を行うスタイルを取っているそうだ。

契約するクリエイターは納税や確定申告、必要経費の管理もすべて自身で行ってもらうとのことで、フリーランスであればよくわかる仕事の流れだと思われる。ただ、やっていることはクリエイティブである。

現在、クリエイティブ系の会社では、事業内容がやはり会社経営とはバッティングしていることに気づいていて、社員全員をフリーランスにするといった動きも観られる。しかし、少なくともインターネット上ではあまり歓迎した言葉は観られない。経営者側が福利厚生といった保証から逃げ、クリエイターを使いつぶそうとすることも可能な形態とも言えるからだ。(社会保障の分、ギャランティを上乗せできているのかみたいな批判なんて多数だ)

たいていの意見が会社の構造をベースに見ているので、こうしたアライアンス的な流れを評価する言葉は出てきていない。実際、日本でクリエイティブ系が使いつぶされるケースが数多く見られるせいもあるのかもしれない。

たとえばアニメ業界のように、アニメーターを個人事業主として契約することで、労働基準法を無視して低賃金で使いつぶしてしまう問題がある。またクリエイターもプロジェクトに関わる際に、契約の確認やギャランティの交渉といった、自分の権利を守るための動きをやれていないこともあるかもしれない。結果、会社ベースによる評価になり、「クリエイターの搾取だ」みたいな不幸がしばしば語られる。 

どうあれ、いまクリエイティブ系でアライアンス式(≒フリーランスのクリエイターをプロジェクトごとに契約する形)を行うところは、関係者はみんな雇用による給与や社会保障や福利厚生による安定以上に、ものを作るうえでの不幸が遥かに上回っていることを自覚しているのだと思う。なので、この形で仕事をしていくことを受け入れているのだろう。
 
旧来の会社でクリエイティブをやることの不幸であったり、会社を拡大させざるを得ない不幸があったりするのだろう。Trialogではクリエイターの幸福はなにかについても語られていた。少なくともクリエイティブ系では、新しい組織の形を見出そうとしているのがわかるセッションと言える。ほかの事業でアライアンスが可能かどうかは、日本ではまだわからない。

© 2018 trialog project

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この記事を書いた人

葛西祝のアバター 葛西祝 ジャンル複合ライティング業者

ジャンル複合ライティング業者。IGN JapanGame Sparkなど各種メディアへ寄稿中。個人リンク: 公式サイト&ポートフォリオ/Twitter/note