(by とら猫

一番好きなクイーンの曲を選べ、という問いは自分にとって、一番好きなビートルズの曲を選べ、という問いと同じくらい即答するのが難しい。

フレディに敬意を表するのであれば、「狂気と天才は紙一重」の凄みを体現するソングライティング能力に度肝を抜かれる“March of the Black Queen”がまず、思い浮かぶ。

静かなピアノの導入に続いて、心地よく歪んだギター、フレディの濃密なヴォーカルが転がり込み、強迫観念めいた目まぐるしさで展開していくこの病的にドラマチックな一曲は、分厚いコーラスワークや組曲風の構成など、その後の “Bohemian Rhapsody”と通ずる要素も多い。ガンズのアクセルのお気に入りでもある。ファンタジーな歌詞は中二っぽい。

その一方で、ブライアンらしい誠実なメロディが胸を打つ“Save Me”も、フルコーラス歌えるくらい好きだし(フレディが鳩になって飛んでいくビデオもいい)、最強の伏兵ジョン・ディーコンのポップセンスが弾ける“Spread Your Wings”もいまだによく聴く。“We are the Champions”や“Friends Will Be Friends”といった強力なシンガロングチューンも外せないし、“Don’t Stop Me Now”や“Under Pressure”なんかはカラオケではマストだ。“Stone Cold Crazy”や“I Want It All”といった、ブライアンのジミヘン魂が疾走するハードなナンバーも捨てがたい。

と、少し考えただけでも、軽く十指に余ってしまう勢いである。

それでもあえて一曲だけを選ぶとしたら、私なんかは“The Show Must Go On”を挙げたい。

フレディ存命時のラストアルバム『Innuendo』の最後に収録された、まさにバンドのキャリアを締めくくる、壮大で、華麗な、これぞクイーンといったロックバラードだ。

まずもってフレディの声が素晴らしい。『Innuendo』からクイーンにのめり込んだ私は、中学の頃に初めてこの曲を聴いて、「世界にはこんなハンパないシンガーがいるのか」と鳥肌が三倍増しで立った。後からフレディの病状がかなり進んでいる中でのレコーディングだったと知り、よけい驚いた。

その声は、とても死を目前にした人間のそれではない。燃え尽きようとしている命の弱々しさなどみじんも感じさせず、むしろ希望と、生命力が燃えたぎっている。この頃のフレディはなるべく多くのレコーディングを遺しておこうと、文字どおり歌うために生きていた。歌うことこそが、日々のすべてだった。

そうした状況にある者だけが知りうる諦念や、覚悟が、ただでさえ強靭なフレディのヴォーカルをいっそう研ぎ澄まさせ、キャリアを通じて最高のコンディションへと押し上げている。皮肉だけれど。

だからこそ『Innuendo』で聴けるフレディの声は、過去のどのアルバムとも似ていない。張りも、伸びも、声量も、声域も、表現力も、すべてが尋常ではない次元に達していて、事実上のラストアルバムを鬼気迫るレベルで輝かせている。

この頃のクイーンはどの曲にも、作曲を主導したメンバーではなく、「クイーン」のクレジットを載せることで統一していた。なので“The Show Must Go On”の真の作曲者は誰かわからないのだが(曲調からはブライアンっぽいけど)、一説によると、同曲は四人のメンバーがそれぞれコードやメロディを持ち寄って、四人五脚で創り上げていったらしい。

“The Show Must Go On”でフレディは「心が壊れ、メイクが剥げても、ぼくの笑顔は消えずに残る」と歌い、「ぼくは飛べるんだ」と突き抜けるようなハイトーンで宣言し、「笑顔で向き合ってやる」「絶対あきらめない」「ショウを続けないとだめなんだ」と力強く締めくくる。

ステージに生きるパフォーマーの悲壮な決意が伝わってくるその歌詞を、当時死期が迫っていたフレディの姿と重ね合わせることは避けられない。実際『Innuendo』にはグループのキャリアを回想するような曲も多いし、同曲がそんなアルバムの最後に置かれていることを考えたら、“The Show Must Go On”は文字どおり、「自分は永遠にパフォーマーだ」というフレディからファンへの遺言だったのかもしれない。

“The Show Must Go On”がシングルとしてリリースされてから一か月後、フレディは帰らぬ人となった。

それから三十年が経った今も、ジョンを除いた女王たちはステージに立ち続け、世代を超えて人々の心を揺さぶっている。

フレディがその残された命をすべて込めて歌ったように、ショウはまだ終わっていないのだ。

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(c) Queen

 

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