(by こばやしななこ

「たとえ辛い時も信じていれば夢は叶うもの」

ディズニーアニメ版『シンデレラ』が伝えるメッセージはこれに尽きる。描かれているのはどんな境遇にあっても卑屈になることなく、夢を諦めず優しく誠実でいる人の魅力だ。私は何度も何度も「たとえ辛い時も信じていれば夢は叶うもの」とシンデレラが歌う歌詞を口ずさみながら逆境を乗りきり自立心の強い女性に成長した。だからシンデレラは現代にも通用するストーリーだ。

……とシンデレラを愛する者としては言いたいのだが、今の時代、やっぱり無理がある。

それはシンデレラが叶える夢が「王子様と結婚してお城に住む」ことだから。この夢は、女性が生きていく方法が結婚以外になかった時代の夢だ。それを現代の子どもにすり込むことが良いとは、さすがに言いきれない。

シンデレラを大切に思う気持ちと時代にそぐわないという気持ちの狭間で苦しんできた。だから今回、結婚ではない夢を持ったシンデレラが作られて胸がいっぱいだ。シンデレラ最高!!と、やっと堂々と言える。

Amazonプライムで独占配信された新しいミュージカル版『シンデレラ』は、今に通用するおとぎ話だ。主人公のシンデレラが「ドレスを作って生きて行く」という夢を叶える話にアップデートされていた。

魔法使いが出てきてシンデレラを変身させる場面では「アンタはわかってる!わかってる!」とキャスティング担当者に叫びたくなった。なんてったってフェアリー・ゴッドマザー(魔法使い)がビリー・ポーターなのだ!!これ以上にいいキャスティングあるか?役名はファビュラス・ゴッドマザー。

彼をあまり知らない人もいるだろう。単に多様性の象徴として、ドレスを着たゲイの黒人男性が起用されたように見えるかもしれない。私は今、ビリー・ポーターがなぜ魔法使いに適任か語りたくてたまらないので3つほど理由を書かせてください。

まず1つ目はビリー・ポーターが脚光を浴びたきっかけがミュージカル版『キンキー・ブーツ』であることだ。

『キンキー・ブーツ』のあらすじを軽く。倒産の危機にある昔ながらの靴工場を継いだ青年が、ドラァグクイーンであるローラと出会ったことで靴工場をドラァグクイーン用ハイヒール工場にすることに決める。ローラのデザインしたハイヒールを作り品評会を成功させ、新規市場を開拓できた工場は倒産せずにすむという話だ。

ビリー・ポーターは『キンキー・ブーツ』でローラ役に起用され、舞台は爆発的にヒットした。さらに彼はこの役でトニー賞の主演男優賞をとり、世界に広く認知された。

ビリー・ポーターが演じたローラという人物は、主人公がピンチの時に現れ魔法の靴=ハイヒールを授けて主人公を救う。シンデレラが舞踏会に行くことを諦めようとした時に現れ、ガラスの靴を与える魔法使いと重なる。

2つ目は最近のビリー・ポーターの代表作『POSE(ポーズ)』の役所だ。『POSE』は80年代のニューヨークのLGBTコミュニティを題材にしたドラマだ。当時、実際にニューヨークでは週末になると黒人やラテン系の人種を中心とするゲイやトランスジェンダーがクラブに集い「ボール」と呼ばれるコンテストを開催していた。「エリート会社員」「王族」など様々なカテゴリがあり、各自が出られそうなカテゴリに出場する。ファッション・メイク・歩き方などがどれだけ本物らしいか審査員に採点され、優勝者が決まるシステムだ。ボールは日本語に訳すなら舞踏会。

ビリー・ポーターはこのドラマで、ボールを主催する司会者を演じている。出場者がいるフロアから一段上がったステージで場を仕切る、ボールの案内人だ。そしてイベントに参加するLGBTコミュニティみんなの父であり、母であるような存在なのだ。

魔法使いはシンデレラを舞踏会=ボールに連れて行く役割だし、役名にゴッドマザーと付くくらいだから母的な懐の深さもないといけない。これらの要素は『POSE』のビリー・ポーターの役割と一致する。

3つ目の理由は、普段彼が披露している衣装の着こなしだ。アカデミー賞、グラミー賞、メットガラなどドレスアップしたスターが勢揃いする場でビリー・ポーターのファッションはひときわ注目を集めてきた。彼のスタイルはパンツスタイルの時もドレス姿の時もゴージャス。ドレスを着ると言っても女装をするわけではなく、男性として素晴らしい着こなしをする。代表的なのは2019年のアカデミー賞で披露した上半身がタキシード、下がボールガウンドレス(舞踏会で着用するフォーマルなドレス)になっていた衣装。男性性と女性性のいいとこ取りのようなドレスで、私は目を奪われた。

今回のミュージカル版『シンデレラ』では、シンデレラはドレスを自作していていつか店を持つことを夢見ている。魔法使いは人一倍ドレスへのこだわりが強いシンデレラに舞踏会用ドレスを与えるんだから、ファッション上級者でなくちゃ困るのである。

映画ではシンデレラが描いたデザイン画の一枚が、魔法で実際のドレスに変わる。もし魔法使いがファッションに無頓着ならどうだろう。魔法でドレス姿に変身したシンデレラが「たくさんあったのにこのチョイス?」とか「全然イメージと違うんだけど……」と微妙な顔をする事になる。ビリー・ポーターなら最適なデザインをチョイスし、そのデザインを最高のドレスに仕上げるに決まってる。

ここまで言って気が済んだので、そろそろ黙ろうと思う。ビリー・ポーターが安心と信頼のファビュラス・ゴッドマザーだとおわかりいただけただろうか。

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(C)Amazon Studios
Amazon Prime Video独占配信ページ

 

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