【映画エッセイ】永遠に間宮千昭に恋する夏にいたかった『時をかける少女』

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間宮千昭という男は、「完璧な初恋」そのものだと思う。
説明など不要かと思いますが、映画『時をかける少女』の、「未来で待ってる」でおなじみの間宮千昭の話をしています。

多くの思春期女子の心を華麗に奪い去っていった初恋泥棒こと間宮千昭に、ご多分に漏れず私もハートを持っていかれた。つまり映画の公開された2006年以降の私は心のないブリキの木こりであり、その心は今も千昭のいる遥か未来にあるわけです。

念のため映画のあらすじを説明します。
主人公は、ひょんなことからタイムリープの力を手に入れた女子高生・紺野真琴。能力を使っては都合のいいように過去を変えていた真琴だったけれど、親友の間宮千昭から告白されたのをなかったことにした時から歯車が狂いだす。
それまで軽い気持ちで消してきた過去はなんだったのか。かけがえのないものはその中にあったんじゃないか。
もう大切なものを取りこぼさないために、真琴は過去を変えるべく再び走り出す――。
そんな爆裂さわやか夏の決定版名作青春アニメ映画が『時をかける少女』です。
そして、この間宮千昭という男が超絶罪深い。

だって、間宮千昭ってば初恋相手として必要な要素しか持っていない。
顔がよくて体がおっきくていい意味でちょっと変わっていて、そこにいるだけでなんとなく注目を集めて。
素直じゃないのにまっすぐで、察しが悪いのにいざという時は絶対に現れて助けてくれて。
時々はっとするほど大人びていて、でも年相応にガキでバカで。
かっこよくてかわいくて一途で。
そんな男が17才の夏、目の前に現れたらそれはもう真琴じゃなくたって“無理”ってもんでしょうよ。

当時中学生だった私も当然無理で、当たり前のように間宮千昭に恋に落とされ、何度も映画を観ては何度も未来へ見送ってきた。泣きながら。

「未来で待ってる」ったってお前それ、もう会えないやつじゃん。
わかってるくせにそういうこと言うじゃん。
一回画面外に去ったくせに戻ってくるな! 耳元で囁くな! 髪をぐしゃってするな! 最後の最後まで容赦なく恋の崖に突き落としたまんま未来に帰るな馬鹿! 好きだ!

失礼、取り乱しました。
とにかく、間宮千昭は未来に帰ってしまう。絶対に。
真琴とようやく気持ちが通じ合った、そのすぐ後に。
これこそが、初恋泥棒・間宮千昭の本当にずるいところで、完璧なところだ。

もしこの映画が、真琴と千昭が結ばれる物語だったら。あるいはもっと先があって二人が再会したら。そしたらもうダメなのだ。
だって、手に入ったら色褪せてしまうから。
叶ったら陳腐になってしまうから。
初恋って残酷だから。

だってさ、実際に千昭と付き合ったらめちゃめちゃ苦労してめちゃめちゃケンカして三ヵ月か半年で別れることになりそうじゃないですか?
実際、大人になってから『時をかける少女』を観たら、「千昭と結婚はできねえな」と思ってしまったよね。

だからこそ、一番きれいな景色の中で、一番きれいな気持ちの時に、真琴の頭を撫でて去っていった間宮千昭は初恋として完璧なのだ。
初恋の一番いいところを鮮やかに切り出して持ち去った間宮千昭は、完璧に正しい。

そして。
「未来で待ってる」と言われて「すぐ行く、走って行く」と答えることのできた真琴の強さが、今になって本当にまぶしい。
しかもこのシーンで真琴は笑うんですよ。二人を隔てる時間が絶望的に長いとわかってるのに、それでも真琴にとって、好きな人に向かって走って行けるということは希望なんです。
10年以上の時を経て再認識した。
やっぱり千昭には真琴がふさわしい。
待ってられない未来に向かって、まっすぐ駆けだしていける真琴が。

ああ、でも叶うなら、ずっとあの夏にいたかったなあ。
真琴と一緒に間宮千昭に恋してたあの夏に。

++++
(c)「時をかける少女」製作委員会2006
映画『時をかける少女』公式サイト

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この記事を書いた人

音楽メインにエンタメ全般をカバーするライター。rockin'onなどへ寄稿中。個人リンク: note/Twitter