【エッセイ】14歳の私と堂本剛くん~かつてアイドルに本気の恋をした全ての人を肯定したい~

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「アイドルを本気で好きになりました。どうすればいいですか?」

やべえ台詞だ。痛々しい。見るに堪えない。
けれどこれは14歳の私だった。

KinKi Kidsを知った時期を覚えていない。あまりに当たり前に、ブラウン管の向こうの人気者として彼は現れた。中学生の私がレンタルビデオ店で借りたのはドラマ「人間・失格~例えば僕が死んだら~」だった。濃い眉と強いまなざしで男性的な顔つきをしていながら、そこに翳る繊細さに釘づけになった。

それから私はクラスの女子が騒ぐ「ジャニーズ」なる文化に足を踏み入れ、堂本剛くんに夢中になった。個性的なファッション、伸びやかな歌声、お調子者に見せていてもふと漂う哀愁。その頃から剛くんはソロとして音楽活動も始めており、私は誕生日に親から貰った5000円札を握りしめてソロアルバム「ROSSO E AZZURRO」を買いに自転車を走らせたのだった。

彼を好きになった一番の理由はその儚さだった。憂いを帯びた表情をすることが多く、こんなに成功した人でも物哀しそうにするのかと驚いた。「心配」から派生する「愛情」は私の知らない手触りだった。

あの頃の剛くんは何かに抗ってもがいているように見えた。番組の企画で始めたギターを機に自分で曲を書くようになり、その曲はどれも嘆きを孕んでいて、ジャニーズのグループが歌う「夢」や「希望」や「君の笑顔」をかき混ぜたような歌詞は一つも見当たらなかったからだ。

そして田舎のガキンチョの私はあろうことかその孤独を理解しているような気になっていた。どの口が言うんだと言われそうだが、テレビで歌う彼を見て「きっと強い信念があり、同時にとても傷つきやすい人なのだろう」と真剣に思っていた。

当時松浦亜弥と椎名林檎の「作られた強さ」に魅了されていた私にとって、人の、それも異性の「弱さ」に惹かれたのは初めての経験だった。

14歳の私には恋が分からなかった。すでに異性の目を気にしていたし、音楽室の窓からサッカー部のかっこいい先輩を見下ろしては騒いでいたのに、ピンク色で塗りつぶされる恋や愛の概念が分からなかった。髪を伸ばしてメガネをコンタクトにしたら、女子からは「中学デビュー」と陰口を叩かれ男子からは告白された。これが恋とか愛とかいうやつが育つ前の種なんだろうか。

けれど剛くんのことばかり四六時中考えてしまうようになってから、これは恋なんだという確信があった。いつか暮らしの中で彼に出会えないだろうかとか、そのためには東京で仕事をしなくちゃとか、東京で働くなら英語ができなきゃダメなんだとか(意味が分からない)、ばかみたいにさまざまな人生をシミュレーションしては理想の未来を選択肢としてコレクションした。

ある日、こじらせた私は音楽の先生に尋ねた。

「アイドルを本気で好きになりました。どうすればいいですか?」

赤いリップを唇からはみでるほど塗っていたその人は、目の前の幼さに微笑んだ。

「それは本当の恋ではないですよ。大丈夫、あなたもいつか本当の恋を知ることになる」

年を重ねるにつれて、先生の言う「本当の恋」が日常にごろごろと転がるようになって、それまでの恋愛ごっこに心と体が追いつくようになった。剛くんへの興味は自然と薄れていき、CDも買わなくなって番組も録画しなくなった。

「剛くん。私が大人になるまで誰とも結婚しないで」と本気で星に願っていたのに、気づけば9歳年下の私の方が先に結婚して子供もできた。それでもテレビから歌声が聴こえるとそれがたとえ新曲でもすぐに剛くんだと言い当てることができた。きっと脳の一番底の面に刷り込まれているんだろう。

そして2020年。コロナ感染症拡大という未曾有の事態に直面している苦しい日々の中で、あるツイートが目に飛び込んだ。「剛くんがラジオで泣いていた」。慌ててラジオ番組「堂本剛とFashion&MusicBook」をradikoで検索するとまだ過去放送が残っていた。

剛くんがリスナーからのお便りを複数読み上げながら声を震わせて泣いていた。どのリスナーも「剛くんから元気をもらっています」「剛くんいつもありがとう」と彼に文字で伝える。それを茶化さずまっすぐに受け止める彼の、身に纏う哀しみや大きな愛というものを、まざまざと見せつけられた気がした。彼は”やっぱり”優しい人で、傷つきやすい人。そういうところが”本気で”好きだったのだと14歳の私が誇らしげにしていて、大きく胸が震えた。

たまらなかった。14歳の自分の前に両手を広げて、背中で守った。そして熱く叫びたくなった。
先生。あれはやっぱり本当の恋だったと思います。

アイドルが私たちにくれるもの。それは明日を生きる活力。
大好きなアイドルが笑っているだけで心細い気持ちが和らいでいく。
最近、悲しいニュースが続いている。表舞台に立つ方が身も心も潰される時、こんなにも大きな「応援」が届かないものかと自分の無力さに落胆する。私たちは彼らに何か一つでも返せているのだろうか?

「厨二病」「黒歴史」という蓋で隠していた剛くんの記憶が、2020年の今、ラジオを通して時を超えて酸素を取り戻した。その抱えきれないほどの恋心は剛くんには届かなかったかもしれない。けれど「あれはやっぱり本当の恋だった」と確信できた時、過去の自分を100点満点で肯定してやれた気がしたのだ。

だからもしアイドルに恋をしているあなたが目の前に現れたら、その想いをあますことなくどこかに書き留めておいてほしいと伝えたい。それがやがてアイドル自身だけでなく、自分自身を守る大きな盾になるように願いをこめて。
過去にアイドルに恋をした全ての人を肯定すること。それが私の見つけた幸福論だった。相手が実生活にいようがテレビの向こうにいようが人を愛する気持ちに上も下もない。その証拠に、アイドルは、どこかの誰かのために今日も在るのだから。

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画像提供 by Mayumi Hiwada

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