(by 満島エリオ

今やすっかり国民的アーティストとなった星野源。

作詞作曲歌唱はもとより、ダンスも踊れる、演技もできる、ギターをはじめ多数の楽器を演奏できて、しゃべりも達者な上に文筆業までこなす。マルチというか、ここまでくるともはや無敵だ。

日本の音楽のトップを牽引する一人となり、もはやこの国で知らない人はいないのではとすら思われる「無敵の男」。けれど、ラジオで喋りだせば下ネタを連発し、東京ドームにパーカーで立ち、顔をくしゃくしゃにして笑う姿はどこまでも自然体だ。その屈託ない笑みはするりと心に入り込んで、気づけばこちらまで笑わされている。誰より自分が率先して楽しんで、それを周りに伝染させる。エンターテイナーという呼び名は、彼にこそふさわしい。

そんな星野源の真髄を見せられた曲がある。それが“地獄でなぜ悪い”だ。

この曲は、目の覚めるようなホーンセクションと超絶技巧のピアノが跳ね回り、かき鳴らされる狂乱の音の上を星野源の歌声が楽しげに伸びてゆく、ジャズテイストのにぎやかな1曲。

MVのアニメーションも秀逸だ。

描かれるのは入院中らしき少年の妄想世界。その中で彼は八等身の劇画タッチのハードボイルドな男で、女にモテまくりモンスターをバッタバッタと薙ぎ倒す。中学生男子の頭の中をそのまま映像化したような、秩序も理屈もない冒険活劇。

きっとその荒唐無稽さとバカバカしさに度肝を抜かれるし、それ以上に痛快な気分になるはずだ。ぜひ一度、このトレイラーを見ることをおすすめする。

ところで、この”地獄でなぜ悪い”は、2013年10月にリリースされている。

2012年末、星野源はくも膜下出血で倒れ、活動休止。翌3月に復帰するも、その後の検査入院で再発が見つかり、6月に再度休養、再手術している。この曲の詞は、その検査入院の時期に書かれたものだ。

そう思って聴いた時、この曲は一気にその様相を変える。

≪いつも夢の中で 痛みから逃げてる/あの娘の裸とか 単純な温もりだけを思い出す≫
≪作り物で悪いか 目の前を染めて広がる/動けない場所からいつか 明日を掴んで立つ≫

躍り出したくなるような狂騒のメロディ。バカバカしいほど荒唐無稽な妄想世界。

それらは、命を、アーティスト生命を、運命の秤の上に乗せられながら星野源が生み出したものだ。

先ほどトレイラーを見ることをおすすめする、なんて言ったけど、訂正する。どうか見てほしい。必ず、最後まで。

できればこの文章を読み進める前に自分の目で見てほしいのだけれど、このトレイラーのラストにはとある場面が収録されている。それは、手術から数日後の、まだ痛みのさなかにある星野源の姿を映した映像だ。

*

維持液のパックと、そこに書かれた「星野源様」という文字。
『源くん。大丈夫?』
撮影者の声。
ベッドの上で点滴に繋がれた、痩せた体。顔は映らない。
ゆっくりと震えるように右腕が上がり、二本の指がぎこちなく伸び、そして。
ピース。

*

初めてこれを見た時、言葉が出なかった。

こんなにも純化された、極限のエンターテインメントを私は他に知らない。
バカバカしくて無茶苦茶で、強がりで嘘っぱちで。
それのなにが悪い。最後には人を勇気づけてくれるのがエンタメならば、この曲は紛れもなくエンターテインメントだ。この人は最高の、エンターテイナーだ。

≪動けない場所から君を 同じ地獄で待つ≫

生きることは、時に地獄なのかもしれない。
いや、楽しいことが時々起こるだけで、この世こそが地獄なのかもしれない。

けれど、地獄の底でこんなピースサインが待ち受けていたら、私はきっと笑ってしまう。笑って、そしてそこからまた立ち上がることができる気がするのだ。

地獄でなぜ悪い、とうそぶきながら。

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