
(by 冬日さつき)
蛙田アメコさんが記事の中で書いていた、「『アメリ』に罪はないけれど」という一文で、わたしは中学時代のことを思い出していた。
わたしは田舎の公立中学に通っていた。学級崩壊をするようなレベルではないけれど、公立ということもあって、いろんな生徒がクラスにいた。いじめは常に横行していて、わるいことに、一部の先生はそれを黙認しているような状況があった。わたしは運よくスクールカーストの外れみたいなところにいたから、だれとでも仲良くしたけれど、だれとも仲良くはなかった。
クラスのあるグループの中で、「赤札」という仕組みがあった。少女漫画から来ているらしいけれど、それを靴箱に貼られた人は、別の人に次の赤札が貼られるまで、いじめのターゲットになるというもの。きのうまで仲良く笑顔で話していた友だちが、とつぜんいじめっこになってしまう。だけれどそれはグループ内で起こるため、だれしもがいじめっこ、いじめられっこになりつづける。
どうしてそんなものが出来上がったのかわからないけれど、彼女たちは、いじめをやめることはできない代わりに、じぶんたちを順番にいじめあった。今思うと、それは妥協案のひとつだったのかもしれない。
わたしはというと、中学校でほんとうの友だちをみつけることを早々にあきらめて、ひたすら放課後レンタルビデオ店に通い、家で映画を観続けていた。生徒のだれよりも、靴箱にはやくたどり着き、家に帰った。
はやいうちからインターネットで遊んでいたというのも理由にあったかもしれない。まわりの人びとを幼稚だと決めつけていたのかもしれない。放課後だれとも遊ばずに、レンタルビデオ店でパッケージの裏をとにかく読んだ。そしてわたしは「ミニシアター系」と分けられたジャンルをとりわけ好きになった。そのなかに、『アメリ』はあった。
冒頭の記事のように、「『アメリ』が好きそう」と言われて、あまりいい気分にならないのはとてもよくわかる。勝手にカテゴライズされているような感じがするし、それにはすこし、嘲笑も含まれている。たとえばわたしが「プログレが好きそうだね」と言われたら、それはただおどろいて、どうしてわかったのかと興味を持ってしまうかもしれないけれど、「椎名林檎が好きそうだね」と言われたら、嫌いではなくても、露骨にいやな顔をしてしまうかもしれない。
主人公のアメリ・プーランは、医師である父に心臓に障害があると診断され、学校ではなく母親に勉強を教えられていた。それゆえに周囲のコミュニケーションが足りないまま育ったが、想像力はとても豊かだった。その母親もすぐに事故で亡くなってしまい、父親とふたりで暮らすことになるが、大人になったアメリは一人暮らしをすることを決意する。
“空想好きの女性アメリは、ある出来事から他人を幸せにする喜びに目覚め、人々に様々なおせっかいを始めていく。”
同じく幼いころから空想好きだったわたしは、始まってからものの5分で、これはわたしにとって意味のある映画だと決定づけた。
どこかでじぶんには欠陥があるのだと感じていたのかもしれない。クラスメイトはこんなふうに映画を狂ったように観ず、いじめに疑問を持たず、今だけを楽しんでいる。わたしには当時ほんとうの友だちといえる人はひとりもおらず、借りたDVDを持って家に帰り、夜ごはんをたべてからすこし眠り、宿題をして、またすこし眠り、深夜まで映画を観た。人とのコミュニケーションを避けていることを自覚していた。
アメリの趣味はいい石をみつけて、水切りをすること。そして証明写真のボックス下に捨てられた他人の証明写真を集める趣味を持つニノに出会い、物語は進んでいく。
アメリはあきらかにわたしのようで、物語の中ではそれでも不幸だとは描かれない。それがよかった。本人がそれに自覚するシーンがあっても、まわりから見てさみしい人だとも描かれていない。変な人だとも描かれていない。ただ、もうすこしたまには空想の外に出ていく必要があった。アメリも、わたしも。

大人になってからも、じぶんがさみしい人のように感じるたびにアメリを観た。そのたびにわたしは思い出す。わたしはこのままでいいのだと。アメリのように、じぶんのやり方で世界とつながることができるのだと。そうしてすぐに安心して、また日々の暮らしにもどっていく。
最後に、もしわたしが『アメリ』に登場するとしたら、どんなふうにするだろうとずっと考えていた自己紹介でこの記事を締めくくろうと思う。気になった人は、冒頭の5分だけでもいいから観てみてほしい。そこで好きだと感じたら、きっとアメリはあなたのための映画だと思うから。
「冬日氏の嫌いなこと、床に物が散らばっていること、だれも疑わないが意味のないルールに従わされること、朝帰りをすること。好きなこと、閉店後に従業員同士がたのしく話すインドカレー屋さんをのぞくこと、こぼれた油にできる虹を見ること、体育祭のときの静かな教室にいること。」
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