【アイドルエッセイ】豆柴の大群~お笑い番組が生んだ異色アイドルは、勝利の法則を知っていた~

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2019年12月、異色のアイドルグループがデビューした。人気お笑い番組「水曜日のダウンタウン」内のオーディションを勝ち抜いた4人の少女で構成されたアイドル「豆柴の大群」。お笑いトリオ「安田大サーカス」のクロちゃんがプロデュースすることが話題を呼び、大手音楽事務所WACKの全面協力というから注目度は高い。

オーディションでは、脱落への恐怖とクロちゃんのセクハラやモラハラに耐えながら、アイドルとしてデビューしたいという強い気持ちを持ち続けたメンバーたち。その夢のためならば、クロちゃんとの疑似恋愛をもいとわない覚悟のある者もいた。

そうして晴れてデビューを勝ち取った4人だったが、1stシングルにはある仕掛けがあった。メンバーにセクハラ・モラハラをした上、メンバー同士の仲違いのきっかけを作ったプロデューサーのクロちゃんを「解任」とするか「続行」とするか。1stシングルを「解任ver」「解任&罰ver」「続行ver」と3種類に分け、その売り上げで決定することになったのだ。

応援されるアイドルグループを作るために必要なことは何だろう。その答えはファン、それも「アイドルを守る」という強い行動力を持ったファンを持つことである。メンバーに好き勝手してきたクロちゃんはいわば「必要悪」。悪役を立てることで結果的にファンの応援は加速し「解任&罰ver」は爆売れ。その上クロちゃんが私情を挟んで脱落させたメンバー・カエデが遅れて加入するというドラマも生まれた。そうして豆柴の大群は短期間で知名度を上げ、多くのファンに応援される人気グループとなった。

華々しくデビューした豆柴の大群だったが、正直ストーリーとしてはデビューがピークだという印象もあった。しかし番組にはもう一つの展開が用意されていた。今度は「再び豆柴の大群をプロデュースしたい」というクロちゃんの熱望により、その行く末を2種類の2ndシングルのPV再生回数で競うことが発表されたのである。クロちゃんのプロデュースした楽曲PVと、事務所のプロデュースした楽曲PVのどちらが支持されるか。メンバーの運命は再び視聴者やファンの手に委ねられたのである。

1stシングルと2ndシングルには共通すること、それは「アイドルの運命をファン(あるいは視聴者)が握っている」という点である。

1stシングルではアイドルを守りたいファンVSアイドルを傷つけたクロちゃん、2ndシングルでは元プロデューサー(クロちゃん)VS現プロデューサー(事務所)。豆柴の大群のメンバーたちはリングに立っていない。あくまでリングサイドでその結果を見守っている。メンバーが矢面に立つとどうしてもメンバーに非難の声がぶつけられてしまうので、この作戦はさすがとしか言いようがない。がんばってきたメンバーは愛の深いファンに守られ、安全な場所で伸び伸びとパフォーマンスができる。

悪役が立っていて、グループ自身がファンに守られ、メンバーの意思が運命に影響しない。これはアイドルの精神的純潔が叫ばれる不自由なエンタメ界の中で生きるための、勝利の法則といえるのではないだろうか。正義はオーディエンスの手の中にある。彼女らは変な主張をして自ら銃弾を浴びる必要はない。

結果的に2ndシングルは「クロちゃんプロデュースver」に軍配があがり、アドバイザーとして今後もグループ運営に大きく関わることとなった。どうやらこれからも豆柴の大群のドラマは続いていくようだ。クロちゃんという最低で最高の悪役が、彼女らの行く道に波乱を巻き起こすに違いない。

かわいいだけじゃない。異色なだけじゃない。「悪い虫から守りたい!」というファンの愛が、豆柴の大群の盾になる。そんな居場所を確立した彼女らの未来、危なっかしくて絶対に目が離せない。
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© 2020 MAMESHiBA NO TAiGUN
豆柴の大群 公式サイト

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