(by こばやしななこ

「そんな疲れた歩き方をしても誰も同情しませんよ。」

高校の部活帰り、商店街の本屋で立ち読みした本の一節にグサっと心をえぐられた。疲れると周りに気遣ってもらうためにすぐ「私は疲れていますよ」と全身からダダ漏らすような態度をとる自分を見透かされたようでいたたまれなかった。考えてみると、疲れた歩き方をした私を見て周りは「面倒で見苦しい奴だな」と思うだけで、いいことなんかあるはずないのだった。私にこの気づきを与えたのは、中原淳一の言葉だ。

しかし、染み付いた悪習はそう簡単には変わらない。月日が経ち大人になった私は、ちょっと嫌なことがあるといかにもげっそりとした表情を作り、首を前に突き出してみっともない歩き方をしてみせる女になっていた。本屋で中原淳一の言葉にハッとさせられてから10余年、『ドント・ウォーリー』という映画を観て改めて自分の愚かさを突きつけられることになる。

『ドント・ウォーリー』はアメリカの風刺漫画家であるジョン・キャラハンの自伝を映画化したものである。ジョン・キャラハンは事故により胸から下が麻痺した状態で漫画を描き始めた男だ。

元々キャラハンの自伝の映画化は、今は亡きロビン・ウィリアムズが生前に企画していたものだった。ロビン自身がキャラハンを演じる予定だった。2014年にロビンが亡くなった後、企画の相談を受けていたガス・ヴァン・サント監督がホアキン・フェニックスを主演に制作を進め、2018年に公開された。

ホアキン演じるキャラハンは、アルコールに溺れる日々を送っていた。その日、友人のデクスターと一緒にしこたま酒を飲んだ彼は、デクスターの飲酒運転する車で事故にあう。デクスターはかすり傷で済み、キャラハンだけが四肢麻痺になった。

壮絶なリハビリを乗り越え電動車椅子を乗り回すようになった後も、キャラハンのアルコール依存症は続く。救いを求め禁酒会のグループトークに参加したキャラハンは、13歳で酒を飲み始めたのは孤児として辛い思いをしてきたからだと語り、胸から下が動かない悲惨な現状もほのかにアピールした。その途端、同席していた女性がバカにしたように笑う。キャラハンは嘲笑にブチギレ、「お前にこの辛さがわかってたまるか!」と吠えた。怒り心頭に発したキャラハンに女性は「私は心臓にガンがあるの」と返す。そしてこうも。

And just let me tell you something about your “poor me”s, okay?
You keep it up, ”poor me, poor me,” and you’re gonna find yourself saying, ”Pour me another drink.”

日本語字幕ではこうなっている。

「あんたの自己憐憫に一言いわせて。自分を憐れんでるから“1杯注いで”ってなるのよ」

くだらない口実でアル中になった周りの依存症患者たちとは違って、自分は酒に溺れても仕方ない可哀想な人間なのだというキャラハンの態度を見透かした言葉だ。女性の言葉はキャラハンに刺さり、そして私にも相当に刺さった。大きな病も体の不自由さも辛い境遇も何もないのに、ちょっとした日々の不満からすぐ「可哀想な私」状態に陥る自分を恥ずかしいと思った。私が疲れた歩き方をするのはまさしく、自己憐憫そのものだ。

キャラハンは会に参加してから、少しずつ、少しずつ、人生を取り戻していく。もちろん禁酒会に参加したからって雷に打たれたように急に人が変わるわけもなく、相変わらず酒を求めたり、周囲に不満をぶちまけたりしちゃうこともあった。けど、少しずつ、確かに、変化は起きた。不自由な手で毒の効いた風刺漫画を描き、仲間と関係を築き、恋をして、長年手放せなかった怒りや憎しみから自分を解放するまでに。自己憐憫を捨てた彼には、四肢麻痺になる前より確実に美しい人生が待っていた。

映画を観た後も私は仕事の忙しさや体調の悪さを理由にまた、疲れた歩き方をするだろう。というか、親知らずを抜いて、痛いだの抗生物質の副作用で仕事に集中できないだのつい2日前まで騒ぎまくっていた。情けない。でも、気がついたタイミングで自分を憐れむのはやめたい。自分で自分を必要以上に不幸にすることはない。周りで助けてくれる人を無視せず、感謝して助けを求めよう。問題があればそれを解決するのみである。多少疲れていたってちゃんと背筋を伸ばして歩いていれば、一緒に歩きたいと思ってくれる人がいるはずだ。

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映画『ドント・ウォーリー』映画.comページ

 

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