(by みくりや佐代子

日頃から文章を書いている人間だけど「物書き以外の何らかに成りたい」と思ったのは一度や二度じゃない。それは、世に溢れる文章の中で「この人、好きやなあ」「この人、天才やんけ」と思うものを見つけた時、その文末にある「肩書き」に頬をビターンと叩かれるからである。

好きな書き手がいる。ちくまwebの連載「イルカも泳ぐわい。」の筆者、加納愛子さん。彼女はお笑い芸人。
そして、FASHIONSNAP.COMの連載「きっと誰も好きじゃない。」の筆者、高木美佑さん。彼女は写真家。

物書きではない人の綴る文章が、物書きの端くれの私よりもずっとずっと素晴らしい事実は、筆を持つ右手をますます鈍重にさせる。だって物書きの私が芸人さんより人を笑わせたり、写真家さんより美しい写真を撮ったりなんてことはまず出来ないし。

そうした現実に打ちのめされた時、絶望にさいなまれるよりもむしろ「学生時代特有の同性に憧れる一抹の慕情が、まだこの胸に残っているのだな」と感じて、それは案外すがすがしかった。

だから私は物書き以外の何かになって、そうして再びまた筆をとれば、憧れのあの人たちのように「今までとは違う形で」自分自身をやっと認められるのではないかと企むことがしばしばあった。

BadCats Weekly。当メディアに参画してもうすぐ1年が経つ。

はじめは自分の好きなエンタメ--アイドルやお笑いや邦ロックについて書く場所を求めて此処に辿り着いたのだけど、紆余曲折あり時々こうして日常エッセイを書かせていただくようになった。

その「エッセイ」について思うように書き進められなかった時、編集長のとら猫さんからとあるエッセイ本をオススメされた。岸本佐知子さんの「ひみつのしつもん」だった。

著者は有名な方なので名前はよく見聞きしていたけれども、それよりも強く走った直感は「加納さんの好きな作家だ!」だった。

私が「好きな書き手」として前述した加納愛子さん、そして彼女が以前インタビューで「好きな書き手」として挙げていたのが岸本佐知子さん。その経緯を知らずに岸本佐知子さんのエッセイをオススメしたのが編集長。それを受けたのが私。

特段ドラマチックな話でもないのに私の胸は興奮でわあっと湧きたった。

浮ついて不確かな世界の中で、遠い4人が勝手に輪になる。こんな縁があるのだからもはや全員友達でいいのでは? 同じ「くくり」でいいのでは? なんだか近所のファミレスで「この子、絶対気が合うと思ったから連れてきたんよ」と以前紹介されたような気すらしてきた。

脳からの指令と自覚する間もなく即座にAmazonを開き、私はその「友達の書いたエッセイ本」をポチリと購入ボタンを押した。すると請求額がAmazonギフト券から引かれた。そうだ、そういえば先日、ライター仲間のwebメディアで原稿を手伝ったら、御礼にとAmazonギフト券を貰ったのだった。

その瞬間、アドレナリンが勢いよく神経を伝って、今しがた組まれた輪が麻の紐からゴム製の紐へとより頑丈になった気がした。

「文章」を売ったお金で「文章」を買う。私の体から文字が出ていって、その体にまた文字が帰ってくる。ぐるぐるぐるぐる。その循環の中には、どうやら年齢も性別も生い立ちも肩書きも関係ないようだ。

「12月某日に到着予定」との通知を受けて、本を読む楽しみは先延ばしになった。新年すらも片手間で祝うところだったから、年末年始の楽しみがひとつ増えたのは大きい。こういう小さなサイクルの繰り返しで、人生は少しずつ上向きに延びていくのだと思う。

一方で楽しみを消費してしまった途端に、この日まで生きたことは物珍しくもなんともなくなるからほんとうに不思議。エンタメに生かさるる者は、エンタメの衰退とともに共倒れしてしまう、あやうくて健気な生き物なのである。

だからこそ「勝手に輪になること」の重要性を叫びたい。
自分と遠い誰かを関連づけて、自分の世界を内側から圧し広げたい。

分かっている。本当は輪になっているはずなどないことも。だとしても、それでかまわないじゃないか。勝手に輪になって、勝手に手を取り合った気になって、そういえばわたしたちはそういう風にして誰かをを好きになってきたはずだった。

今日も通勤バスの後ろの方の席に座り、見知らぬ人の後ろ頭が揺れるのを眺めていた。
だれも一人ぼっちにならないように、エンタメはあるのだな。ここには見えない輪が、それぞれにあるのだな。もしかしたら斜め前の、何の接点もなさそうなあのお兄さん、あの人と私も何かの輪で繋がっているのかもしれないな。

私は目に見える日常に安堵した。そして文字の循環するこの体に安堵した。
「好きなもの」がある私は、今日もすこやかだ。

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画像:中村昌寛さんによる写真ACからの写真

 

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