【映画レビュー】『Mank/マンク』〜せっかくNetflixに登録してるなら観て!という話〜

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(by こばやしななこ

デヴィッド・フィンチャー監督のオリジナル長編映画『Mank/マンク』が昨年12月からNetflixで配信されている。マンキーウィッツ(通称マンク)という脚本家がアメリカ映画史で傑作とされる『市民ケーン』の脚本を書く経緯を、史実にフィクションを織り交ぜつつ映画化したものである。

この作品、『市民ケーン』を観ていないと理解できないとか、映画へのリテラシーがないと退屈なだけだという意見を目にする。派手な作品ではないが、普通に面白いのにそんなに敷居を高くされちゃもったいない。ちょっとしたポイントを押さえておけば『市民ケーン』ってなんのこっちゃ?という人も楽しめると思うので、ここから『Mank/マンク』を観るときに知っておいてほしい内容をちょこっと説明したい。

『Mank/マンク』を観る前になんとなーく知ってたらいいことは

①映画会社「MGM」について

②『市民ケーン』のさわり

くらいじゃないかな。

まず映画会社『MGM』について。MGMは1930年代から50年代半ばまでイケイケだった大手映画スタジオだ。MGMの『オズの魔法使い』や『風と共に去りぬ』あたりは、知る人も多いだろう。MGMは俳優たちを映画スタジオに所属させて自社の映画に出すスターシステムをとっていた。現在、俳優はエージェントを通していろんな会社の映画に出る(日本なら芸能事務所を通して各社の映画に出る)が、当時はMGM映画にはMGM所属の俳優たちが出演していたということ。『Mank/マンク』に登場するメイヤーという男は、MGMの実質的な最高権力者である。

それから『市民ケーン』のさわりについて。『市民ケーン』は巨匠オーソン・ウェルズの監督デビュー作だ。この時のウェルズは若干25歳。因みに映画の主演はウェルズ。プロデュースもウェルズ。脚本はマンクとウェルズの共同脚本ということになっている。

『市民ケーン』はケーンという男が死ぬところから始まる。彼が死の前に残した「ローズ・バッド(バラの蕾)」という言葉の意味を探るべく、記者がケーンの人生を辿って取材していく。次第に大富豪のケーンが新聞会社を買収し、選挙に出るため新聞を利用して印象操作をしたり、若い歌手と結婚して彼女をスターに仕立て上げてたケーンの経歴が観客に明るみになっていく。実はケーンは、実在したハーストという人物がモデルだ。富豪であるハーストは、新聞社を買収した「新聞王」だった。彼は50代にして、10代のショーガールを見そめて愛人にした。彼女のために映画会社を設立し、MGMを含む大手スタジオと提携して彼女を女優に仕立て上げている。

ここまで知っておけば、『市民ケーン』を2時間かけて観る必要ない……はず。

『Mank/マンク』が少々わかりづらく思えるのは、知識が必要な映画だからじゃないと思う。この映画ではシーンの状況説明がその場でされず、後のシーンで分かるようになっている。例えば、マンクは登場シーンで足にギプスをしている。なぜマンクが怪我しているかは、しばらく経ってから明かになる。序盤に謎の瓶が出てくるが、中盤で謎のままの瓶の中身をマンクが飲む。瓶の中身についてはさらに後でようやくわかる。謎と答えの場所が離れているので、「わからなかった」という印象になるのではないか。

せっかくならわからない部分ではなく、面白い部分にフォーカスして楽しみたい。口と態度は悪いがユーモアと冴えた頭を持つ男マンク、マンクを愛する聡明な妻、クセが強すぎるMGMスタジオの独裁者メイヤー、ちょっとしか登場しないわりにインパクト強すぎるウェルズなどなど、キャラクター描写は本当に楽しい。時代設定は古くても、この映画で描かれる「メディアの情報操作で政治が動く様子」は現代にも通じる。胸クソ悪い行為は、マンクがしっかり批判してくれるから痛快なのだ。

まぁ白黒映画だし、舞台は現代じゃないしって時点で観るハードルは上がる。でもNetflixに登録しているのは、普段手を出さない作品に触れるいい機会だと思っている。劇場に観に行くのはいかにも好みか評判がいい作品じゃないとなかなか腰が重いが、サブスクで配信されているなら作品ごとにお金がかかるわけじゃないし、わざわざ劇場に行かなくてもいいし、後から気になったシーンだけ観返すことだってできちゃう。仮につまらなくても、そんなに損はしないもんね。

Netflixは「興行収入がそこまで見込めなさそうだけど素晴らしい映画」をオリジナル作品として配信している。『Mank/マンク』もそうだし『ROMA/ローマ』『もう終わりにしよう。』あたりもそういう類の映画だと思う。こういう作品って自分が気に入っても人に「観に行って!」とまでは言いづらいけど、配信にあったら「Netflixにあるからよかったら観てみて!」って勧めやすい。ということで『Mank/マンク』よかったら観てみてください。よくわかんない時には、よくわかんないことも映画体験ってことで。

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(c) Netflix
映画『マンク』公式ページ

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この記事を書いた人

こばやしななこのアバター こばやしななこ サブカル好きライター

サブカル好きのミーハーなライター。恥の多い人生を送っている。個人リンク: note/Twitter