~闘いは終わっていない~『バトル・オブ・ザ・セクシーズ』を観たのは、名前だけは知っていたビリー・ジーン・キングの来し方に興味があったのと、エマ・ストーンとスティーヴ・カレルという、好きな役者が主演だったからだ。

髪を濃いブラウンにし、眉のところで前髪をぱつんと切りそろえ、さらに野暮ったい眼鏡をかけているのにキュートなエマ・ストーンと、笑顔のスティーヴ・カレルががっちりと手を組んでいるポスターからは、むしろ友好的な雰囲気を感じた。女性差別をぶっとばすためにテニスで対戦する話とは聞いていたけれど、その対戦はあくまでもショーとしてなのかな、と思っていた。が、上映がはじまってすぐに度肝を抜かれた。女子選手の優勝賞金が、男子のそれの8分の1! そして、出てくる男性のほとんどが、がちの男性至上主義者! ほんの40数年まえの話だ。

そのがちの男性至上主義者の代表が、引退したテニス選手のボビー・リッグスだ。かつての世界王者だけれど、いまはギャンブルに嵌ったおっさん。このおっさんが、ほんとうにいやな人物だった。男は女より優秀だと公言してはばからないところはもちろんのこと、イベントなどではひとをおちょくったようなコスチューム姿で、ふざけたプレイばかりしている。自分がやってきたテニスというものに誇りはないのかと、わたしは映画館の座席で義憤を燃やした。つまり、スティーヴ・カレルがすごすぎたのだ。

彼には、ちょっとサイコパスのはいった役がみごとにはまる。ドラマ『The Office』(アメリカ版)のマイケル・スコットにしろ(さきの全米オープンで優勝した大坂なおみ選手も、その後、出演したトークショーで好きな番組に挙げていた。ちなみに全米オープンのメイン会場には、ビリー・ジーン・キングの名前が冠されている)、映画『フォックスキャッチャー』のジョン・デュポンにしろ、コメディでもシリアスでも、正気と狂気のあいだを自由に行き来できてしまうような空恐ろしさまとった演技をする。この映画でも、女性たちが何に対して声を上げているのか、本気でわかっていないというクズぶりをきっちりと演じていた。映画のポスターだって、よく見れば、その笑顔には心なんかもこっていない。

そして、そんなクズの挑戦を受けたビリー・ジーン・キング。彼女はほかの女子選手たちと団結し、あっという間にスポンサーを見つけ、女子選手権を開催する。ビリー・ジーンを演じたエマは、行動力のあるテニス選手というだけでなく、かわいらしく恋をしてしまったり、そのせいで苦悩したりという、さまざまな面を見せてくれた。ただ、彼女の夫はものすごく気の毒だった。気の毒だけれど、あれは仕方ない。仕方ないんだよと切なく思っているところへ、のちにビリー・ジーン・キングが、元夫となった彼の子どもの名付け親になったというエピソードがエンドロールで紹介される。ふたりの絆の深さよ。

当時の男女格差はテニス界だけの話ではなかった。多くの職業で、給料格差は厳然と存在していた。そして男女の待遇の話になると、いまでも極端な意見を耳にすることもある。ただ、ビリー・ジーン・キングたちが訴えたのは「女子を優遇してほしい」ではなく、「男子と女子を平等に扱ってほしい」ということ。それをシリアスになりすぎない絶妙なさじ加減で描いたこの作品は、いまのような時代にこそ観られるべき1作だと思う。

(c) 20世紀フォックス

 

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