【エッセイ】絶望名人カフカの人生論〜ネガティブだけどチャーミングな人〜

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(by こばやしななこ

ときどき読み返す本の中に『絶望名人カフカの人生論』がある。

20世紀を代表する作家・カフカが残したネガティブな名言を集め、編訳の頭木弘樹さんが解説を加えた本だ。冒頭でまず、カフカのこんな言葉が取り上げられている。

「将来にむかって歩くことは、ぼくにはできません。
将来にむかってつまずくこと、これはできます。
いちばんうまくできるのは、倒れたままでいることです。」

これはカフカが恋人に書いた手紙の一節。「それでもあなたを幸せにします」とは続かない。仮にネガティブでこう考えちゃうとしても、人にわざわざ手紙で伝えないでしょ。それをあなたいったいどういうつもりで……と心でツッコミつつ、言葉そのものには深く共感する。倒れたままでいるしかない時も、倒れたままでいたい時もある。結局、手紙を書いた恋人にカフカは2回婚約を申し込み、2回自分から破棄している。結婚しようと決意するとメンタルを崩し、落ち着かず、眠れなくなったので結婚できなかったらしい……。

本にはカフカが知人に書いた手紙や、日記、日常のアイデアを書くノートからの引用が多く、人間カフカの姿が立ち上がってくるようで面白い。今でこそ偉大な文学者だが、カフカは生きているうちに小説家として評価されていない。結果が出ないまま死んでいった人のネガティブには嘘がない。

カフカのとことん後ろ向きな姿は、笑える。ネガティブな人間だってチャーミングだ。決して明るくポジティブではない私に、これは嬉しい発見だった。考えてみれば“恥の多い生涯を送ってきました”から始まる小説が大ベストセラーになっているのである。ネガティブは必ずしも嫌われるものではない。

高校の三者面談で担任から「暗くて心配だ」と言われた。親の前で思ってもみないことを言われてショックだった。クラスではいつも友だちと騒がしくしていたつもりだったから。

先生は正しかった。その時の私は「うちのクラスにはもっと暗そうな人いるじゃん」と思っていたが、彼らはおとなしかっただけで暗かったわけではない。

どんなに楽しい時も幸せな時も、心の底に不安がある。街に出る度に通り魔に刺されるかもと怯え、飛行機に乗るたびに落ちる気がして離陸する瞬間には泣いてしまう。家で寝ていてすら「隕石が落ちてきたら……」なんて不安になってくる。上空でヘリコプターの音がする時なんか気が気じゃない。

会社員の時、オフィスのある高層ビルで火災が起きたらと考えて急に怖くなり、夜中に同期のLINEグループへ「どうしよう!」と不安をまき散らした。親切な同期のひとりが非常階段の場所を調べ、なだめてくれた。翌朝、みんなにヤバい奴だと思われたとビクビクしながら出社すると、「ウケたよ」と言われ救われた。

ネガティブな面を人に見せるたび、嫌われたかもと怖くなる。理解されなくてとも、面白がってもらえると心底ホッとするのだ。私もカフカみたいに、ネガティブだけどチャーミングな人になれてたらいいな。

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画像:写真ACからSunnysideStudioさんによる写真

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この記事を書いた人

こばやしななこのアバター こばやしななこ サブカル好きライター

サブカル好きのミーハーなライター。恥の多い人生を送っている。個人リンク: note/Twitter