【武道家シネマ塾】第11回:『GONIN』~宝物は、いつの間にかなくなっている~

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親譲りの無鉄砲で、子供の頃から損ばかりして──いや、両親は堅実で真面目な人たちだ。

無鉄砲で損ばかりしてきたのは僕だけである。

なんの影響なのか、「男は侮辱されたらケンカしないといけない」という謎の使命感を持っていた。目上の人間に歯向かってみたところ、「お前、面白いヤツだな。見どころがあるよ」とか言われて、その後目をかけられる。そんな本宮ひろしの漫画みたいな話は、ない。

やっとそこそこ大きな公演に呼ばれるようになったのに、共演の大先輩とケンカをしてしまった。降ろされこそしなかったが、公演終了まで全出演者・関係者から村八分にされ、病みかけた。いや、病んだ。

無鉄砲でケンカっぱやくて得をすることは、なにひとつない。24年生きてきて、やっと気づいた。僕はもう、金輪際ケンカはしない。ちょっとバカにされたり偉そうにされただけで、「なんだとコノヤロー」とか言いながら胸ぐらを掴んだりしない。だから、何か勘違いしている役者風情に上から見当違いなダメ出しをされても、笑って酒を呑んでいられるはず。

ある映画監督のワークショップ後の吞み会にて。
24歳の僕は、たまたま向かいに座った役者(の卵?)に、なんかからまれていた。

「元プロボクサーで鬼塚勝也のスパーリングパートナーだった」ことや、「たまたま出会った江守徹に気に入られて呑みにつれていってもらい、『いつでもウチに来い』と名刺をもらった」ということを、何度も近くに座った女の子たちに語っていた。それが本当なのか、盛ってるのか、あるいは噓なのか。どうでも良かったし、追及する気もなかった。とりあえず、彼が「自分大好き」であることはわかった。

「君さぁ、自分からもっとガツガツ前に出ないとダメだよ」

焼き鳥の串を振りかざしながら、若干ろれつの回らない口調で、僕に語る。そう言えばワークショップ中、こいつは常に「目立とう目立とう」と前に出ては、「俺かっこいいでしょ?」って芝居を続けていた。それを見てて言いようのない恥ずかしさに襲われた僕は、出来るだけ舞台を俯瞰で見て、前に出過ぎない芝居を心がけた。

「せっかく来たんだからさぁ、○○監督に覚えてもらわなきゃ! 悪いけど、君の芝居だと書き割りと変わんないよ!」

書き割りか。そうかもしれないな。僕は全体の流れや、せっかく生まれた空気みたいなものを壊したくなかった。と言えば聞こえもいいが、要は「悪目立ち」したくなかっただけかもしれない。

関西で生まれ育った僕は、関東弁で上から言われるだけでもイライラしてたし、以前の僕なら焼き鳥の串を向けられた時点で手が出ていたと思う。だが僕は生まれ変わったんだ。目の前の関東弁に何を言われても、笑って受け流すことが出来る。見てください、こないだの公演で迷惑をかけたみなさん。僕はこんなに大人になりました。もう二度と、「なんだとコノヤロー」とはなりません。

「ところでさ、君がいちばん面白いと思う映画って、なに?」
「『GONIN』です」
「『GONIN』!? ただのオールスター映画じゃん! あんなの!」
「なんだとコノヤロー」
胸ぐらを掴んでいた。

「またやってしまった……」
帰りの電車で、ひとりうなだれた。正確にはひとりではなく、たまたま同じ方向に帰る女の子が、隣に座っていた。

おとなしく地味めな子だった。ただ、いざ芝居が始まると、表情豊かに舞台を走り回り、とても魅力的に見えた。でも芝居が終わると、再びおとなしく地味になった。

僕と彼女は、ワークショップ中も別のグループであり、吞みの際も席が離れていたため、この帰りの車中で初めて会話を交わした。ただ、どうやらお互い人見知りのようで、会話は弾まない。

「……今日はなんかすみません。僕のせいで雰囲気悪くなってしまいました」
「……いえ、そんなことないです……」

そして沈黙。こんな時、僕にからんだ関東弁なら、ペラペラ喋って笑いも取って、そのままお持ち帰りとかしてしまうのだろうか。

長い沈黙の後、彼女は意を決したように、
「わたし、日活ロマンポルノ好きです!」
と言った。少々大きめの声だったため、他の乗客の何人かが、怪訝そうにこちらを見た。僕は彼女の発言の意味が理解出来ず、「……えっ……?」と言ったきり、また黙ってしまった。

「……あの、『GONIN』の監督の石井隆さんも、元々ロマンポルノの人ですよね……」
「あっ! そうですそうです! 『天使のはらわた』シリーズの人です!」
「わたしも『GONIN』すごい好きで、そこからロマンポルノも観るようになったんです!」

その後、僕たちは、日活ロマンポルノがただのエロではなくいかに映画作品として素晴らしいかという話題で盛り上がった。

若いけど地味めな男女が、「『人妻集団暴行致死事件』が」とか「『㊙色情めす市場』が」とかいう会話を、無駄に腹式の通る声で語り合っている様は、どのように見えていたのだろう。車内はそこそこ混んでいたが、僕らの周りだけ妙に空いていたように思う。でもそんなことはどうでも良くて、僕は“同士”に出会えたことが嬉しかった。

大学をサボって商店街の映画館で初めて『GONIN』を観た時の衝撃を、僕は忘れることができない。

こんなにも、かっこよくて面白くて悲しい映画があったのか。当時の小さな映画館は特に入れ替え制ではなかったので、そのまま3回観た。

“人生に行き詰った5人の男たちが結託して、暴力団から大金を奪う。辛くも成功したが、暴力団の雇った殺し屋に、1人ずつ狙われることとなる……”

確かにあの関東弁が言ったように、この作品はオールスター映画かもしれない。

5人の男たちは、佐藤浩市、本木雅弘、根津甚八、椎名桔平、竹中直人。暴力団組長に永島敏行。若頭に鶴見慎吾。殺し屋にビートたけしと木村一八。

確かに豪華だ。主要な2~3人以外は特別出演的なもんじゃないの?と思う方もいるだろう。でも違うんだ、これが。この9人すべてに大きな意味がある。「あのキャラ、いなくても良かったよね?」という人物はひとりもいない。‘90年代はこの面々がいちばんかっこ良かった時代であり、各々の俳優人生史上でもっともいい芝居をしている(僕基準)。竹中直人は少々うるさいが(竹中直人は、本人がノリノリでやってる時よりも、抑えた芝居の時の方が断然いい。この辺の感覚は、今の佐藤二朗なんかにも通じると思う。これも僕基準だが。同じ石井隆作品なら、『ヌードの夜』とロマンポルノ『天使のはらわた・赤い眩暈』での竹中直人を強く薦める)。

石井隆のスタートは、成人漫画である。そこからロマンポルノの監督や脚本を経て、一般映画に進出する。一貫して、堕ちていく男女の物語を描いてきた。ほとんどの作品で、女は名美、男は村木という役名である。必ず沈む泥船とわかっていながら、それに乗らざるを得ない男女の物語は、切なく辛いが美しい。

そんな石井隆が、初めて撮った“男だけの”物語が、この『GONIN』だ。

なら、堕ちていく恋愛の要素はないのか。
いや、ある。

佐藤浩市が、ビートたけしと木村一八に撃たれるシーン。致命傷を受けた佐藤を見て、激しく狼狽する本木雅弘。もう自分は助からないと覚った佐藤は、本木を引き寄せ、その唇に自らの唇を押し付ける。

死の間際で感謝を示す、究極な形がキスだったのか。
深い友情の最終形態が、同性愛的なものとなったのか。
それとも、明言はされないが、ふたりは同性愛的な関係だったのか。

真相はわからないし、どうとでも解釈は出来る。ただ、このシーンは、映画史上もっとも美しく悲しいキスシーンだ。

佐藤と本木がメンタルな同性愛だとしたら、殺し屋サイドのたけしと木村は、まんまフィジカルな同性愛カップルだ。いつも木村に厳しく冷たく当たり、殴りながら犯すような性交渉を繰り広げるたけし。冷静沈着な殺人マシーンだが、木村が本木に撃たれて死ぬ際は、みっともないぐらいに狼狽して取り乱す。極めてアブノーマルな形ではあるが、たけしも木村を本当に愛していたことが伝わる。

みんな死に、最後は本木とたけしだけになった。暴力団側も壊滅したので、もはやこのふたりに殺し合う理由はない。だが、お互いに愛する人を殺されたのだ。新たに最大の理由が発生してしまった。

ラスト。このふたりの“殺し合い”が、本当に美しくて。たけしの、恐ろしく優しい眼差し。本木の、アジア一美しい横顔。そして、ちあきなおみの歌声。未見の方のために詳細は書かないが、このラストシーンの美しさに、公開当時21歳の僕は涙を流した。こんなにも美しく死んでいけることを、うらやましく思った。

僕が内容をけなされたからと言って怒る映画は、この『GONIN』だけだ。それも若いとき限定の話であり、さすがに今ならそんなことで人様の胸ぐらを掴んだりはしない。ただ、悲しく思うだけだ。

僕にとって、この映画は“宝物”だ。僕ひとりで独占するには手に余る、みんなで共有したい“宝物”だ。

何が言いたいかと言うと、この最高にかっこよくて面白くて悲しい映画を作った石井隆監督がもうこの世にいないということを、僕ひとりで抱え切れないんだ。誰か一緒に泣いてください。一緒に、「石井隆監督ありがとう!」と言いながら泣いてください。ウソ泣きでいいから! 日当払うから!

あの時のロマンポルノ好きの女の子のように、あの頃劇場で『GONIN』を観て涙を流した人は、本当に泣いてください。

そんなあなたと、酒を呑みたい。僕がおごります。いつにしましょう?

その日が、石井隆映画のクライマックスみたいな、“どしゃ降りの夜”だったら最高だ。

※石井隆監督は、2022年5月22日、逝去されました。ご冥福をお祈りいたします。

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(c) 松竹
映画『GONIN』はU-NEXTなどで配信中!

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この記事を書いた人

武道家ときどき物書き。硬軟書き惑います。
映画/文学/格闘技