【映画レビュー】『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』〜でっかいことはいいことだ〜

  • URLをコピーしました!

(*本稿には映画の内容に関する若干のネタバレが含まれます!)

でっかいものが大好きな友達がいる。

「巨大」とか「長大」という言葉に大笑いし、「モルヒネ規定量の5000倍投与」という医療事故のニュースに「5000倍、でっかい!」という理由で笑い転げる友人だ。うわあ、不謹慎。その友人が、『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』を鑑賞した。この原稿のために白紙のワードファイルと向き合い、俳優の来歴などをまとめていたときのことである。

あらためてシリーズを見直して、恐竜のでっかさに例のごとくツボってしまったらしく、登場する恐竜のなかでもとりわけでっかい、ワールドシリーズ第一作のモサ・サウルスに夢中になっているそうで、ひとしきり盛り上がった。

ものが過剰にでっかいということだけで無限に笑える友人は、今作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』の主役について饒舌に語った。

今作の主人公。
ジュラシック・パークの俳優陣の集結だろうか。
あるいはシリーズ集大成を高らかに宣言するかのように劇中に再現されるジュラシック・パークのロゴだろうか。
いや、ちがう。

そう。
今作の主役──でっけぇイナゴである。

その作品を語るシンボルがあるってのは、やっぱり強い。

『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』は、興行成績的にはやや苦戦を強いられていると言わざるを得ない。が、やはりそこには圧倒的なシンボルがあり、何年か後に酒の席でこの映画を語るときに「あれね!」と指を差して笑い合えるのだ。

今作のシンボルは、間違いなくでっけぇイナゴだ。本日の主役、イナゴ!

成人男性の指先から肘くらいまでの大きさの巨大イナゴが作物を食い尽くし、子どもたちを襲い、主人公たちの行く手を阻む。巨大爬虫類であるところの恐竜たちよりも、さらに話が通じなさそうなところがパニックムービーポイントが高い。

昨今のサバクトビバッタによる蝗害問題やヨハネの黙示録に示されたイナゴアタック、そして研究所からの漏洩により世界的パニックを引き起こすという点で世界を様変わりさせてしまった新型コロナウィルスを思い出させる舞台装置だ。(新型コロナウィルスの来歴については諸説あり断定的なことは言えないけれど、バイオテクノロジー研究所からの漏洩であるかもしれないというニュースが、心に小さなガラス片のように残っている。人間の傲慢で世界はえらいこっちゃになってしまう)

このでっけぇイナゴ、とてもよくできている。
でっけぇイナゴは恐竜と同じく(過剰にでっけぇこと以外は)リアルに作られていて、虫が苦手だという多くの人にとっては不快感をかき立てられるものになっているだろう。場合によっては、でっかい恐竜とクリス・プラットたちを観に来た観客からのブーイング、あるいは劇場に足を運ぶことを敬遠する運びになることも考えられる。

だが、ここで生きてくるのがこのイナゴが「過剰にでっけぇこと」である。

これが実物の数倍の大きさだったら、まだ「うわ、気持ち悪い!」となっていただろう。だが、もはや飼い猫レベルの大きさってくらいのでっかさになったイナゴは、もうギャグなのだ。怖いし、気持ち悪いし、話が通じなさそうで最悪──だが、最初にイナゴに対して抱く印象は「でっっっっっけぇ!!!」なのである。これは巧みだ。不快感をできるだけのこしつつ、そのでっかさによりフィクション性を担保する。でっけぇ恐竜を扱い続けてきたパーク/ワールドの集大成である。でっけぇイナゴが。だって映画館で唸ったもの。「でっけぇことはいいことだ!」って。

シリーズ第一作である映画『ジュラシック・パーク』が公開された1993年からの数年間、まだ幼稚園に通っているバブちゃんだった私のおぼろげな記憶にも刻まれているほどの「恐竜ブーム」が起きていた。テレビ番組で恐竜特集が組まれるたびに、『ジュラシック・パーク』の映像が引用されていたのだ。SFXを用いたリアルな質感の恐竜たちは、やっぱりでっかくて怖かった。

本作でもっとも恐ろしい存在であったでっけぇイナゴは、たぶんテレビのイナゴ特集で引っ張りだこになることはないだろう。けれど、「うっわ、でっけぇ!」という一点において神奈川県の片隅に住む独身二人の心を沸き立たせてくれた。

電車が好きか、恐竜が好きか。幼少期にあらわれる最初の推しが、このふたつ。どちらも子どもからみれば、でっかいやつらだ。私は断然、恐竜派だった。なんといっても、もうこの地球上にいないのがいい。もういない、でもかつて確実に存在した、超でっかいドラゴン。ちびっ子だろうと中年女性だろうと、人間、恐竜という存在に思いを馳せずにはいられない。だって、でっけぇって面白いんだもの。

++++
(c)2021 Universal Studios. All Rights Reserved.
『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』allcinemaページ

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

蛙田アメコのアバター 蛙田アメコ ライトノベル作家

小説書きです。蛙が好き。落語も好き。食べることや映画も好き。最新ラノベ『突然パパになった最強ドラゴンの子育て日記〜かわいい娘、ほのぼのと人間界最強に育つ~』3巻まで発売中。既刊作のコミカライズ海外版も多数あり。アプリ『千銃士:Rhodoknight』メインシナリオ担当。個人リンク:  小説家になろう/Twitter/pixivFANBOX