【映画エッセイ】あたしゃ、ケネス・ブラナーの魅力を語らせてもらうよ!

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(by こばやしななこ

ケネス・ブラナーをご存知だろうか?最近では『テネット』の武器商人として知っている人も多いはず。私と同世代のアラサーたちには『ハリー・ポッターと秘密の部屋』のロックハート先生といえば通じるだろうか。

物心ついた時からケネス推しな私は、彼の監督作『ベルファスト』がアカデミー賞のラインナップに入って浮き足立ち、ぜひケネスについて書かせて欲しいと編集長に申し出た。にもかかわらず今、パソコンを前に固まっている。はてさて。いろんな顔があるケネスについてどう書くべきか。すべてを語りきれないことは承知で、私個人が大切に思う作品をピックアップしながら彼の魅力を語ることにしよう。

『から騒ぎ』―こりゃ感情の大洪水だね―
ケネス作品の中でも群を抜いて好きな映画だ。これはシェイスクピアの喜劇をケネスが主演・監督で映画化した1993年の作品で、簡単にいうと「男たちが戦いから帰ってきて、2組のカップルが誕生する」という話だ。

この映画はとにかく感情の起伏が激しい。出てくる人の感情メーターは常に振り切れそう。登場人物たちは風呂に入るだけで「風呂に入る喜び」が最高潮になっている。怒る時も激しくキレ散らかすので「え、そんな怒る!?」ともはや笑ってしまってそれもまた楽しい。

個人的にはケネス演じるベネディックが、いつも口喧嘩しているベアトリスへの恋心に気づくシーンがお気に入りだ。「ふーんあいつ、俺のこと好きなんだ?俺も……アイツのこと……好きかも。す、き……好き……好きだーーー!」みたいな感じで恋心を認めたベネディックはテンションをブチ上げ、いい大人が噴水に入っていって水をバシャバシャしながら喜びを表現する。

このような表現を「オーバーな演技」と思う人もいるかもしれないが、私の考えではオーバーな演技とは感情に対して表面上の演技が大きすぎることだ。『から騒ぎ』ではキャラクターの感情そのものがドバーっとあふれ出て映画を満たしている。決して表現だけがオーバーなのではない。

『ハムレット』―シェイクスピアといやぁアンタしかいないよ―
1996年の『ハムレット』もケネスがシェイクスピア作品を主演・監督した、彼の代表作だ。

そもそもケネスは23歳で英国のロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台に立ち、シェイクスピア作品の映画化で監督&初主演デビューを果たしていきなりアカデミー賞にノミネートされたシェイクスピアエリートである。そんな彼が作った『ハムレット』は戯曲の台詞をいっさい削らず、上映時間はなんと4時間越え!シェイクスピア愛が強い。

この作品では、これまで弱々しく可憐な人物として扱われがちだったオフィーリアが、人間の輪郭のはっきりした女性に描かれていた点が痛快だった。ケネスは90年代から人種の多様性やリアルな女性描写を作品にバンバン盛りこんでおり、ほんとに信頼できる男なのだ。

『マイティ・ソー』―ケネス、アンタだったのかい。MCUを成功に導いたのは―
ケネスはマーベルのコミックを映画化した『マイティ・ソー』の監督を務めている。ケネスのMCUにおいての功績にも少し触れておきたい。

『マイティ・ソー』の映画化の話は90年代頭からあり、実現までに何度も監督が変わりながら2008年にケネスにオファーがきた。この時点で公開されていたMCU作品は『アイアンマン』と『インクレディブル・ハルク』しかなく、ハルクは興行的に振るっていない。ケネスはまだ成功が確定していないMCU作品に参加し、『アベンジャーズ』へとつなげたのだ。

『マイティ・ソー』が大コケしていたら『アベンジャーズ』もなかったかも、と思うとケネスはMCUの立役者ともいえる。批評家からの評価はあまり高くないが、クリス・ヘムズワースのスター性が引き出されすぎ!ソーに上裸でジーンズ履かせるとか天才だろ!とケネスに惚れている欲目もあり、個人的には気に入っている作品だ。

『ダンケルク』―ただ立ってるだけなのに泣かせてくるんじゃないよ!―
ケネスは2017年の『ダンケルク』でクリストファー・ノーラン監督作品に初出演した。これは彼の役者としての腕を見せつけられる傑作だった。

『ダンケルク』は第二次世界大戦時、ドイツ軍に追い込まれた連合軍の兵士たちを助けるために、英国の民間人が自前の船で兵士の待つダンケルクに向かった「ダイモナ作戦」を描いている。

ケネスが演じたのはダンケルクにいる将校で、映画の最初から終わりまでただずーっと堤防に立って海を見ている役だ。おい、こちとらアンタが出てるつって嬉々として観に来たのにつっ立ってるだけかい!なんて悪態ついてたらまんまとやられた。仏頂面でずーっと海の方を向いていた将校は、助けに来た民間の船を見つけた瞬間、とめどない感動を顔いっぱいにあふれさせたのだ。私の涙腺は崩壊した。台詞もなく立ってるだけで、こんなばかデカい感情を表現できんのかい?こりゃまいったね。あたしゃ、今までアンタを好きできてよかったよ。と、感極まって江戸っ子口調で称賛してしまった。

『ベルファスト』―アンタ、またあたしを泣かせるつもりかい?―
そして2021年の監督作『ベルファスト』である。原稿を書いている今はまだ日本公開されていないが、わかっているのは本作がケネスの子供時代を元にした自伝的な作品だということ。家族の話だということ。しかも「極上の人生讃歌」らしいじゃないか。こりゃケネスお得意の、画面いっぱいに感情があふれて大きな幸せに包まれる映画かい!?予告編を観たら、あたしゃあもう涙腺がゆるんできたよ……

いや、泣くのはせめて映画を観てからにしておこう。ここまでの語りであなたにケネスの魅力が1ミリでも伝わったなら、ぜひケネス・ブラナー作品に手を出してみてほしい。

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(C)2021 Focus Features, LLC.
映画『ベルファスト』公式ページ

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この記事を書いた人

こばやしななこのアバター こばやしななこ サブカル好きライター

サブカル好きのミーハーなライター。恥の多い人生を送っている。個人リンク: note/Twitter