【武道家シネマ塾⑥】『ロッキー』~すべてのダメ人間に捧ぐ~

【武道家シネマ塾⑥】『ロッキー』~すべてのダメ人間に捧ぐ~

(by ハシマトシヒロ

「格闘技しか取り柄がないのに二流の選手」
昔、そんな陰口を叩かれたことがある。

うん、その通り。よく知ってるじゃないか。腹を立てても仕方がない。事実だから。悔しかったら強くなれって、じーちゃんが言ってた。

ロッキーもおんなじだ。

「ボクシングしか取り柄がないのに二流の選手」
いや、「三流」かもしれない。

ロッキー(シルベスター・スタローン)が、片思いのエイドリアン(タリア・シャイア)と初めてデートをするシーン。むりやり入った閉店後のスケートリンク。ぎこちない2人だが、おぼつかない足取りで滑るうちに、エイドリアンも心を開くようになる。

そこでの2人の会話。

「ロッキー、あなたはどうして戦うの?」
「俺は、歌うことも踊ることもできないからさ」

名シーンだが、この短いやり取りだけで、ロッキーという人間がわかる。ロッキーにできることは「戦うこと」だけだ。にもかかわらず、ロッキーに用意されたリングは場末も場末。酔っぱらった観客は物を投げる。対戦相手は故意に頭突きをする。ロッキーも倒れた相手を殴る。両者ともお咎めなし。あまりにも緩いルール。そもそもこれは公式戦なのか?

「歌うことも踊ることもできない」男が唯一できることで得た物は、65ドルのファイトマネーのみ(必要経費と税金を引かれて、手取りは40ドル55セント)。

当然ボクシングでは食えないロッキーは、闇金の取り立てで生計を立てている。ジムに行っても、期待のホープにロッカーを取られ、トレーナーからは引退を迫られる。もう30歳と若くはないのだが、酒を吞み、煙草を吸い、節制もしない。

この『ロッキー』1作目でのスタローンは「バキバキのマッチョ」になる前のナチュラルな体型で、その「鍛えてはいるけど節制もしていない」体がリアルだ。

荒れた生活を送り、未来が見えないロッキー。このままボクサー崩れのチンピラになっていくのかと思われたが、転機が訪れる。世界チャンピオン・アポロ(カール・ウェザース)の挑戦者に、(気まぐれで)指名されるのだ。

その事実を知った、闇金社長(ジョー・スピネル)とロッキーとのやり取りがいい。この社長、金を取ってこれなかったロッキーを罵ったりもするのだが、実はロッキーを応援している。デートの前日にも「明日エイドリアンとデートなんだろ」とか言いながら、ポケットに札をねじ込んでくる。

この世界戦の話題の際も、

「やっとお前にも運が向いてきたじゃねーか。これは強くなるために使え」
と、金を手渡す。ありがたく受け取ったロッキーがいつものように煙草をくわえると、

「体に悪いぜ」
と、煙草を取って捨てる。

「試合、観に来てくれよ」
「特等席、用意しとけよ(ニヤリ)」

僕も若い頃は、「ロッキーかっこええ~」とか「ドラゴ(4作目の敵役)渋い!」とかアホみたいな感想しかなかった。だが40も後半になってくると、「この闇金社長のような粋なおっさんになりたい」と思うようになった。なんかこう、ひとり蕎麦屋で呑むような(“粋なおっさん”の偏ったイメージ)。とりあえず僕も、近々後輩のポケットに札をねじ込んでみようと思う。不審に思われてもいいさ。

本気になったロッキー。朝4時起床。起き抜けにいきなり生卵5個いっき飲み。運動直前の生卵5個は逆効果だと思うが、これもやる気の現れなんだろう。

穴が開き、ボロボロに汚れたスウェットに着替えて走り出す。よく見ると、スウェットの背には「ITALIAN STALLION(イタリアの種馬)」の文字が。これは、ロッキーが自分で考えたニックネーム。明らかにロッキーのためのオリジナル・スウェット。まだ期待されてた頃にジムが作ってくれたのか。はたまた、まだ若く燃えてた頃のロッキーが自腹で作ったのか。どちらにせよ、人生でもっとも希望に溢れていた頃に戻るつもりで、ロッキーは走り出す。

しかし、気持ちは若返っても体は正直だ。不摂生していたし、走ること自体久しぶりなんだろう。すぐに脇腹を押さえて歩き出す。起き抜けの生卵で腹を壊した可能性もある。

だが、「マッスル・メモリー」というものがある。それが昔の話であっても、一度身に付けた筋力・体力は、戻るのも早い。次第に走力も上がり、かの有名なフィラデルフィアの石段駆け上がりにつながる。あの有名過ぎるテーマ曲に乗って、頂上で両手を突き上げるロッキー。世界中の若者がマネしたであろう、このシーン。もちろん僕もマネした。

ちゃんと4時に起き、生卵も5個飲んで走り出した。問題は、最寄りのお寺の石段が808段あったことだ。20段ぐらいでいいのに。しかし、頂上で『ロッキーのテーマ』に乗って両手を突き上げねばならん。僕もまだ若くて真面目だったので、愚直に808段を駆け上がり頂上で嘔吐した。2度とロッキーのマネはしなかった。

試合前夜。ロッキーはエイドリアンに語る。

「相手は世界でいちばん強い男だ。明日、最後のゴングが鳴っても俺がまだ立っていられたら、その時は俺がゴロツキじゃないってことを、初めて証明できるんだ」

僕のような「二流」と揶揄されてしまう人間すべての思いを乗せて、ロッキーは戦う。

この時代のスタローン、それこそ「マッチョなアメリカン・ヒーロー」になる前のスタローンは、弱い人間、ダメな人間、半端な人間、差別された人間、すべての「見下された人間」の味方だ。スタローン自身、役者としてなかなか目が出ずにポルノ映画に出たり、あるいは軽い麻痺の残る表情をバカにされたりもしてきたのではないか。だからこそ、「かませ犬の反逆」とも言えるシナリオを執念を込めて書き上げ、無名の役者風情が「俺の主演じゃなけりゃ、このシナリオは売らない!」と身の程知らずの意地を張り、実際の演技でも凍った肉を拳が潰れるまで殴り続けたのだ。

試合本番。三流ボクサーが世界最強の男に、互角の戦いを見せる。ファースト・ダウンを奪ったのは、三流ボクサーの方だった。「かませ犬の矜持」を見せつける。これが現実世界の戦いなら、テレビの前の世界中のダメ人間が拳を突き上げた瞬間だろう。

善戦虚しくロッキーは敗れるが、試合直後、2人は言葉を交わす。

「2度とお前とはやらない」
「こっちこそごめんだ」

これは、お互いを最大限に認め合ったからこそ、言える言葉だ。

僕自身、何度も何度も経験があることだけど、試合後の2人が健闘を称え合いながら、爽やかな笑顔で「またやりましょう!」とか言い合うシーン。一見いいシーンだが、本当は相手にこんなこと言わせてる時点でダメなのである。

「2度とあなたとは戦いたくありません」
ここまで言わせて、初めて本当の勝ちなのである。

アポロは、本心からロッキーを認めた。

……しかしながら、お互いに「2度とやらない」と誓ったロッキーとアポロだが、2作目で再戦し、3作目でもしつこくまた戦っている(こちらは非公式だが)。その2戦目3戦目に至る過程も抜群に面白く(特に3戦目! この戦いは、シリーズ通しても屈指の名シーンである)、その戦いについても書きたくてウズウズしているが、それはまたの機会に。

++++
(C)2008 Metro-Goldwyn-Mayer Studios Inc. Distributed by Twentieth Century Fox Home Entertainment LLC.
『ロッキー』映画.comページ

 

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