【マイ・ラヴ・パレード②】なんにでもなれる、チャーミングな俳優に恋して

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(by 安藤エヌ

エディ・レッドメインという俳優を心底愛している。彼ほど俳優として味のある人はいない。『ファンタスティック・ビースト』のレビューを書いたときから、いつか彼のことについて思いのたけをぶつけたものが書きたいと思っていた。今年は待ちに待ったファンタビの最新作が公開されるというタイミングもあって、主人公ニュート・スキャマンダーを演じた彼について、改めて筆を執ってみたいと思う。

エディはイギリス出身の俳優で、2012年版の『レ・ミゼラブル』や『ファンタスティック・ビースト』シリーズ、最近では『シカゴ7裁判』などジャンルに隔たりなく多岐にわたり出演している。プライベートでは妻子持ちで良き父親としての面もあり、チャーミングで個性のある名俳優だ。

彼との出会いは2015年に公開された『リリーのすべて』という映画だった。友人と何となしに連れ立ち、あまりに情緒深い余韻に打ちひしがれるとともに、エディというひとりの俳優の才気あふれるさまにとてつもない衝撃を受けたのを今でも覚えている。

『リリーのすべて』は1920年代、実在したトランスジェンダーの女性リリー・エルベが世界初の性適合手術を受けるまでを描いたストーリーで、エディは主人公のリリーを演じたのだが、纏う空気の甘さと苦さ、辛苦と歓び、そのどちらともを帯び、たったひとりの妻を愛しぬいた彼女の生涯を身ひとつで演じ切ったエディに、私は一瞬で虜になった。ひとつひとつのあまりにも繊細すぎる表情が、ひとつ残らず私の胸に突き刺さった。人とはこんなにも「誰か」になることができるのかと、驚きが隠せなかった。

エディはどんな役でも必ず綿密かつ厳粛な役作りを行うことでも知られている。リリーを演じるにあたっても、彼女に対する相当な研究と考察を重ね挑んだという。異なる性を胸に秘めた人物を演じることは、役と自分自身を交差させる上で複雑なレイヤーが重ね合わさるようなものだ。その繊細な、ヴェールのようなレイヤーをひとつずつ丁寧にその手で重ね、纏っている──エディの演じたリリーはこの世でもっとも美しく、触れたら崩れ、こぼれてしまいそうに脆く、それでいて愛という偉大な力によって生き、地に足踏みしめた人物なのだと、本作を観るたび深く感じる。あんなに美しい女性に、生きているうちで出会えたこと、彼女の愛に満ちた人生に触れることができたこと、その橋渡しをエディがしてくれたこと。どれも私にとってかけがえのない、宝石をプレゼントされたかのような上質な体験だった。

『リリーのすべて』を機にエディに惚れ込んだ私は、彼の出演作を続けて鑑賞した。なかでも印象深いのが、理論物理学者のスティーヴン・ホーキング博士の半生を描いた『博士と彼女のセオリー』だ。エディは主人公のホーキング博士を演じ、本作で第87回アカデミー賞主演男優賞にかがやいた。

リリー同様、実在する人物を演じたエディだが、今回も難役といえる役どころだった。というのもホーキング博士が筋萎縮性側索硬化症(ALS)になり、次第に身体の自由がきかなくなっていく過程を演じているからなのだが、とにかくこの演技がすさまじい。顔の筋肉が動かせなくなり、表情がぎこちなくなっていくさまや、歩き方がおぼつかなくなっていく姿、不自然な方向に曲がった手、目だけで合図や信号を送るようす──視線や動きに意図のないものなど全くないかのように、エディは「ホーキング博士」になっていた。エディという人物は奥に潜み、「ホーキング博士がそこにいる」。自身の存在を消して役に溶け込み、役そのものになるという俳優の人智を超える凄みを、私は見たのだった。

本作には胸のこみあげる場面が数多くあるのだが、その中でも屈指のシーンがある。ホーキング博士が論文発表の際、学生の落としたペンを拾おうと歩き出し、屈み、ペンを取り、渡すという一連の動作がまぼろしとなって立ち現れるシーンだ。彼の病状は進行し、もう自力では歩くことも屈むこともままならない。しかし彼の頭の中では、それができている。一連のまぼろしを見たあと、彼はかなしくほほ笑む。その表情が、忘れられない。エディにしかできない表情だ、と思った。ホーキング博士と溶け合い、融合し、共に生き、彼の人生をたどったエディ・レッドメインという俳優にしかできなかった演技だと、私はいつもそのシーンを見て思うのだった。

彼のことが好きで好きでしょうがなくなった矢先に観たひとつの動画がある。それは海外雑誌のVOGUEが行った企画で、『ティファニーで朝食を』のホリー役にエディが挑戦する、というものだ。

「ブルーはただの憂うつよ 太ったり雨が長引いた時に……」

カメラが回る中、静かにホリーの台詞を口にするエディ。

「やり直すよ」

自分の中に「ホリーが降りてくる」まで、何度もカメラを止めやり直すエディ。そして、何度目かのテイクで彼は完全に「ホリーになる」。ああ、エディが好きだ。私は恍惚とした。女性になれる男性。なんにでもなれる人。女のやわらかなほほ笑みを知っている。男の情けなさと勇敢さも抱いている。

私の中で、彼は虹色だ。そして、どこへでも飛んでいけるシャボン。甘い匂いのする、触れたらぱちんと解けてしまう魔法のような存在。つくづく思うことがある。才能があったならば俳優になりたかった、と。しかし私にはその世界へ行く切符が用意されなかった。だからこそ余計に瞬いて、かがやいて見える。エディはきらめく世界の中で、私があつらえたとびっきり仕立てのいいスーツを着て、私が主宰するアワードの常連になっている。もはやスピーチは彼のステージだし、主演男優賞はここずっと彼だけの座だ。いちど見たら忘れられない、そばかすの浮いた顔でとびっきりチャーミングな笑い方をしてみせながら、私が磨き上げたトロフィーを掲げている。

彼は私の「特別」であり、「ベストアクター」であり、「いとおしい人」である。自分が生涯を終えるまでに、必ず会いに行きたい。なりふり構ってはいられないのだ。これほどまでに自分の感性を豊かにしてくれた彼を一目見て、静かに涙を流すのが私の人生目標のひとつだ。

今年は3年ぶりにファンタビの最新作が公開され、愛してやまない彼の魅力を再確認し、また新たな一面も発見できる記念すべき年になりそうだ。今から胸を高鳴らせて、子どものようにわくわくしながら映画館の特等席で彼に会える日を心待ちにしたい。

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(C)2018 Warner Bros. Ent. Wizarding World TM Publishing Rights (C) J.K. Rowling (C) Warner Bros. Entertainment Inc.
『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』映画.comページ

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この記事を書いた人

日芸文芸学科卒のカルチャーライター。現在は主に映画のレビューやコラム、エッセイを執筆。推している洋画俳優の魅力を綴った『スクリーンで君が観たい』を連載中。
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