【エッセイ】脚本コンクールの最終選考で落ちた話

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(by こばやしななこ

2021年、10月某日。
パソコンの前に座った私は、1分ごとにクロームの更新ボタンをクリックしていた。開いているのは「創作テレビドラマ大賞」という脚本コンクールの選考ページだ。最終選考には、私の名前が残っている。

この後は、最終選考に残った10本から大賞1本と佳作2本が選ばれることになっている。大賞に選ばれた脚本はNHKのドラマとして映像化されるが、1番をとらなければ作品は日の目を見ない。シビアな世界だ。

大賞の発表日は知らされていないのに、なぜか今日はピンときていた。ソワソワしてついホームページを更新してしまう。更新されませんように、と願いを込めながら。

受賞者には発表の前に電話で連絡があるはずだ。そして、私に電話は来ていなかった。もし今日大賞が発表されるとしたら、私は確実に落選しているわけだ。待っている電話が来ないことがこんなにも苦しいなんて、知らなかった。

更新されてくれるなと思いながら、マウスを持つ手はまた更新ボタンへ伸びる。

その時。

ホームページが更新された。マジか。心臓に鈍痛を感じながら画面を確認する。当たり前に私の名前はない。ああ。ダメだった。心臓の痛みは鈍痛からズキズキと刺すような痛みに変わった。

***

2019年、1月。
独学で少し書いてみたがうまくいかない脚本を、1度ちゃんと勉強しようと「シナリオセンター」という教室に通うことにした。教室は毎回出されるお題にそった10分相当の脚本をそれぞれが読み上げ、仲間から感想をもらうというゼミ形式だった。

この教室通いが、楽しかった。なにせ自分が書いたストーリーに何人もの人から毎回ちゃんと感想がもらえるのだ。今まで頭の中だけで完結してきたイメージが人に伝わり、なにかしら思ってもらえる。「おもしろかった」なんて言われた日には脳が震えた。「とってもおもしろかった」になれば脳汁がドバーッと溢れ出す。

同期たちがほぼ同時に教室を卒業する時、今後もみんなで毎作品を書いて講評し合おうと決めた。ここからは教室の宿題ではなく、基本的にはコンクールを目指して脚本を書くことになる。

主要な脚本コンクールは年に数回ある。フジテレビが開催する「フジヤングシナリオ大賞」、NHKで放送される「創作テレビドラマ大賞」、テレビ朝日が開催する「テレビ朝日新人シナリオ大賞」、それから映画脚本の「城戸賞」あたりだ。

コンクールの応募者は規模が大きくてもだいたい1000人いくかどうか。1人が何本でも応募できるフジテレビのコンクールですら、1500〜2000本しか送られてこない。自分が応募しようとする前は「脚本家を目指す人って案外少ないのね」なんて思っていた。応募する前の時点でそれなりに急勾配な上り坂があるとも知らずに。

コンクールに応募するにはドラマなら1時間完結、映画なら90分程度の長さの脚本を書かなければならない。教室の課題で10分の脚本を毎週書いていたのだから、6週間あれば難なく60分の作品が書けるだろうと思ったら甘かった。10分の時とは違い、長いものは構成やらテーマやらを決めて話の土台を固めてから書き始める。規定の尺の脚本を書ききるのは、それだけでもかなりハードなのだ。

2020年の春にシナリオ教室を卒業した仲間たちは講評の場に1人、2人と顔を見せなくなった。2021年の春に残ったのは私と30代女性のAさんRさんの3人だけ。「書ける時もあれば書けない時もあるだろうから、顔を見せなくなった人もまたふらりと現れるだろう」と考えていたが、戻ってきた人はいない。残された3人で励まし合いながら細々と活動を続けた。

***

2021年、7月。
6月に応募したばかりのNHK創作テレビドラマ大賞の1次選考の結果が出た。応募総数1022本の中から1次で163本に絞られた。結果は3人とも通過だった。

8月。
2次で50本に絞られた。また3人とも通過だった。全員、初めてのコンクール2次通過だった。

Rさん「み、みなさん!創作ドラマ、、2次通過してます」
私「え!?みんな通りました!?今確認します」
Aさん「えーーー!!!すごい、すごすぎる!!」

2次通過の発表の後、3人のLINEグループでは興奮したやりとりが交わされた。正直、最終に残った時より嬉しかった。こんなふうに人と喜びをわかちあって盛り上がれたのは学生時代以来かもしれない。

3人のうち私とAさんはさらに最終選考の10本に残った。残った上で2人とも落ちた。「最終に残れただけで満足です!」とは言っていたが、受賞を逃したダメージは想像していたより大きい。ここで落ちたのは審査員にしっかりと読まれて吟味された上で落とされたということだ。受賞者の名前を眺めて思う。「負けた」と。

***

脚本教室の先生が言うには「始めた人が10人いたら書き続ける人は1人」だそうだ。

受賞を逃して「負けた」と思った。でも、私は本当に負けたんだろうか。書き上げて応募している時点で、書き続ける1人に入っている。圧倒的に勝ちではないか?情熱を向けられるものがある時点で人生勝ってないか?

ということで、書き続けることが私の勝負です。頭の中のいいイメージをどうやって文字に落とし込めるかの勝負。戦いの場は結果が発表される時じゃなくて、パソコンに向かってキーボードを打っている瞬間だ。書き続けているかぎり、私は負けない。

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画像:写真ACからkscz58ynkさんによる写真

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この記事を書いた人

こばやしななこのアバター こばやしななこ サブカル好きライター

サブカル好きのミーハーなライター。恥の多い人生を送っている。個人リンク: note/Twitter