【すなくじらの魔女修行】一限目:タロット占いの時間

【すなくじらの魔女修行】一限目:タロット占いの時間

(by すなくじら

魔女になりたい。ずっとそう思っていた。

一人前の魔女たるもの、占いの一つも知っておかねばならないだろう。占いとは不思議なもので、我々に救済のヒントを与えると思えば、ある時は人間の心を巧みに操り、惑わし、時に邪な行為へと及ばせる。

魔女にとって、未来を予知できる占いは欠かせないスキルだ。ぜひ身につけておきたい。

そうして、わたしがここ最近もっぱらハマっているのがタロット占いである。

タロット占いとは全78枚の大アルカナと小アルカナからなる、鮮やかな絵柄のタロットカードの組み合わせの解釈によって、未来や人の気持ちをみる占いの手法だ。絵柄は「愚者」や「魔術師」といった人物から「悪魔」や「運命の車輪」と言った架空の存在、「死」や「審判」などと言った抽象的な概念などがそれぞれの番号とともに描かれている。実は、この手の占いではオラクルカードというタロットと別種の神託や大きな存在からの言葉を受け取るカードセットも存在する。タロットの中には禍々しい、いかにも恐怖を煽るような絵柄のカードが見受けられるが、オラクルはその点メッセージの語り口が柔らかいことが特徴だ。

ところが、本場イギリスの多くの魔女たち(特に魔女文化が盛んなグラストンベリーのあたり)はオラクルではなくタロットを愛用していると耳にした。これまた理由が面白く、ときに魔女というものは物事の闇の側面からも目を逸らさずにきちんと受け止める、あるいは相談者に伝える必要があるとのことだった。

──“陰惨な現実にもきちんと向き合ってこそ、一人前の術師”ときたか、なるほど心得た。

とまあこんな具合で夜な夜なひとりカードをシャッフルし、燭台の仄暗い灯りの元で勉強を重ねること数ヶ月。基礎は習得したのだから、まずは己の身で実践。ということで切ったカードをスプレッド(タロット独自の並べ方の形式)に沿って机に置いていく。ところが、なかなかカードを表に捲ることができない。準備は十二分に行ったにも関わらず、だ。机の上に並べたカードを睨め付けたまま、すでに半分は灰と化したお香の煙ばかりが部屋に立ち込めていく。

わたしは怖かった。自分で自分の未来を見る事に、恥ずかしながらとても緊張した。汗で指の間がじんわりと湿る。カードに手を乗せては引っ込め、引っ込めてはのせる奇妙な動きを繰り返す。

見てしまえば。良い結果だったとしても、悪い結果だったとしても。見なかった前の世界に戻ることはできない。「たかが遊びだし、悪いカードが出ても占いなんて信じない」というスタンスを決め込んだとしても、わたしはきっと、心のどこかでその後起こった悪い出来事をカードに当てはめて考えるに違いない。となると、占いが当たるのか、当たったかのように人が日常生活をカードに当てはめてしまうのかは卵が先か鶏が先かみたいなところがあるとは思ったけれど、このときとにかく、占いとは大変な精神的エネルギーとシンプルに体力を使うことを思い知った。友人や周囲の人物にタロットを行うようになった今では、なおさらにそう感じる場面は増えた。わたしの占いが、誰かを傷つけてしまうことだってあるかもしれない。

そもそもいつの世だって、欲しいものを手に入れるには代償が必要なのだ。人魚姫だって、自分の歌声を犠牲にした魔女との取引で足を手に入れたじゃないか。

占いにおける未来や他人の心を覗くための犠牲は、ある意味で言葉の呪縛で占った者を動けなくしてしまうこと、なのだろう。背中を押すための占いが、必ずしもノアの方舟へのチケットとは限らない。もちろんそれは、ある人には幸福をもたらす良き呪いになりうることもある。何かしらの縁あってわたしが占う相手には、みなそうであって欲しいと願わずにはいられない。

ここで、わたしが好きなカードの話をひとつさせて欲しい。

わたしのお気に入りは「恋人」のカードだ。風の天使ラファエルに見守られた、エデンの園のアダムとイヴの絵柄はいかにも前向きで幸せそうだ。太陽までもが眩く2人の未来を照らす。カードの意味としても、恋愛運を占った時はとくにカードの名前そのまま恋が実る線が濃厚だ。

しかしこのカード、一見仲睦まじそうに見える2人をよく見るとアダムとイヴの視線は絡んでいない。

アダム(男)はイヴ(女)を見ているが、イヴ(女)は頭上の天使を見ている。これはアダムを(顕在意識)、イヴを(潜在意識)に見立て、ラファエル(超意識)が表す魂レベルの本能での惹かれ合いに到達するという意味とも捉えられる。

もっとわかりやすく、噛み砕いて言えば「理屈じゃなくて本能で好き!フィーリングばっちり!!」という恋愛ができるとの意味なのであるが、あくまで恋は恋であり“愛に発展するかは別物”と言われている。それはあくまで安定的な愛のカードが他にあるからという理由もあるが、そもそも人間の恋がすべて愛に発展するわけではない、という大前提の線引きが存在するわけだ。愛に辿り着けぬ恋もある。だから、恋愛を占って恋人のカードが出ても浮かれてはいけない。これぞタロットの世界、奥深い……。この残酷なほどまでに些細な部分まで人間心理に寄り添った78枚の絵柄が、今のところわたしの心を離す気配はない。

まだまだ一人前の魔女としての修行の足りなさに自覚はあれど、今日もまたこうして妖術のスキルを磨くべく勉学を重ねている。手元のカードが示す未来の断片によると、立派な魔女になるための旅路は、まだまだ先が長そうだ。

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画像提供 by すなくじら

 

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