【物語るモノ②】言葉に疲れたラノベ作家、不自由なコミュニケーションにハマる

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(by 蛙田アメコ

物語るモノは、いたるところに溢れている。
テキスト、音声、あるいは言葉もなく語るもの。
ライトノベル作家がハマっている物語コンテンツについて綴ります。

***

メールが開けない日、というのがある。
あらゆるチャットもSNSも開く気になれない。現代のコミュニケーションでは、ほとんどが文字で情報の伝達が行われている。文章、文章、文章。何はなくとも、文章だ。

情報商材の売り方。
ビジネス文書の書き方。
小説家になる方法。

あらゆる文書作成にまつわるノウハウが、これまた書籍あるいはブログなど文章媒体で売られている。このエッセイも文字情報だ。わたし自身がこうして文字の力を借りてエッセイやライトノベルを書いている。それはとても楽しいことだし、「もっと面白いものを書けるように」と四苦八苦したり、七転八倒していたりする。

文字情報はもっと日常的だ。文書作成なんていう大それたこと以外にも、ワクチン接種についてのお知らせや、チケットの当落、転職面接の日程調整までメールやメッセージアプリでの文字情報のやりとりで行われる。社会に生きる人のほとんどが文字を読むことが出来る識字率の高さは日本の誇るべき特徴だ、と小学校の先生が言っていたのを覚えている。たしかに、文字のない暮らしなんて想像も出来ない。他の動物ではなく、他ならぬ人間がこうして文明を築いてきたのは文字によるところが大きいだろう。

でも、でもねと。
ときどき疲れちゃうんですよ、文字に。

「あー、もうどうしてもメールに返信する元気がない」
「SNSのトレンドをチェックする気にもなれない」
「LINEの着信音だ……ちょっと今は、開きたくない」

そんな気持ちになることはないだろうか。私はよくある。
心の整理がつかなかったり、キャパオーバーになったり、心か体のどちらかが疲れていたり。そういうことがあると、「すぐにお返事を書かなくちゃ」「このメールに返信しなくちゃ」という気持ちとは裏腹に少しも文字を打てないことが……そんなときに、たった1週間だけドハマリしたアプリがある。

それが、『イラストチェイナー』。
名前も顔も分からない4人とオンラインでマッチングし、おたがいに協力して『お絵かきしりとり』を完成させるというゲームだ。
前の人の描いたイラストを見て、イラストでしりとりを繋いでいく……。

使える色は黒のみ。
制限時間は1分以内。
意思伝達のためのチャット機能はなく、たった8個のスタンプのみ。

とても、とても不自由なコミュニケーションだ。
スタンプは「???」「ご、ごめん…」という2種類を除いては、「うまい!」「かわいい!」「がんばって!」「わかった!」などのポジティブなもの。これだって文字情報なのだけれど、細かい意思伝達などはできるはずもない。どうにか頑張ってイラストを描く。それが伝わる。相手のイラストを見る。伝えたいことを感じ取る……。

これが、とても……癒やされる……!
「ちょっと疲れてしまって何もできない」となってしまった日に、たまたまダウンロードしたこのアプリ。気がついたら一日のほとんどを費やして、お絵かきしりとりをしてしまった。すると、どうでしょう。次の日には少しだけ頭がすっきりしていたのです。メールも書ける、本も読める。文字を追わないコミュニケーションの癒やし効果がすごい……!
お絵かきしりとり1回1回に、なんとなくドラマがあったりなかったりする。「ここ、どうにか間に合った!」とか「ここ伝えられなかった……」とか。

ラスコー。アルタミラ。奈良県キトラ古墳。
いわゆる『近代美術』とは一線を画した壁画は、世界史資料集の小さなカラー写真からですら原始的な神々しさを感じさせる。
まだ文字を持たなかった人類の『伝えたい』という思いのせいだろうか。いや、そうではないのではないかと『イラストチェイナー』をやっていると思う。たぶん、お絵かきをすることが楽しかったのだ。不自由ながらも自分が描いたイラストが、他の誰かに「うまい!」「かわいい!」と言ってもらえて、「がんばって!」と応援して貰えることが嬉しかったのだと思う。絵の持つ力を、今更ながらに実感した。

思えば、現代を生きる私たちは文字情報依存症だ。
物事を正確に客観的に伝達できる文字は間違いなく偉大な発明だ。文化も科学も文字なしには絶対に成り立たない。
そのぶん、高密度の情報が文字には宿っている。文字そのものの意味だけではなく、相手の感情なども。
文字情報のやりとりは現代社会において必須のスキルなのだけれど、そのぶん『文字に疲れた』ということは誰にも言ってはいけないような気がしてしまう。『文字疲れ』になってしまったときには、見知らぬ誰かとお絵かきしりとりをして、プリミティブな情報伝達に癒やされてみるのもいいかもしれない。

何かを物語るのは、何も文字や言葉だけではないのだから。

++++
(C) gunsturn, Inc.
『イラストチェイナー』Appストア
画像:BlueMomentさんによる写真ACからの写真

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この記事を書いた人

蛙田アメコのアバター 蛙田アメコ ライトノベル作家

小説書きです。蛙が好き。落語も好き。食べることや映画も好き。最新ラノベ『突然パパになった最強ドラゴンの子育て日記〜かわいい娘、ほのぼのと人間界最強に育つ~』3巻まで発売中。既刊作のコミカライズ海外版も多数あり。アプリ『千銃士:Rhodoknight』メインシナリオ担当。個人リンク:  小説家になろう/Twitter/pixivFANBOX