【ゲームレビュー】「声の力」を宿した、Nintendo Switch版『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女』

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(by シェループ

使い方次第で場の空気を変え、受け手の感情を揺れ動かす。
『ファミコン探偵倶楽部』というテキストアドベンチャーゲームは、そんな音の持つ力を思い知らされる名作だった。

ただ、その力は色数の少ない映像に象徴される、当時の技術の恩恵があって光っていた所もある。それは一連の表現が強化されたスーパーファミコン版『ファミコン探偵倶楽部PARTII うしろに立つ少女』も同じで、あの時代特有のものという側面があった。

なので、Nintendo Switch版『ファミコン探偵倶楽部 消えた後継者・うしろに立つ少女』の仕上がりには興味津々だった。何せ「現代のアドベンチャーゲーム」を売り文句にしているのだ。嫌でも興味を抱いた。

本当は何十年も前に発売された名作の復活に心躍っていた……もとい。
狂喜乱舞のお祭り騒ぎになっていたのだが。

満を持して発売されたNintendo Switch版は売り文句通り、映像と音響面は豪華になって、登場人物たちの容姿も原作の設定を踏襲しつつ、現代風に改められた。さらに彼らは声を発して喋るようにもなっている。

案の定というべきか、賛否を呼びやすい変更に踏み込んでいた。ましてや『ファミコン探偵倶楽部』は当時の恩恵が強い。若干の不安は拭えなかった。

だが、2作共に最後まで遊んでみると、物語の大筋はそのままであるなど、驚くほどあの『ファミコン探偵倶楽部』だった。さらに現代に蘇ったなりの新しい魅力が加わっていた。「声の力」だ。

そして、その力が物語の魅力を一層引き立てていたのである。

『ファミコン探偵倶楽部』は「怖いゲーム」と語り草にされているが、物語も高く評価されている作品だ。特に二転三転する展開の数々は、受け手をくぎ付けにさせるほどの訴求力に満ちている。僅かな出番しかない脇役にも妙な存在感があるなど、登場人物たちの描写の細かさと作り込み具合も見所のひとつだ。

そうした魅力が今回、「声」によって凄く映えた。具体的には台詞に込められた「言葉」がよく響き、演じる声優の熱のこもった演技と共に聞かせてくるようになったのだ。

『ファミコン探偵倶楽部』は台詞回しも素敵な作品だ。くどくなりすぎず、適切な言葉を選んでリズム感を作り、さらに人物の個性を感じさせる表現を用い、読んでいて楽しいものに仕上げている。脇役にもそれを心がけられつつ、主人公も固有の応答を返すので、彼らと出会うのが楽しいし、どんなやり取りを繰り広げるのかワクワクする。

Nintendo Switch版はそこに声のニュアンスが加わったことで、魅力が倍増している。おかげで強烈な存在感を獲得した登場人物もいる。『うしろに立つ少女』中盤に登場する“裏ヒロイン”だ。

件の人物には発売前からどう生まれ変わるのか注目していて、最初は演じる声優が意外すぎるあまり、戸惑いもあった。だが、さすが大河ドラマにも出演したほどのベテラン。本来の魅力を押し上げる名演だった。さらにニュアンスの追加で、一部の台詞は原作以上に笑いを誘うものに化けた。まさに「声の力」であり、現代の技術の恩恵を感じさせる進化を遂げていたのだ。かの人物以外にも声の恩恵で魅力が倍増した人物はいて、そこでも「声の力」は存分に発揮されている。

また『消えた後継者』では「声の力」が脚本に秘められた「泣かせる力」に強力な補正を加えている。元々、涙を誘う展開が用意された『消えた後継者』だが、Nintendo Switch版は新規に追加された演出と「声の力」で、より刺激の強いものに進化している。

さらに声によって元々の気の強さ、胡散臭さが強化された人物もいて、それが物語に奥行きを与えている。逆に声の影響で元の不気味さが薄れた人物もいるのだが、そこも声優の熱演と進化した演出で押し切っている。

2作共通の魅力である細かいアニメーションもだが、まさに現代技術の底力を思い知らされる所だ。

結果としてNintendo Switch版は、今に蘇るなりの新しさと、当時由来の懐かしさを併せ持つ名作になっていた。確かに現代風への変更に原作経験者なら抵抗を覚えるのは仕方がない。現に一部、パワーダウンした場面もある。だが、声を始めとする「現代の力」は強烈で、今ならではの『ファミコン探偵倶楽部』として見事にまとまっている。

これから遊ぶ予定の方はぜひ、声有りの現代設定(※)で触れてみてくれればと思う。そして、怖いだけではなく、物語も素敵な心に残る作品でもあることを味わってみて欲しい。

『ファミコン探偵倶楽部』は今も変わらず名作なのである。

最後にこの名作の復活に尽力された方々に多大なる感謝を!売上も上々らしいので、完全新作と幻の『雪に消えた過去』の復活、お待ちしています!

※設定で「無し」、もしくは効果音にすることも可能です。

++++
(c) 1988, 2021 Nintendo / TOSE CO., LTD. / MAGES.
『ファミコン探偵倶楽部リメイク版』公式サイト

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この記事を書いた人

新旧のゲームを遊びまくる人。ひよっこライター。もぐらゲームスなどゲーム系メディアへ寄稿中。

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