【ドラマレビュー】『ブラックミラー』まず観ておきたいお勧めエピソード3選

  • URLをコピーしました!

(by 隷蔵庫

知る人ぞ知るSFドラマシリーズ『ブラックミラー』。テクノロジーが今より少し発達した近未来で、人々の欲望や愛や悪意を描くオムニバス形式のドラマである。

ただ、エピソードが豊富なために、どれから手をつければ良いか迷うところだ。ということで、ほぼ全てのエピソードを観た自分が、全22エピソードの中からおすすめ回を3作品選んだ。結局ベタな選定になってしまったが素直に自分の直感に従うことにした。ここではカタルシス重視かつ初心者向けの作品をピックアップした。

1. サン・ジュニペロ

エミー賞を獲得したエピソード。ブラックミラーの中でも特に人気が高く、おすすめ回と検索するとまず出てくるのがこの回でもある。若者が溢れる海辺の街『サン・ジュニペロ』で出会った、ヨーキーとケリーという二人の女性の関係性を描いた話だ。

ネタバレしない程度にこの作品の良さを述べると、これは愛と人生の物語である。私は愛や人生を考えた時「意味なんかないよ」と自然に考えがちだ。愛について語るのはこっ恥ずかしいので、冷笑しがちである。しかし、真っ向から愛や人生に立ち向かった作品を見た時、人は心を動かされるのだろう。それが私のこの作品を見た後の感想だ。

今まで生きてきた人生や、そこにあった愛、またはこれから始まるかもしれない愛について、二人は選択を迫られる。過去と未来の愛はどちらも本物だが、どちらかを選ばなければならない。互いを好きだからこそ捨てなければならないものもある。でも、それが自分にとってかけがえのないものだとすれば……。

個人的に好きなセリフは「〜だったら私を好きになってくれなかった」という、彼女たちが時折互いにかける言葉。誰かを好きになる/なられる恐怖とジレンマがさりげなく描かれていてとてもよかった。愛とは常に恐怖と隣り合わせなんだよなと(彼女たちの場合特に)。

序盤から張り巡らされた伏線の回収も見事で、さらにラストまで怒涛の展開と選択が続く。ブラックミラーはSFに詳しくない人でもそれなりに楽しめるドラマではあるが、この回は特に、SFに興味もない、触れたこともないという人にこそ見て欲しいエピソードである。あと音楽の使い方がものすごくいい。

自分的には欠点の見つからない完璧なエピソードだと思っている。

2. 宇宙船カリスター号

今調べたらこれもエミー賞を獲得していた。確かにこれもめちゃくちゃ面白い。後味爽快なのにほんのりブラックといういい塩梅な描かれ方をされたドラマ。

レトロなSF世界を模した宇宙船の中で絶対的な権力を持った船長に船員たちが抗う話。結構ハードな展開もある。見せ方が上手いだけにこちらまで船員と一緒に苦しくなったり応援したくなったりする。船長は船員を自由自在に操ることができるので、おもちゃのように船員たちを苦しめてストレスを発散させているのがまた不気味。主人公が船長に息をできなくさせられた時は思わずこちらも苦しくなるほど怖かった。観るアトラクションのような感覚を味わえる。

ちなみにこの話は友人と一緒に鑑賞していたが、友人はSFにいっさい興味がなくホラーもサスペンスもダメにもかかわらず食い入るように見ていた。そのため話としてはハードだが初心者向けと判断して選定した。確かに船員たちが不遇すぎるし、なおかつギャグも時折挟まって重すぎない鑑賞感なので、続きの展開がものすごく気になるのはわかる。

3. 1500万メリット

管理社会で生きる者たちが幸せになるには、ただ一つオーディション番組に出演し、審査員たちにスターとして認められること。それ以外の人間たちは毎日テレビ画面を見ながら自転車漕ぎの仕事をさせられている。

主人公のビングはある日、アビという女性の歌声を聴き一目惚れ。彼女にオーディション番組に出演することを提案するが……。

私が初めて見たのはこのエピソードだったので「これがブラックミラーか」と強く印象付けられた。社会風刺が効いている、個人的に大好きな話。偽物だらけの世界で唯一の本物を見つけた主人公。ロマンチックだと思いませんか?

『メリット』はこの世界の中の通貨で、住人たちはこの通貨で生活に必要なものや、画面の中のゲームやアバターを買ったりする。序盤からアホみたいなバラエティを見て狂ったように笑う自転車漕ぎの男が出てきた時点でやばそうなディストピア始まったなと期待が高まる。この世界の住人は、画面の中の『偽物』を消費することしか楽しみを知らないのだ。主人公のビングも、日常に不満を抱きつつも夢も目標もなくただ仕事をする日々を続けている。だからこそ『本物』の才能を持ったアビに出会った時、彼は感動する(もちろん一目惚れという贔屓目もあるだろうが)。

オーディションに出てスターになるということは、その才能が幾多の番組と同じように消費されるということでもある。つまり自分が軽蔑していた画面の中の偽物と同じになる。搾取される側からする側の人間となるのだ。スターになれば苦しい生活から脱出できる。だからこそ、オーディションの審査員から差し出されたオファーを断るというのは、相当に勇気のいることだろう。例え自分の信念を貫きたいとしても。

疑問に思うことが一つある。ビングは彼女にオーディションのチケットをプレゼントした。彼女には才能を活かして歌姫になってほしいと願ったからだ。

しかし、果たして希望通りにアビが歌姫になったとして、ビングは幸せになったのだろうか。もう2度とビングと会うこともなく、ただ消費されるだけの存在となるのに……。実は、ビングは隣にアビがいて、自分だけに美しい歌声を聞かせてくれた方が幸せだったのではないのかと思ってしまう。彼女の才能がずっと本物のままであり続ける保証はないが、少なくとも他人に才能を蹂躙されるよりそちらの方がマシだ。

他にも「殺意の追跡」や「アークエンジェル」などなど勧めたい話はいっぱいある!けれど、ひとまずこの3作品は外さないと思うので参考になれば幸いである。

++++
(c) Netflix
『ブラックミラー』公式ページ

この記事が気に入ったら
いいね または フォローしてね!

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

隷蔵庫のアバター 隷蔵庫 ノベルゲーム作家

小説描きたかったのに、いつの間にかゲーム作者になった人間。代表作『真昼の暗黒』『ベオグラードメトロの子供たち』など。ノベルゲーム制作サークルsummertimeを運営。