【連載/LIFE-】第8回:人生の半分を簡単に取り戻す方法

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(by 葛西祝

今回はとても簡単に人生の半分を取り戻す方法について教えましょう。前置きしますと、金銭や健康といったものを取り戻すものではないです。もしご期待したら申し訳ありません。

さて、人生の半分っていつだと思いますか?

40歳? 平均寿命を半分に割った結果ですね。じゃあ30代? そう単純じゃありません。まさか20代とか? 青春ドラマでよく描かれるその頃を、あとの人生で大切な土台だと考えて半分というのもわかります。だけど違うんですね。

皆さまは「ジャネーの法則」についてご存知でしょうか? これはフランスの哲学者と心理学者が考えついた法則で、一言で言えば「年を取るごとに時間の速さが変わってくる。1年が過ぎるのがどんどん早くなってくる」という感覚をある程度、理論立てたものです。

もうひとつ、心拍数と時間感覚の関係があります。人間の時間感覚は、心臓の鼓動が多いほど長くなり、少ないほど短く感じるそうです。年を取るにつれて心拍数は落ちていきますよね。それも時間経過が短くなる理由のひとつだそうです。

このジャネーの法則と心拍数の話を合わせると、人生の半分がいつなのかって仮説が立てられるんですね。いつだと思いますか?

なんと、生まれてから7歳までです。

7歳までが、一日を過ごす時間感覚をもっとも長く感じていられる時期だそうです。そこから成長するごとに緩やかに心拍数は落ち着いていき、毎日が短く感じるようになっていくのですね。

7年の人生

「わずか7歳までが、実は人生の半分かもしれない」そう仮説立ててみると、僕自身はしっくりとくるものがあります。

何かを直感的に美しいと感じたり面白いと思ったりする反応は、振り返ってみれば生まれてから7年までに醸成されたものじゃないか? それから後の人生で面白いことや美しいことを見出すのも、生まれてから最初の7年に見たことをアレンジしただけに過ぎないんじゃないか? そう思うことは少なくありません。

ひとつの例に、僕の人生の半分について語りましょう。僕は1985年に生まれて、1992年に7歳を迎えました。

7歳まで父親の会社の社宅で暮らしていました。当時の風景で焼き付いているのは団地の並ぶ街並みです。思えばビデオゲームとの付き合いは早く、幼稚園に通っていたころからファミコンがありました。

一番プレイしたタイトルは「スーパーチャイニーズ」シリーズ、そして『暗黒神話 ヤマトタケル伝説』です。いずれもアクションとRPGや、アクションとテキストアドベンチャーのようなジャンルが複合したタイトルです。

テレビは小学1年生になったときには毎朝「ウゴウゴルーガ」という、子供番組のふりをしながらCGを駆使した実験的な番組を見て学校へ行く日々を過ごしていました。

もっとも覚えているのは『ぼくへそまでまんが』という絵本でした。これは人気の絵本「はれときどきぶた」シリーズのひとつで、主人公の子がマンガを描き始める物語です。

それは生まれてはじめて見たメタフィクションでした。最初はわかりやすい起承転結の4コママンガを描くのですが、描き続けるうちに過剰な内容になっていきました。人間の首がけん玉のようになるとか、空き瓶を食べて身体がガラス化する人々を描くようになったのです。

そのうち現実に漫画で描いたことが実現し、街では生首を外してけん玉にして遊ぶ子供たちや、身体がガラスになった人たちで溢れかえります。街の混乱は止まらず、主人公はもうマンガをやめようと「おわり」と描きました。ですが、それでも終わりません。

終わり方は予想外な展開でした。「漫画家はマンガを終わらせるのは生活できなくなってしまうから、『おわり』は違うんだ」そう宣言し、街の混乱を治めたラストはいまも強く覚えています。あとに作者自身が、絵本作家として活動するなかでの悩みがそのまま題材になっていたと知りました。

8歳になったとき、僕の家族は自宅を購入し、団地のある土地から引っ越していきました。引っ越した先は新興住宅街で、似通った白い家が区画内にコピー&ぺーストしたみたいに並ぶ場所でした。団地は人工的な場所でしたが、新しく住まいを変えた場所もまた人工的だったのです。そうして僕の人生の半分が終わったのでした。

人生の半分を振り返るとき

7歳までを簡単に思い出してみても、いくつかの点はいまの僕が選んできたことのベースになっているように感じます。人工的な風景、ジャンルが混ざり合ったビデオゲームへの指向、作者と読者の関係を問いかけるメタフィクションなど、いまも追求している物事はあの頃にきっかけがあったのかもしれません。

それよりも、80年代の半ばから90年代の始まりに人生の半分を過ごしたことは、あとで奇妙なことに繋がりました。インターネットから勃興したジャンル、VaporwaveやFuture Funk、そしてシティポップの台頭です。

このジャンルは80年代~90年代初頭の日本のCMやアニメをカットアップしたり、そのサウンドをアレンジした音楽なのです。日本独特の奇妙さを英語圏のインターネットが発見し、アレンジしているわけですが、僕にとっては別の意味を持っていました。題材となっていたのがちょうど僕が7歳になるまでに見てきたものだったからです。

僕の知らない誰かが、僕の人生の半分をアレンジして音楽や映像に変えつづけている。Vaporwaveなどのジャンルがはっきりと日本国内の音楽シーンに認知されたのは2012年ごろで、いまもシーンは継続しているのですが、僕にはおよそ10年近くに渡って人生の半分を他人にいじくり回されているようにも感じられました。

それは苦痛ではありませんでした。Vaporwaveなどのムーブメントは、80年代から90年代の物事を客観的に見せてくれるようにも思えたからです。

人生の半分を簡単に取り戻すとはこういえるでしょう。生まれてから7歳までの時代は、しばらくすると歴史的に再評価する流れが起きることがあり、客観的に振り返れる機会があります。そこでなにが自分自身を構成し、歴史的にどういう位置にいるのかを俯瞰して見直せるということです。

この見方を他の人々を観るときにも応用すると、その人の行動原理も見えてくるかもしれません。ある人の生まれてから7年の間をリサーチすることで、行動や考えを決定づける出来事や環境が、その時代と文化のなかでどのように醸成されてきたかが見えてくるのです。

人間の心拍数がもっとも高かったころに、あとの人生の源流があるということですね。もしも何が好きで、何をやるべきか迷ったとき、生まれてから7年のあいだを振り返ってみることで、取り戻せるものがあるのです。

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(イラスト by 葛西祝

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この記事を書いた人

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ジャンル複合ライティング業者。IGN JapanGame Sparkなど各種メディアへ寄稿中。個人リンク: 公式サイト&ポートフォリオ/Twitter/note