【映画レビュー】『ブレイブー群青戦記ー』~誰しもに生きてほしいと願う相手がいて、生きてほしいと願われる相手がいる

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(by 碧月はる

学生時代、勉強漬けの毎日にほとほと嫌気がさしていた。

そんななかでも好きな教科が二つだけあり、それが歴史と古典だった。これらの教科に何故惹かれるのか、当時はわからなかった。ただ単純に、知りたいと思っていた。昔の人々がどのように暮らし、どのようなことを考えていたのか。現代に脈々と受け継がれた命の大元、その軌跡を辿る。それは今思えば、時を超えた旅のようなものだったのかもしれない。



3月12日に封切りとなった、『ブレイブー群青戦記ー』。

笹原真樹原作の人気コミックを、本広克行監督が実写映画化した。三浦春馬をはじめ、松山ケンイチ、新田真剣佑、鈴木伸之など、実力派俳優が揃い踏みの注目作である。

スポーツの名門校に通う現代の高校生たちが、突如校舎ごとタイムスリップをするところから物語は始まる。時は戦国時代。かの有名な織田信長率いる織田軍と今川義元軍による『桶狭間の戦い』合戦の直前、そんな最悪のタイミングに遭遇してしまった高校生たち。映画序盤から、想像を絶する戦いが幕を開ける。

令和を生きる私たちは、「戦」を知らない。正確に言うと、安全な国に産まれた今の時代の人間たちは、戦を知らない。数時間後、まだ自分はこの世にいるだろうか。会いたい人に、また会えるだろうか。そんな不安や焦燥を抱えて生きる。戦国の世は、それが常だった。

命の重さは、いつの世も変わらない。道徳的にはそれが正しいはずなのに、その言葉が上滑りしてしまうほど呆気なく人が死んでいく。

仲間の死を嘆いて涙を流す高校生、西野蒼(新田真剣佑)に、松平元康(三浦春馬)は言った。

一人の人間の死を、それほどまでに悲しむことができるほど、先の世は平和になっているのだな。

元康は、それが自分のとっての希望だと言った。平和な世がたしかに来る。そう確信できる、希望であると。

泰平の世を願い、命をかけた人たちがいた。今、私たちが一人の人間の死を深く悲しめるのは、そういう時代を夢見て、“一所懸命”に戦い抜いた人たちがいたからだ。

作中には、目を覆いたくなるシーンが山ほどあった。正直、ここまで凄惨な場面があるとは想像していなかった。しかし、これが「現実」だったのだと、そう思った。タイムスリップした高校生たちは、およそ16歳から18歳。現代を生きる私の感覚で言えば、まだまだ幼い子どもである。しかし、もし産まれてきたのが戦国の世であったなら、とうに初陣を果たしている年なのだ。織田信長の初陣は14歳、源頼朝に至っては13歳である。

13歳。私の長男が、今年その年齢になる。

「お母さん、この前の続き読んでよ」
そう言って笑う息子は、明日の心配なんて一ミリもないみたいに『星の王子さま』の読み聞かせをねだってくる。彼が毎日手にしているのはバスケットボールで、身に着けているのは軽やかなバスパンとTシャツだ。刀でも弓矢でも、重たい甲冑でもない。そんな彼が産まれたのが現代でなければ、もしも戦国の乱世なら、私は慣れていただろうか。自分の息子の命が、いつ奪われるかわからないという日常に。



物語の中盤、捕虜に乱暴しようとした家臣を信長(松山ケンイチ)が迷いなく切り捨てる場面がある。

こんなことをしていては、闇は増すばかりだ。

そう吐き捨てた信長の瞳は、鋭く尖っていた。信長が求めていたのは、光だった。彼も元康と同じように願っていたのだ。戦のない世を。光が照らす、明るい国を。

誰しもに生きてほしいと願う相手がいて、生きてほしいと願われる相手がいる。それはいつの世も変わらない。どんな時代だろうと、どんな世界だろうと、人は人を想い、光を求めて生きてきた。

よく考えろ。おぬしが何を信じて光となるのか。

元康にそう言われた蒼は、信じる道を自ら定め突き進んだ。大切な人を、守り抜くために。



“高校生アスリートVS戦国武将”。

この映画のキャッチコピーだ。軽やかなそれとは裏腹に、ずっしりと重たい現実を見せつけられた。だがそれは、必要な重さだったと私は思う。

今の時代も、決して平和とは言い切れない。言葉という新たな武器を用いて争う人々を、毎日のように見かける。そしてそれを、「終わりにしよう」と叫んでいる人たちも。

私たちは、何のために歴史を学んできたのだろう。試験で満点を取る。それが最終地点ではないはずだ。今を生きる。その礎を築いてきた人たちの生き様から何を想うか。何も感じないと言うのなら、そこで歩みは止まる。

歴史は繰り返す。よく使われる言葉だが、繰り返してはならない歴史がある。それを学ぶために、考えるために、ランドセルを背負う幼い頃から、私たちは「歴史」というものの存在に触れてきたのではないだろうか。

ブレイブ。直訳すると、勇者という意味だ。この映画の勇者は誰かと問われれば、私はこう答える。「全員が、勇者だ」と。それぞれが、それぞれの正義の元に戦っていた。その結果得たもの、喪ったもの。そこから目を逸らさず、考え続けたい。これから先の未来をつくれるのは、今を生きる私たちだけなのだから。

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(C)2021「ブレイブ 群青戦記」製作委員会 (C)笠原真樹/集英社
『ブレイブ 群青戦記』公式サイト

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この記事を書いた人

碧月はるのアバター 碧月はる ライター&エッセイスト

書くことは呼吸をすること。noteにてエッセイ、小説を執筆中。海と珈琲と二人の息子を愛しています。