【エッセイ】「可愛くなりたい」の病気には処方箋があった。コンプレックスと戦う全ての人へ

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(by すなくじら

私はたぶん、現在進行形で「可愛い」の病気にかかっている。可愛いは正義だ。顔が可愛ければ、なんでも許される。多少男癖が悪くたって、美人のあの子は「でも可愛いから」で許される。“顔は変えられないけれど、性格は変えられる”は、ほんとうは真逆。顔は今の時代、整形でもメイクでも変えられるけれど、歪んでしまった性格はどうにもならない。そんな世界でわたしは鏡を見ては、ひとり大森靖子の「GIRL’S GIRL」を聴きながら、 部屋の隅で声を殺して泣いていた。

--そう、泣いていた。つまり、この病気の調子が最近だいぶ良くなってきた。根本的な考え方は、全く変わっ ていない。美人は3日で飽きるなんて嘘で、可愛くないと異性に見向きもされないのが現実。わたしは可愛くな いから、1日のチャンスすら貰えない。まだ、心の中の叫びは反響し続けている。

わたしにとって、決定的な処方箋はあるルールに気がついたことだった。それは、「顔が全てだと思っていることは容姿を気にしている世界の人の中でしか問題にならない」ことだった。よく考えれば当たり前のことなのだ が、これは実は世の中の全てのコンプレックス共通する絶対事項なのだ。例えば、学歴が効果を発揮するのは学歴を重視する人、つまり学歴で恩恵を受けてきた人に対してのみ。経歴がぐちゃぐちゃでも、仕事で成功をおさ めている人は数え切れないほどいる。

莫大な富を求める人は、お金がないと見られない華美な世界またはそこから派生する人脈や権力が欲しい。それでも、お金がなくても幸せな人はたくさんいて、彼らはそれぞれ別の世界に住んでいるのだ。わたしにとっては、目から鱗の事実だった。

もし仮に、わたしの顔が明日超ド級に可愛い顔と入れ替わったとする。そこに寄ってくる男の子たちは、前のわたしと同じ、顔信者だ。彼らはわたしの何を知っているというのだろう。わたしはそれで嬉しいのか。もちろん、チヤホヤされて承認欲求は満たされるだろうけれど、私のほんとうに欲しいものは、形あるものではない気がした。かの有名な、星の王子さまだって、「本当に大切な物は目に見えない」って言ってるし。サン•テグジュペリに感謝したい気持ちでいっぱいだ。

「赤ちゃんって見返りのない愛を母親から貰ってるっていうけど、あれ無償で愛されてるのって母親の方だから」

これは最近友人が言った興味深い言葉なのだが、わたしは彼女のウィットに富んだ発言がとても好きだ。前髪の隙間に影を落とす長いまつ毛に、雪のように白い肌。可憐でわたしの思う「可愛い」を持っている彼女は、「可愛い」に全く興味がない。むしろ、彼女に取って大切な物は可愛いの先、もっと手に入れにくい物であり、魂の入れ物には関心がないのだと思う。高尚な魂という言葉を使うと何かのセミナーのような響きであるが、顔の造形で手に入らない物が欲しい彼女がたまらなくカッコよくて、自分がちっぽけに見えた。

人間の欲深さはどうにもならない。かっぱえびせんの如く、欲しい欲しいが止まらない。それなのに、超美人でお金持ちで学歴もあって異性にモテまくったとして、そこに辿り着いた自分はきっと虚しくなるような気がしてしまうのはどうしてだろう。

何一つ持っていないからこそ、そう思い込みたいだけなのかも知れない。でも、もしこの針のような予感の先 が、ほんの少しでも真実に触れているのだとしたら、全てを手に入れたその先に待つのは、きっと途方もない孤独感。それはきっと隣にはもう誰も並ぶことができないから。何もかもが全て自分のものの中で味わう“ひとりぼっち”は、一体どんなに恐ろしいだろう。

今のわたしには、相変わらず「可愛い」が揃っていない。それでも、そこそこに幸せを感じる瞬間で日常は溢れている。ご飯は美味しいし、数少ない友人は優しくて良い人ばかりだ。それでもやっぱり、ときどき「可愛い」のことを考える。わたしの手札はいま、大富豪でジョーカーがない状態だ。わたしにとって、喉から手が出るほど欲しいジョーカー。

手持ちの札で勝つためには、頭を使って工夫をしなければならない。最初からジョーカーがあればとは思うけれど、そもそも全てのカードがジョーカーや絵札のみで構成されることなどほぼありえない。弱いカードだって、 組み合わせれば革命も起こせる。そもそも、ゲームに勝つ必要すら無い。大富豪が苦手なら、他に楽しめるものを見つけてもいい。コンプレックスの呪いを解いてくれるのは、白馬の王子様ではなく、自分自身だ。

気づくまでに、だいぶ時間がかかってしまった。

だから、貴方の愛する人たち、そして他ならぬ貴方自身が、どうか悲しい劣等感に苛まれているならば、異なる価値の形を探してみて欲しい。コンプレックスは幻想とまでは言わないけれど、欠点を大きなオバケに仕立て上げているのは、誰なのか、一度自分の胸に聞いてみて欲しい。戦うべき敵は、意外とすぐ側にいるのかも知れない。

大丈夫。ここまで読んでくれた貴方が、素敵な人でないわけがない。「可愛くない」わたしと手を取って、今よりもう少しだけ、心躍るような人生への近道を探してみようか。

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画像:たげらん64さんによる写真ACからの写真

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この記事を書いた人

本や映画のコラムを書きながら、日々の生きづらさをエッセイに昇華しています。Twitternoteも。