【番組レビュー】『猫イジメに断固NO!: 虐待動画の犯人を追え』

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(by 隷蔵庫)(注:本記事では一部、番組の結末に触れています。)

1

これは、カナダで起きた実在の事件を取り扱った、Netflix限定ドキュメンタリーである。

最初に一つだけ!鑑賞前に元ネタを検索しないほうがいい。

色々な意味で。できればこのレビューも読まずに鑑賞した方がいいと思う。しかし、とりあえずレビューを読みたいだけの方もいると思うので、ネタバレを踏みたくない方は後半読み飛ばしてください。

2

この作品を特徴づけているのは「気持ち悪さ」だと思う。動物虐待をはじめとする、人の神経を逆撫でする類の犯行が繰り返し行われること、犯人の承認欲求とナルシシズムが行き過ぎているため全体的に「生理的に無理」のラインをギリギリ低空飛行している印象を受けた。

題名がダサすぎるので、これを見ようとはなかなか思わなかった。最終的に冷やかしのつもりでこれを視聴した。で、1話を見終わった時点で精神的に混乱していた。なんというか、途中で切る気満々だったにもかかわらず目が離せなかった。

それどころかフィクションと現実の境目があいまいになってしまった。現実離れしすぎていて「あれ?これノンフィクションだったよね?嘘だったってこと?」と事件をググった。で、なんかヤバいものを見させられているな、という実感がようやく湧いてくる。

あらすじは、Youtubeに上がった猫虐待動画の犯人を探し出そうとする特定班たち。しかし、犯人探しは難航する。それを嘲笑うように、猫虐待の犯人はだんだんエスカレートしてゆく……という内容。

視聴を続けるうちに、展開は恐ろしい方向へ急展開する。割とマジで「深淵を覗いているときうんちゃらかんちゃら」みたいな気分になった。

ネット特定班は優秀で、写真や音声から犯人の居場所を割り出したり、Googlemap上で実際に住居を突き止めたりしている。しかし、犯人の計画に彼らは織り込み済みだ。だからわざと情報を小出しにして——情報には新たな虐待動画も含まれる——特定班を翻弄する。

個人的に怖いなと思った点が、作中でもあちら側とこちら側の垣根が崩される出来事が描かれたことだ。途中、ネット特定班の一人「ボディ・ムーヴィン」の職場を撮影した動画が犯人によってアップロードされる。「数日で解決できるゲームだと思っていた」と彼女は語る。ただのゲームだと思っていたことが、こちら側に流れ込んできた。

鑑賞している途中でこの話が現実なのか作り話なのか本気でわからなくなった自分にとって、ぞっとさせられるエピソードだった。

(以下、ネタバレ含みます!)

3

犯人は「ルカ・マグノッタ」という人物だ。彼の職業はモデルで、世界中を飛び回り、豪華な生活をしていることがネット上の大量の画像から読み取れる。彼のファンクラブもたくさん見つかる。ルカのニュースさえある。

しかし特定班は奇妙な事実に気がつく。ファンクラブに書かれていることがワンパターン。写真はよく見るとコラージュ。

これらは全て彼の自作自演だったのだ。彼はただ注目されたいがために猫の虐待動画を撮ったのだった。

そしてルカは殺人を犯す。それも生理的に無理な要素を全て詰め込んだ内容の動画をアップロードして、特定班に知らせる。特定班は猫を虐待していた時点で警察に通報しているが、無視されていた。

ちなみに、その殺人の様子を収めた動画は現在もネット上で視聴できる。内容は作品内では語られていない、というか酷すぎて語れないのだろう。

犯人もわかったところで、この作品の核心部分について思うところがあったので書いていく。以下に指摘する点は製作側も意識していただろうし、当然ながら白黒はっきりつけられるものでもない。

まず、「特定班も加害者の一端である」という指摘。それはルカのナルシシズムを満たしたという点では正しいけれど、その他の点では賛成できない。

例えば特定班は途中で死者を出している。赤の他人を犯人と決めつけ、自殺に追い込んでしまった(もともとその人物はうつ状態にあったらしい)。しかし、ドキュメンタリー内に出演している特定班の主要メンバー二人は少なくとも勘違いを正そうとしているし、死を軽んじている様子は自分には感じられなかった。特定班内にも派閥があるため、一括りにすることはできない。まあ、特定班が誤った行動で彼を追い込んだというのは概ね合っているので、ネットって何も進化してねーなと思った。

もう一つ、注目されたいという欲望を助長してしまったという点も考える余地がある。後から責任の所在を追求するのは簡単だ。特定班は犯罪を助長した。しかし特定班がいなくてもルカは犯罪を起こしたかもしれない。

「このドキュメンタリーを見たということで視聴者もルカの欲望を満たしている」というのも、どうだろう。

難しいところだけれど、個人的には、多分ルカはテッド・バンディやチカチーロのようなある種神格化された殺人鬼の知名度を目指したのであって、一瞬ニュースで取り上げられてはいおしまい、程度の現状を望んでいたのではないと思う。

このドキュメンタリーがルカの知名度アップに貢献しているのは事実だ。しかし作品内で、彼は神格化された殺人鬼とは程遠い、小物のような描かれ方をされているように思えた。どちらかといえば真相より過程の面白さを楽しむ作品だ。ルカは作品の一要素にしかなっていない。ルカの思惑100%達成とは思えない。

これらの点を見ると、議論になりそうなトピックが作品内にたくさん埋め込まれていることに気がつく。『猫イジメに断固NO!』が賛否両論になりそうだなというのはわかる。先ほども言ったけれど、上記に挙げた点の正誤をはっきりさせようとすることは危険な行為だ。無理矢理答えを出そうとして行き着く先は、ネット上で誤った人物を糾弾した特定班の二の舞だから。だから、自分は誰も断罪できない。ただ、議論することで、この作品の問題提起と目的は達成されるのではないかと思っている。

(ネタバレ終了)

4

そんなわけでなんともはっきりしない感じのレビューになってしまった。正直自分も作品を正しく読み取れているか自信がないので、もし視聴済みの方がいたら感想など教えて欲しい。

無理やり所感をまとめるならば、私たちの日々のクリックは想像以上に、力と責任を伴っているのではないかということだ。

++++
(C) Netflix
『猫イジメに断固NO!: 虐待動画の犯人を追え』視聴ページ

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この記事を書いた人

隷蔵庫のアバター 隷蔵庫 ノベルゲーム作家

小説描きたかったのに、いつの間にかゲーム作者になった人間。代表作『真昼の暗黒』『ベオグラードメトロの子供たち』など。ノベルゲーム制作サークルsummertimeを運営。