(by 翳目

21歳の頃、私はフリーターだった。

専門学校を二年次の序盤で中退し、昼間はコンビニ店員、夜は都内のキャバクラで稼ぎを得る「キャバ嬢」として働いていた。キャバクラで働いていた、と言うと多くの人が意外そうな顔をする(し、自分でもよく働いていたなと感心する)が、夕方までコンビニで働き、夜はしっかりめかしこんで在籍のキャバクラ店へ——というのが、当時のルーティンワークだった。

きっと当サイトに訪れている多くの人が、キャバクラないし『ナイトワーク』という業界に対してあまり良くないイメージを持っている・もしくは無関心なことだと思う(何しろ、件の感染症が未だ蔓延するこの御時世では無理のない話である)。

私自身も、最初は全く興味がなかった。友人がキャバクラで働いていたので偏見こそ持たなかったが、「店がギラついていて、客がオラついていて、キャスト(※=キャバ嬢)がイラついている」というなんとなくのイメージだけ持っていて、まさか自分の経歴に『キャバ嬢』が割り込んでくるとは思ってもみなかった。しかも自分は元々かなり内向的な性格で、どちらかというと芋っぽい。キャバクラで働き始めたとて上手くいくはずがないだろうと、半ば諦観していた。

しかし『高時給・高収入・完全自由出勤』という求人の謳い文句に唆られた当時フリーターの私は、日頃コンビニでスタッフの愚痴を聞かなくとも短時間で稼ぐ方法があるということにすっかり心を奪われ、気が付けば無意識にLINEの求人フォームで面接を申し込み、あれよあれよという間に夜の街で働く運びとなった。

*   *   *

約一年半という短い期間ではあるが、ナイトワーク業界に身を置いた感想を以下に述べる。

まず、この業界は想像するほどヤバい世界ではない。もちろん店選びは慎重かつ入念に行う必要があるけど、少なくともキャバクラで働いている間、映画『新宿スワン』で観るような光景は一度も見ていない。

来店する客の殆どが皆、『飲みの延長』としてキャバクラを使っている。華があった方が楽しいから、一人で居酒屋に行ったら飲み足りなくなったから、娘と同じぐらいの年齢の子と話すことが好きだから——。客から直接聞いた訳ではないけど、会話から皆大体そのような目的で来ているということが理解できた。

もちろん、連絡を取り続けて来店予定を立たせたり、客との相性が合わず会話に苦戦したりと小さなストレスもあるにはあった。それでも私が一年半、キャバクラという場所をフリーター生活の一部としてフィールドにしていたのは、相手に好印象を与えられる話し方を自然と身につけられ、私生活への応用が効き、自分をいくらか社交性のある人間に育ててくれたからだ。

コンビニ店員と、キャバ嬢。二足の草鞋を履きながら一年半が過ぎ、ようやく私は「文章を書く仕事に就きたい」と考えるようになった。思い立ってからは行動が早く(というか、行動力が元々備わっていたからこそキャバクラの面接も受けられたのだけど)、コンビニとキャバクラの両方を辞め、次なる就業環境を探す日々が始まった。

*   *   *

自分のような20代前半の高卒上がりで、全くの業界未経験者が働けるような企業は僅少だ。暇さえあればスマホの画面に「未経験 ライター 正社員」と打ち込む日々との格闘の末、私はとある企業と邂逅した。

未経験可、高卒可、社員の8割が20〜30代。フレッシュなベンチャー企業がメインに掲げる事業は『ナイトワークの求人広告制作』。

「もし偏見がなければ、是非翳目さんに入社して欲しいと思っていて」

当時、面接を担当してくれた元上司が、私の顔色を窺うようにその言葉を口にした。

こんなチャンス、誰が降ってくると思っただろうか?偏見も何も、私はかつて、この企業がターゲットにしている層の当事者だった。もしこのチャンスを逃していたら、私は現在ここで文章を綴るどころか、ライターとして働くこともなかっただろう。

最初は隠すつもりだったが、どうやらここではアピールしていた方がプラスに働いてくれるらしい。

「実は私、元キャバ嬢だったんですよ」

その日、私は内定をもらった。

++++
画像:beauty-boxさんによる写真ACからの写真

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でBadCats Weeklyをフォローしよう!