(by みくりや佐代子

「鬼滅とプぺルいつ行く?」

話題の映画「えんとつ町のプぺル」は、ひとりで身軽に観に行こうと思っていた。

ただ対象年齢が幅広いと知ったので、それならばと小学3年生の息子と6歳の娘にも声をかけてみることにした。すると夫からも「俺も行きたいな」と意外な返答が返ってきたので、結局プペル鑑賞が年始一発目の家族イベントとなった。

「えんとつ町のプペル」はキングコングの西野亮廣が原作・脚本を手がけている。

元々、「お笑い芸人・西野亮廣」は好きだった。ゴッドタン面白いし。

でも「実業家・西野亮廣」には興味がなかった。ていうかコレを書くためにフルネームを調べて、今初めて下の名前の読み方を知ったレベルだ。あきひろさんとお読みするんですね?

映画へ行く前日になって息子が「やっぱり行きたくない」と言い出した。なんでなん? 私また寒空の下バスケの自主練に付き合わされるんか? それだけはやめてくれ。

「なんで行きたくなくなったん?」
「俺、分からんまま行くのイヤなんよ」

よくよく話を聞いてみると、レゴやポケモンの映画はストーリーやキャラクターを知っている状態で観に行ったから楽しめたそうで、プペルについては絵本も読んでいないし登場人物を知らないことがネックなのだそう。

単純に「へえ、おもしろいな」と思った。私が幼い頃、映画に連れられて行く際は、親にあらすじもマトモに知らされずに鑑賞していたのに。情報過多な時代だからこそ「知らない」=「面白いかどうか確約がなくて不安」ということみたい。

最近の子供は皆こうなのかな? とても慎重で、「損したくない精神」が強い。

そんなわけで私はせっせとウェブでストーリーや登場人物など調べ、行きの車内で息子に説明した。後部座席の息子は「ふーん」「へー」と相づちを打って、隣で娘はノリノリでプぺルの歌を歌っていた。

映画は、大量の煙で空を覆われた「えんとつ町」を舞台に始まる。

主人公の少年ルビッチはハロウィンの夜にゴミ人間に出会い、「プペル」と名づけて友情を育む。ルビッチは今は亡き父親から「煙の向こう側に『星』がある」と聞かされ、いつかその「星」を見つけることを夢見て暮らしていた。

とりあえず映画冒頭の音楽が超良くて、元吹奏楽部員ならテンション上がるやつ! ルビッチとプぺルが出会う場面もアトラクションに乗っているようでずーっとハラハラ……! 映像による没入感がエグい!

ただ、映画を観る上で、ひとつ懸念点があった。

息子に説明するために下調べをしたので、もう作品のオチも伏線も把握してしまっている、いわゆるネタバレ状態。つまり、子供にとってではなく「私にとって」おもしろいと思えるんだろうか? 

けれど結論から言うと、それは全くの杞憂だった。

なぜならこの映画は「作品理解」の向こう側、「人物理解」を楽しむ映画だったから。

絵本の限られた情報では「人物理解」まで到達しないのが正直なところなのだけど、映画ではキャラクターの一人一人に生い立ちや境遇の違いが表現されていて、それによってそれぞれの今の性格や関係性が形成されているのがよく分かる。

登場人物のひとりである「スコップ」が穴を掘り続ける理由や、「アントニオ」がルビッチを嫌う理由など、散りばめられた話題も興味深く、物語の展開を楽しむよりも「自分の推しキャラ」を見つけることに夢中になった。

私自身はルビッチの母「ローラ」に自己投影した。もし息子が「ホラ吹きの嫌われ者」だったらどうだろう? 得体の知れない友人と危険をおかしていたら? それでも息子を、そして亡き夫の教えを信じてやれるだろうか?

また、主人公ルビッチにも自分が重なった。一昨年、9年勤めた安定企業を退職してライターになった私。年収は半分以下になり、親しかった同僚らとも疎遠になった。

「母親になってもまだ夢を見ているの?」

言われた言葉はまだ胸に刺さっている。けれど、それでも私は文章を書くのが好き。そんな精神的に幼い自分も励まされた気がした。

「人物理解」を通して、それぞれの角度の「正義」を見つめること。これこそが「絵本」だけでなく「映画」も観た方がいい理由なのだろう。

翌日。私の最後のお正月休み。

寒空の下、息子は大きなバスケットボールを手にドリブル練習に励んでいた。何を思ったかマイボールの5号球ではなく、夫の7号球を持って外に出た。

薄着で走り回る息子を見て「なんか背が伸びたな」と思った。そういえば最近えらいよーけ食べるもんなあ。

息子がこっちに駆け寄ってきて、水分補給をしてパッと私を見上げた。ちゃうわコレ、背筋が伸びたんじゃわ。いつもの猫背はどこへやら、しゃきっと真っすぐ立っている。

そうか、「えんとつ町のプペル」は補正下着だったんか。

息子は再びボールを手に取って、ひたすらにドリブルをしている。その気合いの入りように思わず笑いながら尋ねた。

「あんた広島ドラゴンフライズの選手になるん?笑」
「いやNBAに入る」

ほら〜〜〜〜。西野さん、責任とってくださいよ。地元の弱小ミニバスチームのこの子が変なこと言い出したじゃないですか。あと八村塁選手も渡邊雄太選手も活躍せんとってくれ。あなたががんばると息子が諦めんくなるわ。

でも、涙が止まらなかった。昨日映画館であれほど流した涙が、一日遅れてぶり返してきた。まだ寒さの厳しい公園のベンチ、涙を指で払うたびに頬が風を受けて冷えた。

息子よ、がんばれ。世界をおそれるな。そして母ちゃんもあんたに負けないように、がんばる。あんたが羨むほどの恥ずかしい大人に、なるけんね。

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(C)西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会
『えんとつ町のプペル』映画.comページ

 

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