(by こばやしななこ

わわわ。ピクサーの新作映画『ソウルフル・ワールド』が良すぎて、感極まっている。

『ソウルフル・ワールド』は新型コロナウィルスの影響を受けて劇場公開が中止され、去年の12月25日にディズニー+で独占配信された。正直、最高の作品がしかるべき環境で上映されないのは、あまりにもったいない。その一方で、大変な1年を過ごしてきた今だからこそ、この映画がいっそう私たちの心に響くのかなとも思う。製作されたタイミングが悪かったとも言いきれない。

日本では、2020年7月以降の自殺者が前年を大きく上回った。自殺者の増加は失業率の増加にともなっている。経済的に困窮した人が亡くなることを「経済死」と呼んだりもするが、実際に飢えて亡くなる人はまれで、ほとんどが自殺だ。

このようなことが報道されるたび、私はショックを受けていた。多くのコメンテーターが、経済が悪化すると人が死んで当然である前提で話すからだ。彼らは「経済死を防ぐために、経済を止めてはいけない」と言う。生活保護がある日本で、なぜ失業者が死ななければならないのか。仕事がなくなったくらいで人生に絶望するのは、べつに当然のことじゃないだろ。亡くなった人の選択を決して否定はしない。ただ「自活できない人は死にたくなって当然」の世の中は最悪だ。

なんで映画について書く前にこんな暗い話をしたのかといえば、『ソウルフル・ワールド』が「人生とはなにか」をテーマにした作品だからだ。哲学的で難しいテーマとメッセージが、映画では子どもから大人まで自然に理解できる楽しいストーリーに落とし込まれている。

あらすじを軽く紹介しよう。

主人公のジョーは、45歳の黒人男性。プロのジャズミュージシャンを目指しながら、音楽の非常勤講師をしている。彼は夢だったジャズ・クラブでの演奏が決まるが、なんとその直後にうっかりマンホールへ落ちてしまう。気がつくと、ジョーは肉体を離れソウル=魂だけの姿になっていた。彼はソウルの世界に来てしまった。

夢半ばでこのまま死にたくないジョーは、ずっと生まれることを拒み続けているソウル「22番」のメンターになる。メンターとは、ソウルが地上に生まれるために必要な「きらめき」をみつける助けをする役割のこと。きらめきがみつかれば、生まれる前のソウルは地上への通行証がもらえる。ジョーは地上に生まれたくない22番のきらめきを一緒にみつける代わりに、22番が手に入れた地上への通行証をもらうことを交渉。ふたりは力を合わせてきらめきを探すことになる……

22番のきらめきがみつかるのか、ジョーが生き返ることができるのかは一応ネタバレになるので伏せておこう。

この映画のすごいところは、「きらめき」という概念にある。

生まれるために必要なきらめきを、ジョーも22番も人生の目的だと勘違いしている。医者になるんだ!とか、人のために生きる!というような人生の目的が決まれば、地上に生まれることができるのだと。

その理論で言うと、人はなにかを成し遂げるために生まれてきており、なにも目標がなく、なにも成し遂げていない人には生きている意味がないことになってしまう。

きらめきとは、そんなものではない。空が綺麗だな、ご飯が美味しいな、街を歩くのが楽しいな。この世に存在しているのって悪くないかも。そういう感覚がきらめきであり、きらめきは人生の一瞬一瞬にあるのである。なにも成し遂げなくたっていい。人生に目的なんかいらないし、いくら稼いだとかなにを作ったかって「結果」は、生きる意味ではない。

人生は、生きている瞬間そのものだ。

でも、私たちは社会で生きるうちに、人生に目的があると思い込み、こう生きないといけないと思い込み、生きる価値があるとかないとか思い込み、目の前にあるきらめきを見失う。書きたいことを書いている瞬間が私のきらめきであるはずなのに、それが人から評価されないと、まるで私の人生に価値がないような気持ちになる。

好きなことをやって生きているようにみえたジョーも、きらめきではなく「結果」を追い求めてしまっていた。有名なジャス・クラブに立てれば、人生は充実すると錯覚していた。物語の終盤、22番とはぐれたジョーは「自分が求めていた結果は、人生にとってたいして重要ではなかった」と気づく。そして、夢半ばだと思っていたこれまでの自分の人生をまるごと肯定するのだ。

ジョーが人生を肯定する時、私もまた人生を肯定できた気がする。自分の人生だけじゃなく、すべての魂と人生を。

そして、「みんながそう思えたらいいのに」と、切実に思った。

いいじゃない。ただ生きていれば。それだけで十分じゃないか。私たちの頭の上には、ときどき綺麗な空がみえるのだし。

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『ソウルフル・ワールド』映画.comページ

 

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