(by 満島エリオ

2020年大晦日。初の無観客開催となった「第71回NHK紅白歌合戦」で、何組かのアーティストのパフォーマンスが高い注目を集めた。星野源の“うちで踊ろう(大晦日)”もその一つだ。

画面の中に現れた星野源は、いつものあの笑顔で「ニッポン!」と手を振り、歌った。それを見て私は、息が詰まるような、胸が苦しいような、そんな思いに囚われていた。

昨年4月、新型コロナウイルの感染拡大防止に伴う外出自粛が本格化した頃、アコギ一本で歌う1分にも満たない動画が星野源のInstagramにアップされた。それが“うちで踊ろう”の、いわばプロトタイプだ。

世界を巻き込む未曾有の災厄。人に会うどころか外に出ることさえままならなくなった世の中で、閉塞した日常を耐える人々へのエールとして、“うちで踊ろう”はあっという間に広がった。あらゆるコラボが生まれ、ついには当時の内閣総理大臣である安倍元総理までもがコラボ動画を公開するに至った。“うちで踊ろう”は間違いなく、2020年の日本のテーマソングの一つだ。

そして昨年、「紅白歌合戦」で星野源が披露したのは、1コーラスしかなかった楽曲に2番以降の歌詞/構成を加えた特別版の“うちで踊ろう(大晦日)”だった。

この初披露となった2番以降を聴いて、驚いた人は多いのではないだろうか。そこには、プロトタイプで見せていたポジティブなものとは異なる、失望感漂うことばが並んでいたからだ。ピンクのジャケットを着て、柔らかな照明の中、星野源は優しげな表情で歌った。

≪愛が足りない/こんな馬鹿な世界になっても≫
≪僕らずっと独りだと/諦め進もう≫
(2番の歌詞全文はこちら

この詞に表れている諦念とも言える感情は、今回突然出てきた概念ではない。「人は独りである」というのは、星野源の中でずっと変わらないテーマだ。2010年に出した“ばらばら”の中で彼は既に≪世界は ひとつじゃない/ああ そのまま ばらばらのまま/世界は ひとつになれない/そのまま どこかにいこう≫と歌っている。

けれど少なくとも、その時から星野源の社会での立ち位置は変わった。いまや星野源は日本人なら知らぬ人はいない国民的歌手であり、そして彼が出演したのは、国民的な音楽番組「紅白歌合戦」だ。

そもそも、星野源が昨年4月に“うちで踊ろう”を出した時も、私は少し面食らったのだった。「この人は、この国の人々のために歌う使命を背負ったのか」ということに。

人気が出れば出るほど、それを好ましく思わない人間の数も増える。ライトなリスナーが増えるほど、メッセージは曲解され、正しい意図は伝わりづらくなっていく。「国民的歌手」と言われるようになれば、なにくれとなく矢面に立たされ、批判の的になる。

そうならないように活動する選択肢もあったはずだ。テレビ露出を減らし、大晦日はお行儀のいい「紅白歌合戦」なんかではなく、例えば「COUNTDOWN JAPAN」に出演するだとか、自分のライブを開催するとか、気難しいアーティスト然としたスタンスで「国民的」というレッテルを避けることだってできたはずだ。

でも、星野源はそうしなかった。「国民的歌手」の看板を背負い、伝統ある「紅白歌合戦」に出て、そして“うちで踊ろう”を歌ったのだ。

わかっている。私は勝手に、悲観的な想像をしている。

星野源にとっては、「人々のために何かする」のはごく当たり前の行為なのかもしれないし、「紅白に出る」ということを、正しくシンプルに「誉れ」と捉えているだけなのかもしれない。あるいは、穿った見方をすれば、「紅白に出てこの“うちで踊ろう”の2番を披露すること」自体が、社会に対する盛大なカウンターなのかもしれない。ここまで書いたようなこと全部、承知の上なのかもしれない。余計なお世話なのかもしれない。

それでも、もう少し勝手な感情を語ることを許してもらえるのであれば、私は、星野源が、この馬鹿な国のために、いつまでも愚かな人々のために、それでも歌い続けてくれていることに、喜びよりも先に申し訳ないような苦しさを感じてしまったのだ。

“うちで踊ろう(大晦日)”は素晴らしかった。たしかに今、この世界に必要な音楽だった。

≪常に嘲り合うような 僕ら/“それが人”でも うんざりださよなら 変わろう一緒に≫

うんざりだと言いながら、それでも「一緒に変わろう」と手を差し伸べてくれる星野源の音楽は、私たちを照らす灯台の光だ。

だからこそ願わずにいられない。“うちで踊ろう”をはじめとする彼の曲が、この先いくら、この国のもののように扱われることがあったとしても、星野源の音楽が、変わらず星野源のものであることを。

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画像:TOGAさんによる写真ACからの写真

 

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