【名画再訪】『グッド・フェローズ』あなたの予想は開始120秒で裏返される!〜なあ、俺たちズッ友だよな?〜

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(by 隷蔵庫

1. 表紙がおっさんなので観る気が起きない映画

「グッド・フェローズ」という超有名ギャング映画がある。渋い顔のおっさんが3人、パッケージに浮かんでいるあの映画だ。

今でこそ「マジで面白いから見て!」と推せるものの正直最初は全く観る気になれなかった。Netflixのサイケなサムネの中におっさん3人を並べられてもいまいちピンとこない。大作ほど観るのを尻込みしてしまうものだ。
ギャング映画だし、どうせ登場人物がことあるごとに説教垂れてドンパチしてなんかハードボイルドな感じになってるんだろう。

その予想は映画の開始2分後に覆される。

2. これは「アンチキラキラギャング映画」だ!

「俺は、ギャングになりたかった」
 
冒頭、こうつぶやく主人公。それと同時に映し出される主人公の微妙な表情は、ハードボイルドとは言えない。普通のギャング映画——なんか兄弟愛と銃撃戦で主人公がのし上がっていくステレオタイプなギャング映画なら——多少なりともギャングスターのカッコいい場面を最初に持ってくるものではないだろうか?

しかし「グッド・フェローズ」は、最初からギャングのカッコよさを否定して始まる。冒頭、主人公たちはとある男をナイフや銃で殺害して埋める。殺し方もナイフで何回も刺すというもので、カッコ良さというよりは段取りの悪さが感じられる。

この映画は、他のギャング映画と同じくサクセスストーリーではある。主人公はただの街の青年からギャングの一員へと成り上がり、富を築く。

画面作りは洒落ているので視覚的に楽しい。50年代アメリカの街並みが雑然と美しいのはもちろん、主観カメラ長回しによるギャングのイカれたメンバー紹介シーンとか、主人公が恋人と人気レストランの長蛇の列をすり抜けて裏口から入場するシーンなど、ギャングすげーとなる場面もたくさん用意されている。登場人物のキャラも濃い。主人公の同僚であるジミーとトミーは見ていてかなりハラハラする。また、主人公がナレーションする映画が好きな人はこの映画を気にいるだろうと思う。主人公の語り口がセンスいいので何回も見返したくなる。

しかし、一番フォーカスされているのは地味な派閥争いや人間関係の交錯だろうと個人的には思う。

ドンパチもあるし、見ていて結構ドキドキするシーンは多いが、多くは「捕まるから派手に金を使うな」だの「イタリア人の血が入ってないから幹部にはなれない」だのあらゆるシーンで地味な対立や問題が起こり、解消されていく。現実的だが「スカーフェイス」的なキラキラしたギャング界をこの映画に求めると肩透かしを喰らうだろう。

主人公の妻もめちゃくちゃ強い。浮気されれば夫に銃を突きつけ、夫の仕事仲間(ギャング)に泣き付き、しまいには主人公が仲間から「よりを戻せ」「カッとなったら何をするかわからん」と諭される始末(この辺もなんかリアル)。極道の妻はこれほどでなければ務まらないのか……。そんなわけで、地味な対立、よく言えばリアルなギャングの実態を楽しめるのがこの映画なのだろう。ギャングに会ったことはないので実際のところはわからないけれど、映画は実話からできているらしい。ちょっと納得。

3. 理想ではなく現実

ギャングといえば兄弟愛だが、この映画に理想は描かれない。あるのは単なる日常と犯罪と裁判だ。
自分が不利になれば裁判で自供するし仲間を簡単に裏切る。まあ、主人公のことなんだけど……

自分はなんとなく、この映画を見て小学生の頃を思い出した。
例えば「かけっこで一緒に走ろうね」と言ったのに開幕早々先に走っていく友達。いつも「友達だよね」と言ってるくせに体育の授業では二人組になってくれない友達。迷惑行動しかしないくせにいいとこだけかっさらって先生に「一目おかれる」友達。
……
身に覚えがないだろうか?
グッド・フェローズの世界も、大体同じなんじゃないかという気がしてくる。みんな自分の利益しか考えていないのだ。先述した同僚のジミーはその頂点に立つようなやつで、頭は切れるが仲間も簡単に裏切るし、必要ならば躊躇いなく殺す。

さらに、トミーのような「危ない奴」の描き方もうまい。

あなたの周りにも突然意味のわからないことでキレだすやつはいないだろうか。地雷がどこにあるか全くわからないやつ。口答えしようものならどんな手を使ってもこちらを潰そうとしてくる人間。流石にトミーのように殺人はしないまでも、このような危ない奴に敗北(防衛?)した人は多いのではないだろうか。

私たちが慣れ親しんだ容赦のなさや非情さがギャングを通して描かれている点が、グッド・フェローズの特徴的な部分だと自分は思う。非現実的なギャングの世界だが、結局は誰しも持っている私利私欲や出世欲で回っていて、それらが現れては消えていく無常観がこの映画を親しみのあるものにしている。

散々ギャング映画という単語を使ったが、実のところギャング映画というのは欲に対する皮肉が含まれているものだ。(「ゴッドファーザー」を観てない人間が語るなと言われたらそれまでだが)それこそ「スカーフェイス」のラストは強烈にギャングのカッコよさと無常さを表していて好きなのだ。というかめっちゃ好き。

最後に、グッド・フェローズという作品をよく表した作中の一節を引用して終わりにしたいと思う。

組織の奴らは前触れもなしに相手を殺す 
何も言わない 
映画みたいに言い争いもしない 
殺し屋は親しげに微笑みながら現れる 
最も助けが必要なとき 力になってくれるべき者が冷酷に忍び寄る

映画『グッド・フェローズ』より

社会は——人間関係は——なんて薄情なんだ!と思うあなた!
ギャングの世界に比べれば多少マシ……かもしれない。
 
そんなことないか……

ちなみに自分が一番好きなシーンは主人公たちが刑務所でミートソース(トマトソース?)を作るシーン。めっちゃ美味しそう。ギャングの権力最高。

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『グッド・フェローズ』映画.comページ

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この記事を書いた人

隷蔵庫のアバター 隷蔵庫 ノベルゲーム作家

小説描きたかったのに、いつの間にかゲーム作者になった人間。代表作『真昼の暗黒』『ベオグラードメトロの子供たち』など。ノベルゲーム制作サークルsummertimeを運営。