【名画再訪】『エターナル・サンシャイン』を観ておセンチに泣く夜

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(by こばやしななこ

センチメンタルになって泣きたい夜がある。私がもっと美人なら、こうゆう感情にはならないのだろうか。とにかくそんな夜には『エターナル・サンシャイン』を観てさめざめ泣くのが一番だ。

初めてこの映画を観たときは、感情が大きく動くことはなかった。そこからいろんな経験といくつかの恋愛をして再びこの作品を観たら、過去と未来のあらゆるシーンを肯定する映画なのだと分かって号泣した。

『エターナル・サンシャイン』は、特定の記憶だけ消去できるサービスがある世界が舞台のラブストーリーだ。

恋人のクレメンタインと喧嘩した男ジョエルが彼女に謝りに行くと、クレメンタインはすでに他のボーイフレンドといちゃついている。ショックを受け家に帰ったジョエルは、共通の知り合いからクレメンタインが自分との思い出を消したと聞かされる。そこで彼女への腹いせに、ジョエルも彼女との記憶を消すことにするのだった。

「記憶を消すサービス」とは、記憶を消したいクライアントが睡眠薬を飲み寝ている間にスタッフが家を訪問、眠っているクライアントの脳中を追跡し、ひとつひとつ特定の記憶を消していくという仕組みだ。

施術をされているジョエルは脳内に現れる彼女との思い出を、夢を見るように追体験する。記憶から次々に彼女が消えてゆくうちに、ジョエルは次第に悲痛な表情になっていく。この記憶だけは消さないでくれ。そう思った記憶も、あっけなく消されてしまうから。しかし、眠っているジョエルはスタッフに作業をやめろと伝えることができない。そこで脳内にいる彼女を連れて、追跡から逃れるために記憶の中を逃げ回ることにするのだ。

幸福と痛みは表裏一体だ。幸福な瞬間が幸福であるほど、失った時の痛みは大きい。だから幸福な瞬間を忘れてしまえば、心は痛くなくなる。

でも、安定した精神が手に入るからって、恋をしていた「あの瞬間」がぜんぶ消えちゃったら生きている意味ってなんだろう。

ジョエルはクレメンタインの手をとり、走りださなくてはいけないのだ。絶対に。

ベッドに入って眠りにつく前に、過去の記憶を辿る癖がある。幼稚園で仲良くなった中国人のイェンちゃんと、うちでアニメを一緒に見たこと。小学生の時に憧れていた2学年上の男の子の癖のある歩き方。初めて付き合った人がくれたヨーグルト味のキットカットを、苦手だけどまぁまぁ無理して食べたこと。そもそも、記憶を消す施術を受けなくても、私たちは過去の出来事を勝手に忘れていっている。私は忘れてしまうのが怖くて、定期的に思い出を掘り起こしているのだ。

こんな性格だからか、ジョエルの記憶の中からクレメンタインが消えたら映画を観ている自分の特別な記憶も消えてしまうようで、ジョエルに過度に感情移入してしまう。逃げて。お願い。クレメンタインを消させないで。何度も映画を観て結末も知っているはずなのに、何度だって切実に祈っている。祈りながら感情が昂り、涙がこみ上げてくる。『エターナル・サンシャイン』観ながら夜中に泣いている女って、なんておセンチなんだ。自分でも気持ち悪いとは思うが、気持ち悪いことしている時って気持ちいい。

今さらだが『エターナル・サンシャイン』の主役、ジョエルを演じているのはジム・キャリーだ。ジム・キャリーといえば天才的なコメディ俳優というイメージがあるが、この映画ではもはや誰か分からないほど繊細で抑えた、けれど真に迫った演技をしている。ジョエルに異常に感情移入してしまうのは、ジム・キャリーの演技がすごいからもかなりある。ジムの瞳は、こぼれる寸前までいっぱいにジョエルの悲しみで満たされている。マジでジム・キャリーがジム・キャリーに見えない。

この映画のジム・キャリーをジム・キャリーだと思ってみると、あなたの中のジム・キャリーがゲシュタルト崩壊すると思う。わざわざジム・キャリー主演と書いておいてなんだけど、ジム・キャリー主演という情報は忘れて観ることをおすすめする。

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(C)2004 FOCUS FEATURES,LLC.
映画『エターナル・サンシャイン』映画.comページ

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この記事を書いた人

こばやしななこのアバター こばやしななこ サブカル好きライター

サブカル好きのミーハーなライター。恥の多い人生を送っている。個人リンク: note/Twitter