(by みくりや佐代子

理不尽だ!納得できない!こんな世の中イヤになる!
そんな気持ちになったことが誰もが一度はあるのではないだろうか。

私にとってのそれは高校3年生のこと。友人に誘われ、生まれて初めて一日だけ派遣でアルバイトをした。人通りの多い場所で街頭アンケートとティッシュ配りをするバイトだった。立ちっぱなしという身体的なつらさよりも人に無視されるつらさの方が大きかった印象がある。

数日後、まだ元気だった祖父母が家に来た。祖父がおもむろに立ち上がって兄の部屋をノックした。兄は当時自室にひきこもる生活をしていて、親や兄弟とは不仲だった。祖父はドアごしに一言二言かけた後、少しだけ開いた隙間にねじこむようにして一万円札を手渡した。

私はあの光景を、怒りを持って覚えている。理不尽で納得できない出来事。生まれて初めて「働く」の真似ごとをした私が、「働く」をしない人が簡単にお金を得ることに怒っていた。私は知らなかった、そのお金を受け取ることが彼をどれほど傷つけていたのか。
そして私も彼も、別々の不服を抱きながら、その状況に何の抵抗もしなかったのだ。

『アズミ・ハルコは行方不明』は解釈の難しい映画だ。蒼井優演じる安曇春子が行方をくらました理由、高畑充希演じる木南愛菜の能天気な頭の中、アートユニット「キルロイ」が街中に描く安曇春子の顔のステンシルアート、男性に暴行を加えるJKギャング集団の好き勝手な振る舞い……。私たちの日常にはない数々の謎が、妙なリアリティを持って物語を前に進めていく。

失踪前の春子が働いていた職場では、男性上司らが仕事もせず世間話の延長でこう言って笑っていた。
「安曇さんは”大丈夫”だよ、結婚できるタイプだから」
「ただね安曇さん、もうちょっと女っぽい格好した方がいいと思うよ」
「スカートとか履いた方がいいよ」
女性軽視の発言が日常的になされる環境には春子も違和感を感じていた。上司らは「結婚すること=女性の人生の成功」だと信じて疑わないようだった。
春子に再度、同じ言葉が投げられる。不必要な親切で包んだ空っぽの言葉。
「ま、安曇さんは”大丈夫”だよ」
理不尽で、納得いかない。けれど春子は苦笑いを浮かべるだけで何の抵抗もしないのだった。

全編を通して印象的なのは、多種多様な「抵抗」の形だ。それぞれの正義に基づく「抵抗」が散りばめられている。

JKギャング集団は男性だけを狙う暴行の動機を「私たちは男に復讐してるだけ」と語った。つまり男性への嫌悪に対する抵抗の方法が「暴力」なのだ。職場で「年齢を重ねると卵子が腐る」「子供を産まない女が税金を増やしている」と言われていた女性社員の吉澤は、自分を馬鹿にしていた上司らに突然国際結婚の報告を突きつけて去った。仕事のデキない男たちを見捨てる「退職」という抵抗。春子の同級生のえりは結婚生活に限界を感じあっさり離婚、つまり「離別」という抵抗で生活を変えた。アートユニット「キルロイ」は「何かデッケーことしてえなあ!」と叫んでいた毎日の退屈に、街の「ラクガキ」という抵抗をした。

そして春子のとった選択は、行方をくらますこと。「逃避」という抵抗だった。

抵抗の方法を考えてみる。

私には他人の血を望むような暴力性もなければ街中の壁にラクガキをする芸術センスもない。目の前の光景に何かがおかしいと感じても、抵抗に直結する衝動が湧き起こらない。そこではたと気づいた。理不尽を前に何も抵抗しないのは、ものすごく危険なことなんじゃないか?

私たちはもっと怒らなければならない。目の前の理不尽に。職場で黙り込んだ春子も、祖父が兄に渡すお金を妬んだ私も、声をあげなければ誰かが察してくれるわけなどないのだ。それがたとえ不格好で、やみくもであっても、何もしないままで住みよい日常が自然と訪れるはずなどないのだ。

物語の終盤で一つ、大切な裏切りがある。
愛菜は上手くいかなかった恋愛への抵抗として「死」を選ぼうとする。その場にふらりと現れた春子が静かにその選択を制止して、彼女にこう伝えた。
「消えちゃえば?一度消えちゃうの。消えて、生きるの」
それは抵抗の方法として「死」が成立しないこと、同時にそれ以外の選択であれば愛菜は再生できることを意味していた。

エンドロールが流れる頃、私の中にはすでにエネルギーがみなぎっていた。一日のうちの些細な切れ端から自分の中の何かを変えたい。思考から行動までの長すぎる導火線を捨てたい。この映画から感じとったその衝動は、確実に胸の中に種を残した。

抵抗の方法はいくらでもある。「何もしない」が最も罪深い。だから起こすのだ、私たちのアクションを。自分なりの熱い「抵抗」の方法で。

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© 2016 Japanese Girls Never Die Film Partners, (C)2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会
映画『アズミ・ハルコは行方不明』映画.comページ

 

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