(by 安藤エヌ

なぜ「書いている」んだろう。

そう、自問自答することがある。いつから「書く」ことを始めたかといえば、おそらく高校時代からで、「書く」ことが楽しいと知り、大学は専門的に学べる学科を目指し、入った。その時、私は人生最大(であろう)の病を患っていたので(心の病気だった)、決して満足に学べた、といえる結果は残せなかった。それでも歯を食いしばるように、「文章を書くことが好きだ」と思い続け、ライターという仕事を続けている今に至るまで、ひたすら文章と向き合っている。

なぜだろう。なぜ、文章でないといけなかったのだろうか。
人間というのは、しばしば自分自身の人生に意固地にならなければいけない時というのがある。かっこよくいえば、「譲れない何かを持つ」ということだ。拙くても未熟でも、ただひとつ「好きだと思える」ものを続ける精神さえ持っていれば「報われる」。何に報われようとしているかは分からないが、とにかく自分の人生で何かに躍起になっていれば、不用意な不安を抱えずに済むのではないか、と思っている。

その不安には、心覚えがあった。病気をしていた時、常に感じていた虚無感の正体がそれだ。この先、どうやって生きていけばいいのだろう、こんな私にも、何か夢中になれるものが生きているうちに見つけられるだろうか。漠然としている毎日の連続は、たまらなく怖かった。宙ぶらりんのまま、力も入らないのに鉄棒にしがみつき懸垂をしようとしているようだった。

何もできない。何もがんばれない。そんな自分があまりにも無様で、許せなかった。そんな不屈の精神が、もしかすると私を「文章の道」に導いたのかもしれない。しかし、神様はそこでも私に試練を与えた。文章を書き続けるということは、やわなものではなかった。もがくように自分の物語を書き、水面から顔を出して必死に呼吸するのと同じように本を読み、そこから吸収したものをエラ呼吸の要領で自分のものにしようとあがいた。

そう、私の人生はそういう「泥臭い」ものなのだ。
私の人生こそが、もしかしたら一編の粗雑な物語に値するかもしれない。いつか書いてみたい、と思う。青々しい、自分の人生を、文章にしてみたい。それが傑作とは程遠いものだとしても。

文章の持つ「人間味」が好きだ。言葉から滲み出てくる人間の情けなさ、みっともなさ、愛おしさを望んでいる。そういう点では、私の書く文章は何か条件的なものをクリアしているような気がする。泥を這って生きている人間は、泥の上でしか書けないものが書けるはずなのだ。きれいなキャンバスやノートの上でなく、書いても書いても濁流にのみ込まれ消えてしまうような儚い文章が、私には、書ける。

書かないと生きていけない。文章にして叫び続けないと死んでしまう。
私はそういう人間だ。文章を書かない人間にとっては、奇特に見えることだろう。それでも「私達」にしか見えないものがある。そう、「文章を書き続ける人間」にしか分からない、愛憎渦巻くことばへの感情が。愛おしいのに憎い。二度と書きたくないと思っても、夜明けにはまた真新しい言葉の群を求めてさまよう。文章を書くことを愛し、生きがいとしている人間というのは、そういう人達なのだと、私は思う。

私の願いは、ひどく俗物的だ。それは、自分の書く文章がもっと多くの人に読んでもらえるようになること。本当に単純で、呆れるくらいに凡庸だ。でも、それしかない。そうなるために、文章を書いている。悪いことじゃない、正しい感情だと、ここで思いきり胸を張って叫びたい。
私は、私の書く文章が、半身だ。もうすっかり、私の一部なのである。だから、私のことを、文章を通して見てもらいたい。私のこの無様で必死な生き様を、誰かに見つけてもらって、手を差し伸べるまでもなく「分かって」もらえたら、それだけでいいと思っている。

レゾンデートル。そんな洗練された言葉じゃないけれど、冒頭で問うたものへの答えは、この言葉だと思う。存在証明。青臭い、泥魚の叫び。

今日も最初の「ことば」をタイプする瞬間が、いちばん恐ろしくて気持ちがいい。

(追記)そんな泥臭い思いを一身にぶちまけた自作の長編小説が一編ある。
私はこの話を、いまだ客観的に処理できていない。それだけ自分の人生と癒着している物語だと感じ、そしてまだ、たくさんの人に読んでもらいたいと切に願っている。よかったら、さわりだけでも読んでもらいたい。続きが気になった方は、文庫版で若干数在庫を販売しているので、そちらも見て頂けると幸いに思う。
本文(一部):https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11965537
販売ページ:https://hakuzyou.booth.pm/items/1110205

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画像:ぷんぱにっけるさんによる写真ACからの写真

 

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