(by 蛙田アメコ

久しぶりだね、映画館! 元気にしてた?

6月のおわり、マスクを持ってソシャディス(ソーシャルディスタンス)をとって、とことこと映画館に行った。ポップコーンとメロンソーダを買った。メロンソーダは大好物だ。

映画館に「入場する」瞬間にはマスクをみんなしていた。そこから先は、マスクをしている人もいたししてない人もいた。「飲食時をのぞき、マスクをご着用ください」というアナウンスが再三流れていた。私はにぎやかな娯楽映画を観ている最中に、5秒に1回ポップコーンを食べたりメロンソーダを飲んだりしているタイプなのでマスクをつける暇がなかった。建前と実情。なるほどね、こうして「日常」が始まるのかという気持ちになった。

久々の映画館。去年の今頃には毎週レイトショーで映画を観ていたなんて思えない。映画館に行く、っていうことが『特別』になってしまったのだと実感した。

さて、見に行ったのは『ドクター・ドリトル』。

ロバート・ダウニー・Jrと伴侶であるスーザン・ダウニーの独立プロダクション、チーム・ダウ二―が制作した『ジャッジ 裁かれる判事』(2014)に続く2作目の長編映画だ。チーム・ダウニーは少なくとも今まで発表してきた2作ともにハイクオリティで、とかくロバート・ダウニー・Jrが魅力的。ロバート・ダウニー・Jrの撮り方をめちゃくちゃ分かってる。さすがチーム・ダウニー。『ドクター・ドリトル』は、普遍性のある物語だ。そして、ほぼほぼディズニーの一強状態である『童話系ファンタジー』に一石を投じる新進気鋭のプロダクション、チーム・ダウニーの快進撃の幕開けなんじゃあないかと勝手に期待もしている。いままでマーベル作品にかかりきりという印象だったダウニーが、ついに映画の主演に戻ってきた――その、記念すべき1作目。そして、亡くなったダウニーの担当声優・藤原啓治氏の最後の作品だ。

日本語吹き替えをチョイスした。映画は最高だった。まごうことなき、優しく誠実な主人公、美しく聡明なお姫様、心に傷を持つ偏屈で賢いヒーローと仲間たち、そして、チャーミングでだめだめな悪役……正統派の冒険活劇!!! そうそう、こういうのが観たかったんだよ!!!

そして、日本語吹き替えの豪華さ、巧みさ、職人芸は言うまでもない(日本語吹替のすさまじさについては、すでに様々に語られている)。動物とお話しできるお医者さんの児童文学は、きっと多くの人が一度は読んだことがあるだろう。その実写化……考えただけでも難しいプロジェクトだ。美しいオープニングアニメーションから、一気に実写へ。けれども、そこは間違いなく『ドクター・ドリトル』の世界だった。お茶目で食えない変わり者を演じたら右に出る者はいないロバート・ダウニー・Jr、どこまでもリアルで多様でチャーミングな動物たち、顔のいいアントニオ・バンデラス、すっとぼけたスノッブが上手すぎるマイケル・シーン! もう、最高だった。久々に見たダウニーの演技も、久々に聞いた藤原啓治の吹替も、ほんとうに素晴らしくて「久々の映画がこれでよかった」と心から思った。けれども……私は知っていた。これは、愉快で楽しいお別れなのだと。

映画館からの帰り道。
それでも世界は回るのだという点において、例の疫病で様変わりした世界というのは「みんなが知っている誰かの死」に似ているなと、小さい頃から変わらぬ多摩川に沈む夕陽を眺めて、そう思った。

映画館にマスクを持たずに行けない世界は、もう始まってしまった。藤原啓治の吹替が存在しない世界が始まる。

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(c)2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.
映画『ドクター・ドリトル』公式サイト

 

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