【フリーに生きる】第1回:ラノベ作家・蛙田アメコの場合〜宙ぶらりんな私たちへ〜

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(by 蛙田アメコ

2020年2月4日をもって会社への出勤をやめた。

なぜ『出勤をやめた』なんて煮え切らない書き方をするのかといえば、いわゆる『休職期間』をいただいている。会社員でもなく、フリーランスでもない宙ぶらりんの私は、眼前に広がる『フリーに生きる』という選択肢をぼんやり眺めている。私にとって『フリー』という概念は、地平線やら水平線のようなひどく実在性のあやふやなものだ。何かに属していない自分のちっぽけさや、力の至らなさにただただ愕然とする。小説だって大してうまくないし、業界に顔がきくわけじゃない。カリスマ性もなければ、きらびやかな「若手」でもない――ああ、もうだめだ。フリーな時間の大海原で、楽しく帆を張りながらも見えない港と大嵐に怯えたりしている。使える時間がいままでの何倍にもなって、でも、やりたいことや、やらなくちゃいけないことは数百倍になってしまった……そんな感覚だ。羅針盤が欲しい。

『フリー』ってなんだろう。
自由であるさま、束縛や制約のない様子。
特定のパートナーを持っていないこと。
フリーランサーである状態。
スペルは違うけれど、ノミ。
……あるいは、天才ベーシスト。

現在の私は、フリーランサーであり特定のパートナーを持たず自由に生活をしている人間だ。『フリー』であり『フリー』であり『フリー』である……天才ベーシストじゃなかったのは残念。

今までの自分は、正社員であることや既婚者になることに強くこだわりを持っていた。実際の自分は、幼少期から1度たりとも運動会の団体競技にまともに参加できたためしがないヤツだったのに。たぶん誰よりも『フリー』に憧れながら、自分を『フリー』な状態から遠ざけ続けてきたのだ。

COVID-19(新型コロナウィルス)の流行で、会社に属しながらもいわゆるフリーランスと聞いてイメージするように自宅で作業をする人が増えた。今まで、浅はかにも『会社に出勤しなくていいこと』がフリーだと思っていた私は、大いに悩んだ。このままテレワークが普及すれば、会社への所属を続けることができるんじゃないか。出勤中にストレスで倒れてしまうようになった自分にも、『会社員』の道は残っているのかも、と。

けれども、すぐに思いなおした。だって、フリーの大海原で楽しく笑いながらも不安定な不安におろおろしている私は、確実に前よりも「よく」なっているのだ。自分の至らなさを見つめられる時間があるし、会社員時代に失っていた心と体の健康を取り戻しているし、すっきりと5キロほど痩せたし、飼っているインコと毎日たっぷり遊んでいる。今から天才ベーシストにはなれないけれど、なりたい自分に向けて精一杯帆を張って、オール振り回すくらいはできるような気がする。途中で座礁してもご愛敬、『なりたい自分』と『したい生活』という羅針盤はもうこの手にあるのだ――なんて、唐突に気づいたりする。大丈夫だ、たぶん。根拠はないけれど、きっと、私は大丈夫。

アフターコロナの世の中で、今の私はとってもあいまいな存在だ。

今までの続きであり、今までと断絶している。
会社員であり、会社員でない。
フリーランサーであり、フリーランサーではない。
予測ができて、予測がつかない。

この宙ぶらりんな『フリー』に、少なくとも今の私は救われている。

聞いたところによると、2020年コロナ禍の吹き荒れる春、我が国の自殺率は低下したようだ。
「学校に行かなくちゃいけない、とは限らない」
「会社に行かなくちゃいけない、とも限らない」
そんな宙ぶらりんが色濃くなった自分の時間を、自分で使える――いわゆるフリーな状態というのは、私たちを少しだけ救ってくれるのかもしれない。

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画像:ohsakaさんによる写真ACからの写真

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この記事を書いた人

蛙田アメコのアバター 蛙田アメコ ライトノベル作家

小説書きです。蛙が好き。落語も好き。食べることや映画も好き。最新ラノベ『突然パパになった最強ドラゴンの子育て日記〜かわいい娘、ほのぼのと人間界最強に育つ~』3巻まで発売中。既刊作のコミカライズ海外版も多数あり。アプリ『千銃士:Rhodoknight』メインシナリオ担当。個人リンク:  小説家になろう/Twitter/pixivFANBOX