(by こばやしななこ

ずっとずっと公開を待ち望んでいた映画が、ついに公開された。

『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』は、言わずと知れた少女文学の名作小説『若草物語』を『レディ・バード』のグレタ・ガーウィグ監督が映画化したものである。

小説『若草物語』は、戦争で父がいない1年を母と四姉妹たちが支え合って乗り越える姿と、姉妹が近所のお屋敷に住む両親を亡くした少年ローリーと仲を深めていく様子を描いた物語だ。

主役の次女ジョーは活発でお喋りで自立心が強く、作家になりたい少女だ。『レディ・バード』のヒロインともかなり似たキャラクターのため、同じ監督・主演女優の組み合わせで映画化されることに心躍らせてきた。

やっと観ることができた今、言いたいことが山ほどありすぎて困っている。文字数に限りがあるのが悔しい。

まさかの回想形式だった

いざ、映画館に足を運ぶと、まず『続・若草物語』の時間軸で生きるジョーが7年前の『若草物語』の時代を回想していくという構成になっていたことに驚いた。

『若草物語』だけ読んでいて続編に思い入れのない私としては、「大好きな場面はダイジェストでしか見せてもらえないの……?」と序盤ではかなりふてくされていた。

しかし結果的には、この回想形式は完全な成功だった。

主人公のジョーが妹ベスの病のために実家に戻ると、そこにはベスと両親だけが暮らしている。

ここからジョーの回想に意味合いが生まれる。姉妹全員が輝く未来に夢を抱き、楽しい時も辛い時も一緒に乗り越えた思い出は、自分たちが選んだ、または選ぶ余地のなかった現実を背負ってそれぞれに生きる今の四姉妹の対比となって、過ぎ去った日々のかけがえのなさを感じさせた。

さらに物語が進むにつれ、ジョーの回想=ジョーの書く物語というような意味合いも生まれる。その二つが交わる瞬間、ジョーがペンを取り夢中で文章を書くシーンは胸がいっぱいになった。

『若草物語』は原作者ルイザ・メイ・オルコットの自伝的小説だ。ジョーの回想=ジョーの書く物語=オルコットの書く物語=オルコットの人生と、回想の意味合いは幾重にも重なり、実際にこの世に生きた女性の物語としてリアルに響いてくるのだ。

「結婚しなくても幸せ」のベンチマークって意外にない

続編のジョーと作者オルコットの間には決定的な差がある。ジョーは愛する人と結婚するのに対し、オルコットは生涯独身だった。

今回の映画では、「結婚しない人生にも愛と幸せがある」ことについてしっかり描かれているところに、オルコットへのリスペクトが詰まっている。

根深かった「年頃になったら結婚し家庭を築くもの」という概念も少しずつ薄まり、個人の選択が尊重されるようになりつつある現代でも、結婚せず子どもを持たない人生にはどうしても孤独なイメージがつきまとう。もちろん、実際には違う人もたくさんいるだろうが。

映画ではジョーの人生において結婚に重きをおかず、「小説を書くこと」と「学校を開くこと」によって自分が子どもを産み育てること以外でも次の世代へ大きな良いものを残せることが示されている。生涯独身という言葉にまとわりつく孤独感はない。これを観た少年少女が「自分が思い描くように生きていい」という将来へのイメージを抱けるようなラストの展開は、今の時代の『若草物語』として納得感があった。

それだけでなく、長女メグと四女エイミーの「愛する人と結婚する人生」の美しさも描かれている。結婚しない人生の肯定が、結婚する人生の否定にならず、いずれにせよそれぞれ自分の物語を生きることが素晴らしいのだと思えるところもいい。

キャスティングが神

ジョーは言わずもがな、キャスティングは神がかっていた。

特に演じるのが難しいであろう、天使のようなベス役のエリザ・スカンレンは圧巻だ。他者への思いやりや、静かな命の煌めきを体現していた。ベスは物語の良心だ。自己主張が激しくない控えめな女性にも、しっかりとした人格があると気づかせてくれるし、主人公を動かすモチベーションにもなる役なのでとても重要なのだ。

そして、ローリー役のティモシー・シャラメ。もう、彼がこの役をやると聞いた時点で体が3センチくらい浮く思いだったが、実際完璧だった。「女の子みたいな名前の孤独な少年」にぴったりの中性的なヴィジュアルや、大人びて見えるのに四姉妹の中に入ると発揮される無邪気さ、ジョーとの相性……「パーペキ」と呟くほかないくらいローリーそのものだった。

まだ未知の感染症の流行も完全に落ち着いていないこの時期に日本公開されることになったのは、映画にとっては不運かもしれない。だが、劇場公開時に限らずこれから長い間、この作品は若者へ多様な生き方のイメージを与え、愛されていくだろう。

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(c) ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』公式サイト

 

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