【ゲームエッセイ】死角から振り返る『ファイナルファンタジーVll』と『ファイナルファンタジーX』

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(by 葛西祝

名作は時間の経過に耐えうるという。よく言われる「名作は何度見ても発見がある」という言葉は、そもそも見る自分たちが変わり、視点が変わったことが大きい。時を経て、自分と環境が変わってしまっても、鑑賞に耐えうるからそう言われるのだと思う。

ファイナルファンタジーシリーズで屈指の評価を得た『ファイナルファンタジーVll』と『ファイナルファンタジーX』は、そうした名作にはちがいない。ふたつとも、時間の経過を耐え抜いたいくつかの共通点がある。

野村哲也によるキャラクターデザインをはじめ、オーセンティックな中世ファンタジーの世界観ではないこと。シリーズの映画的な演出を一段押し上げたこと、そしてプレイヤーと主人公の関係を逆手に取った脚本。それらの試みが高い完成度を見せたことがそうだ。だがいま振り返って興味深いのは、現実の大きな災害を思わせる内容だ。原発と津波である。

311で東日本を襲った津波と福島第一原発の崩壊は、多くの人々の価値を書き換え、それ以降のフィクションのリアリティラインにも影響を与えた。自分も例外ではなく、311以前のフィクションを見るときでさえ、違った意味で捉えるようになっていた。

『FFVll』と『FFX』はそんな死角から、違う姿を見ることができる。たとえば『FFX』を遊びなおしたとき、以前よりも切実に見えるようになった。作中で描かれる災厄の多くは、アジア圏の文化をリファレンスした世界観もあり、現実のアジアで起きる自然災害をモデルにしていたと思う。

かつて東南アジアの各国でしばしば起きた津波は、ニュースで報道される遠くの物事だと感じていた。しかし311を経験したことで、初めて津波を身近な脅威だと思うように変わった。

多くのファンタジーで災厄はあいまいな一方、自然災害はいずれ訪れる出来事としてはっきりしている。作中の “シン”は自然災害のメタファーであり、それに打ち勝つために選ばれた召喚士が、災害を受けた場所を癒しながら、人身御供となることが発覚してゆく。『FFX』は自然へと生贄を供養して治める、土着的な物語を組み込んでおり、現実に津波を経験したことで生々しく感じる。

津波よりもずっと影響が続いたのは原発だった。『FFVll』が発売された当時、魔晄炉がどういうことかを気にせずに遊んでいたが、あれが原子炉を模したことに気づいたのは後のことだった。地方にメルトダウンした炉も登場することではっきりし、その意味や切実さもまったく変わってしまった。

なぜ原発を参照した設定にしたのだろうか? 日本のビデオゲーム(ないしサブカルチャー)はポリティカルな要素は排斥していくことで進歩していったと思う。当時のスタッフはなんらかのポリティカルな意図はあったのだろうか? まったくないだろう。

おそらくは『風の谷のナウシカ』や『AKIRA』など80年代の冷戦時、核戦争がモチーフになるような亜種だと思う。実際、プロデューサーの坂口博信くらいしか何らかの思想のある発言をしていない。それも特定のポリティカルな立場を表明するものではなく、ライフストリームという設定へのスピリチュアルな言及だった。

いま『FFVll』を振り返ると、思わぬ形でポリティカルな意味合いが強くなってしまった、と感じる。物語は星の生命を奪う魔晄炉を破壊するテロ集団をメインとして始まる。IGN JAPANの番組を見ると、そこに2001年に起きた911も想起したことも語られていた。

2001年以降のテロリズムと、2011年の原発。ふたつのリアリティラインが書き変わる出来事を越え、『FFVll』はリメイクされる。もちろんポリティカルな意図も、暗喩さえも持ち込むことはないだろう。だがプレイヤーと環境は20年で変わった。リメイクも一定のリアリズムで描く以上、災害や事故に関わるリアリティラインの変化も反映される。

実際に『FFVll リメイク』をプレイしたとき、リアリティラインの変化は細やかな所に現れているように思えた。オリジナル版では魔晄炉を爆破したあとの街で、人々がどんな様子を見せていたかはわからなかった。そこで『FFVll リメイク』ではその後の街で、人々がうろたえる姿が見られる。そして現場の作業員はどうしていたかのエピソードも追加されている。表立って描いてはいないものの、確かに現実が変わった影響があるのだ。

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『ファイナルファンタジー7 リメイク』公式サイト
(イラスト by 葛西祝

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この記事を書いた人

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ジャンル複合ライティング業者。IGN JapanGame Sparkなど各種メディアへ寄稿中。個人リンク: 公式サイト&ポートフォリオ/Twitter/note