【映画レビュー】~死ぬまで青春するわたしたちへ~『空の青さを知る人よ』

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(by 蛙田アメコ

◇31歳が青春映画にログインしました

超平和バスターズ制作 、秩父三部作。『あの日見た花の名前を僕たちはまだ知らない』(2013年、テレビシリーズ)、『心が叫びたがっているんだ』(2015年、映画)に続いて、埼玉県秩父市を舞台とした長井龍雪監督の新作アニメーション『空の青さを知る人よ』が全国公開中だ。

唸るベースラインから始まる青春アニメーション映画。
特筆すべき点があるとすれば。

劇中ではなんと、31歳が、青春を継続していたのだ。
泣いちゃった。

◇あらすじ◇

山に囲まれた町に住む、17歳の高校二年生・相生あおい。将来の進路を決める大事な時期なのに、受験勉強もせず、暇さえあれば大好きなベースを弾いて音楽漬けの毎日。そんなあおいが心配でしょうがない姉・あかね。二人は、13年前に事故で両親を失った。当時高校三年生だったあかねは恋人との上京を断念して、地元で就職。それ以来、あおいの親代わりになり、二人きりで暮らしてきたのだ。あおいは自分を育てるために、恋愛もせず色んなことをあきらめて生きてきた姉に、負い目を感じていた。姉の人生から自由を奪ってしまったと…。そんなある日。町で開催される音楽祭のゲストに、大物歌手・新渡戸団吉が決定。そのバックミュージシャンとして、ある男の名前が発表された。金室慎之介。あかねのかつての恋人であり、あおいに音楽の楽しさを教えてくれた憧れの人。高校卒業後、東京に出て行ったきり音信不通になっていた慎之介が、ついに帰ってくる…。それを知ったあおいの前に、突然“彼”が現れた。“彼”は、しんの。高校生時代の姿のままで、過去から時間を超えてやって来た18歳の金室慎之介。思わぬ再会から、しんのへの憧れが恋へと変わっていくあおい。一方で、13年ぶりに再会を果たす、あかねと慎之介。せつなくてふしぎな四角関係…過去と現在をつなぐ、「二度目の初恋」が始まる。

(『空の青さを知る人よ』公式サイトより https://soraaoproject.jp/  )

2019年の青春アニメーション映画である。
「トウキョウ」という桃源郷に憧れる18歳の悩める主人公あおいの葛藤と青春という王道テーマを主軸にしている。そうして、もうひとつの軸として、あおいの姉、31歳の市役所職員あかねとかつての恋人の慎之助の「青春」がメインテーマのひとつとして据えられている。

30代の青春が、コンテンツのひとつとして大きく提示されていることに驚いた。だって、いままでの「30代」「主人公のお姉ちゃん」というのは、青春から一線を引いて、どこか達観しているような、主人公のよきメンターとして描かれることがほとんどだった。

筆者自身が同じような年代になって強く思うことだけれど、実際の30歳前後なんて、まだまだ青春のど真ん中で一喜一憂して生きているのだ。達観なんてできないし、「つまらない人生を送ってるな」なんて言われた日には青春の怨嗟を込めた目で相手を睨みつけるのもやむなし。

10代の青春が死に、諦めた風の青春ゾンビのなりそこない。
それがリアルな30代(の一部)である。

いる。もう、圧倒的にいる。そんな、リアルをまとった30代のキャラクターが提案されたことが、なんだか衝撃的で、嬉しかった。

◇メタファーが強い〜過去の自分は死人とおなじ〜◇

あらすじにもある通り、この映画にはふたりの「金室慎之介」が登場する。
東京でミュージシャンになるという夢は叶えたものの、現実に拗ねた31歳の金室慎之助。そしてもう一人が18歳の金室慎之助。
この「18歳のしんの」という存在のメタファーが、つよい。

というのも、いわゆる物語のお約束としては、過去の姿そっくりそのままのキャラクターがでてきた場合そいつは8割がた故人の幽霊である。18歳の金室慎之助は、バンドの練習をしていた青春の象徴であるお寺の本堂に現れる。同年齢の主人公あおいの前に、記憶にある18歳の姿のまま現れて、本堂からは出られない。

そう。過去の記憶は、幽霊だ。
たとえ自己という連続性のある存在であったとしても、遠い昔に変質し、失われて、二度と手に入らない過去の自分は「幽霊」に他ならないのだ。

その幽霊と対峙したときに、流れ続ける時を生きる人間はどう反応するのか。
その幽霊は、どうしたら成仏するのか。
その幽霊は、どうして現れたのか。

過去の幽霊というギミックは、本作の見どころのひとつだ。
答え合わせは劇場で。

◇死ぬまで青春するわたしたちへ◇

青春といえば高校生のもの。
あるいは大学生が失われゆく青春を悼んで無茶をする。

それをフィクションの中に懐かしんで、羨ましがりながら死んでしまった青春という過去の亡霊に怯えて現実を生きていく……これが、いままでの青春モノの姿だった。

『空の青さを知る人よ』の主人公は18歳のあおいだけではない。
かつて青春の象徴だった高校生バンドマンと同一の存在であるはずの大人、31歳の慎之助とあかねもこの映画の主人公だった。31歳の独身公務員女性が、業界に擦れたギタリストが、バツイチ子持ちのビール腹の公務員が、大人が青春しちゃダメな理由でもあるのか……いやない。そんなテーマを、正面切って描いた作品なのだ。

多種多様な青春に心を震わせながら映画館でスクリーンに向かっていると、隣に自分の過去の幽霊が座っている。

『空の青さを知る人よ』は、そんな映画だった。

++++
(c)2019 SORAAO PROJECT
映画『空の青さを知る人よ』公式サイト

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この記事を書いた人

蛙田アメコのアバター 蛙田アメコ ライトノベル作家

小説書きです。蛙が好き。落語も好き。食べることや映画も好き。最新ラノベ『突然パパになった最強ドラゴンの子育て日記〜かわいい娘、ほのぼのと人間界最強に育つ~』3巻まで発売中。既刊作のコミカライズ海外版も多数あり。アプリ『千銃士:Rhodoknight』メインシナリオ担当。個人リンク:  小説家になろう/Twitter/pixivFANBOX