【猫エッセイ】猫アレルギーの魔法使い

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(by 冬日さつき

わたしは魔法使いになりたかった。むしろ、今でもなりたいと思っている。誕生日が来るたびにホグワーツからの手紙が届かないかとそわそわするし、じぶんだけの魔法の杖の持ち方も考えたこともあった。でもじぶんの中の”魔法使いの素質”を考えたとき、どうしても外せない問題がひとつある。それは、わたしが猫アレルギーだということ。

猫にふれると目がかゆくなり、のどがイガイガする。そのたびに「ああ、わたしは魔法使いになれないのだな」としゅんとしてしまう。幼い頃から自然と抱いている、黒猫を連れた魔女のイメージ。猫にアレルギーを持つ魔法使いなんていないように思うのだけれど、それはわたしだけの思い込みだろうか。

子どものころ、二段ベッドの上の段でハリー・ポッターシリーズを読みふけった。分厚い本は寝転びながら読むのに適さず、何度も体勢を変えながらページをめくる。ハリー・ポッターの世界では、魔法使いと猫の組み合わせはそれほど強調されていない。実際ハリーがパートナーにしているのはフクロウだし、ロンが連れているのはねずみだった。登場する猫として思いつくのは、ハーマイオニーの飼い猫・クルックシャンクスや、マクゴナガル先生が猫に変身する姿、フィンチが連れているミセス・ノリスくらい。

日本のファンタジーの中で魔法使いの猫として有名なのは、やっぱり『魔女の宅急便』に出てくる猫のジジかもしれない。ずっと知らなかったのだけれど、原作では”魔女の家に女の子が生まれると、同じ日に生まれた猫を探し、大切なパートナーとしてともに育てる”という風習があるとのこと。だから、ジジと主人公のキキは同い年だったのだという。

魔法使いと猫でわたしが一番に思い出すのは『サブリナ』という海外テレビドラマだ。長いあいだNHKで放送されていたから見たことのある人もいるかもしれない。魔法使いと人間のミックスのサブリナ・スペルマンという女の子を中心に話は進む。彼女が住む家で飼われているのはセーレムという雄猫だ。彼はもともと人間で、サブリナやその家族としゃがれた声で会話をする。なんでも世界征服を企てた罪で、100年猫の刑を処されているらしい。

アレルギーで触れなくても、わたしの人生に猫が現れることは何度かあった。高校生の時の音楽教室からの帰り道。大通りの真ん中で道を渡れず立ち往生していた、小さな小さな白い猫。タイミングを見計らいそこまでたどり着き、わたしは考えなしに子猫を抱えた。一部始終を見ていた通りすがりのおばさんがそばまでやってきて、「匂いがつくといけないから離しなさい」とわたしから猫を奪い遠くへやった。どこか近くに親猫がいたのかもしれない。その後どうなったのかはわからない。

それに、沖縄に修学旅行へ行った時のこと。海のそばに母猫と3匹ほどの子猫がいた。子猫はそれぞれなぜか海のほうへと行きたがり、母猫はそのたびに子猫たちを砂浜に戻した。母猫は海の怖さを知っているようだった。ほかのことは何一つ覚えてないけれど、その瞬間の情景だけはどうしてかはっきりと記憶に残っている。

ふだん猫と接することがないぶん、余計に覚えているだけかもしれない。だけれど、魔法使いが連れているのが犬じゃない理由は、猫を見ているとなんとなくわかる。ずっと昔、黒猫は「魔女が飼っている生き物」とされ、魔女を見つける目印にされていたのだという。

しなやかで、こちらの気持ちをじっと見透かしたような目。わたしはまだ魔法使いにはなれないけれど、もうすこし猫のことをよく知ってみたい。抗アレルギー薬を服用しながら、いつかの猫との邂逅をまた待ってみようと思う。

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(イラスト by kotaro

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この記事を書いた人

校閲者、物書き。

新聞社やウェブメディアなどでの校閲の経験を経て、2020年フリーに。小説やエッセイ、ビジネス書、翻訳文など、校閲者として幅広い分野に携わる。「灰かぶり少女のまま」をはじめとした日記やエッセイ、紀行文、短編小説などを電子書籍やウェブメディアで配信中。趣味のひとつは夢を見ること。

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