【連載/世界テーマパーク巡り】第2回: 上海ディズニーランド(中国)~同じようでも一味ちがう~

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(by 冬日さつき

奇幻童話城堡(Enchanted Storybook Castle)と名前がつけられた城は、特定のキャラクターのものではなく、すべてのプリンセスのお城だという。パーク内のいろんなところで「奇妙」という単語を見たけれど、中国語ではすばらしいという意味らしい。

3年前、わたしは夫になる前の恋人と、上海の空港でタクシーを探していた。乗り場を見つけ、念のために中国語で行き先を書いたメモ帳を手に持ちホテル名を伝えると、すぐにわかったような顔をして発車させた。だけれど、料金メーターを上げる気配がない。わたしたちはすぐに顔を見合わせた。メーターを上げないタクシーは悪徳である可能性が高いという、ガイドブックの情報を思い出していた。

簡単な英語でメーターを上げるように伝えても、わからない顔をしている。ニーハオ、シェイシェイ、サイツェン、ウォーアイニー。わたしはこういうときに便利な中国語をひとつも知らない。これらの言葉を組み合わせてなんとか伝えようとしても、愛の告白しかできなかった。埒があかないので関西弁でがやがやと言い続けると、運転手はけだるそうに要求に応じた。すると次は道をわざと間違えて、遠回りしようとする。Googleマップを見せながらまたがやがやと言う。さっそく洗礼を受けたような気持ちになる。なんとかホテルにたどりついてお金を払い降りるとき、恋人はなぜかタクシーの運転手に日本のおせんべいをあげていた。

上海ディズニーランドは2016年に開園したばかり。日本よりもずっと厳重な荷物検査をくぐり抜けて、園内に入る。知らずに訪問したけれど、ちょうど1周年だったらしい。ものすごい数の人がいる。目当てのアトラクションの場所を探し、並び始めた。

人気アトラクションのひとつであるカリブの海賊は、歴史の体験そのものだった。高い完成度は、わたしもかつて得体の知れない骸骨のひとりだったのかもしれないと思わせた。細部まで作り込まれていて、登場するものすべてに物語があるように感じる。その感覚はわたしがディズニーを好きだと思う理由のひとつでもあった。あんまり下調べせずに乗るのがいい。ほかにもトロンのジェットコースターが人気で、近くまで行くとなぜか子連れの女性が優先的に乗れるチケットをくれた。気のいいカップルに見えたのかもしれない。わたしはこわくて乗れなかった。これもまた、すばらしいアトラクションだったとのこと。

驚いたのは、パーク内に非公式のディズニーグッズを売る人や、優先的に乗るためのなんらかのチケットを売るダフ屋たちがいたことだった。アトラクションの列の途中、洞窟のような暗がりに入ったところに彼らはいて、パチモンを売っている。年間パスを買ったとしても利益が出るくらい売れるのだろうか。良くないことなのだろうけれど、日本では考えられない風景におもしろくなる。夢の国に発生しているバグみたい。

帽子に名前を刺繍してくれるサービスがあり、それを頼む。パスポートを見せながら名前の漢字を説明した。写真では一部画像処理をほどこしてあるけれど(けしてわたしは「本」という名字ではない)、学生の頃の体操服みたいなフォントが一回りして逆にかっこいい。恋人も同じように名字を刺繍してもらったのだけれど、なんらかのミスが起きていて、できた帽子には「何田」と書いてあった。作り直しはしてくれる。

上海ディズニーランドは、ディズニーとしてのクオリティーを保ちながら、やっぱりどこかに中国の文化や雰囲気をしっかりと感じられるテーマパークだった。食べ物やグッズなども中国の文化にまつわるものが多かった。パーク内ではほとんど英語が通じるし、表記も漢字だからなんとなく意味がわかるのもいい。公式なのに非公式の感じがするグッズを見つけることもできる。次にまた日本のディズニーリゾートに行くとしたら、日本ならではという部分を探してみたいなと思う。

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この記事を書いた人

校閲者、物書き。

新聞社やウェブメディアなどでの校閲の経験を経て、2020年フリーに。小説やエッセイ、ビジネス書、翻訳文など、校閲者として幅広い分野に携わる。「灰かぶり少女のまま」をはじめとした日記やエッセイ、紀行文、短編小説などを電子書籍やウェブメディアで配信中。趣味のひとつは夢を見ること。

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