【エッセイ】2019年、梅雨の記録

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(by こばやしななこ

子供の頃よく「自習ノート1ページ」という宿題が出た。漢字練習でも計算ドリルでもいいから、ノート1ページ分何かして行かなければならない。私はこの宿題が出ると必ず1ページ分の日記を書いた。授業で作文を書くんだからこれも自習のうちに入るだろうと閃いたのだ。楽がしたくて日記を思いついた私に名文を書く気はさらさらなく、毎回特に何も起きなかった1日のことをダラダラ書き連ねた。思い返せばそれらは私が書いた最初のエッセイだったかもしれない。

初心に返り、今年の梅雨の時間が経てば忘れてしまいそうなことをここに記録する。

○月×日

1年も美容院に行っていないので髪型を変えようと決意。思い切って金髪にでもしようかと考えていたけれど、ミュージカル版『ビートルジュース』に出ていた子のパーマヘアが余りに可愛くて、パーマをかけることにする。影響され易い性格に我ながらトホホと思う。昔、映画で観たベリーショートのヴァネッサ・パラディが素敵で同じ髪型にすると言ったら母親に「絶対後悔する」と止められたことがある。言うことを聞かずに後悔したっけ。

○月×日

イ・ランさんが書いた本が届く。一緒に暮らしているN村さんに「イ・ランさんの書いた本が読んでみたい」という話をしてから、N村さんはネットで彼女の本が売りに出されているのを見つけると買ってくれるようになった。本をくれる人は最高。うちにはもう数冊ランさんのエッセイがある。

ランさんはイラスト描いたり、歌を作って歌ったり、文章書いたり、映画を作っている人だ。翻訳本は苦手だと思っていたけれど、ランさんのエッセイは言葉が率直でスッと入ってくる感じが心地いい。韓国語は日本語と語順が同じだし、言葉の感覚がそんなに違わないのかもしれない。

N村さんは彼女のエッセイを少し読んで「みんな自分のことを信じられないからイ・ランさんの本を読むんだろう」と言った。ランさんみたいに自分のことを信じている人はいいな、と思う。私はちゃんと私のことを信じているんだろうか。

○月×日

今日考えたこと。

8歳の時、ノゾくんと喧嘩をした。殴り合いになり、体の小さい彼は私にやられっぱなしで大泣きした。すぐに先生が来てノゾくんだけが悪いことになった。何故か泣いているノゾくんが私に謝ってその場が収まった。ノゾくんはよく他の子を攻撃する問題児だったけど、その時彼だけ怒られるのは変だった。でも私は何も言わなかった。彼の人生はそんなことが山ほどあるはずだ。

もし今ノゾくんが世界に怒りを持っているとすれば、その元凶は私だと思う。

○月×日

梅雨は苦手。だけど今年はパーマをかけたから、雨の日はウェーブがよく出て少し気分がいい。黒い大きな傘も気に入っている。今年の梅雨はだいぶマシだ。でもやっぱり好きとは思えない。

渋谷で綺麗な紫陽花を見た。

小学生の頃住んでいた家の庭にも紫陽花が植えてあった。その家に住んでいた時、デパートで小さな亀を買ってもらった。冬だったので“ふゆか”と名前をつけた。

翌年のある晴れた日、私はふゆかの水槽を出窓に出しておいた。そしてそのまますっかりふゆかのことを忘れた。気付いた時には夜で、ふゆかはぐったりしていた。

私がふゆかのことを忘れている間に、一体彼女はどれだけ辛くて苦しい思いをしたんだろう。私はふゆかに一生懸命水をかけた。ベッドに水槽を持って入って名前を呼んで抱きしめた。でも結局ふゆかは死んだ。

ふゆかの死体は丁寧にティッシュに包み、庭の紫陽花の根元に埋めた。拝みながら、もう動物は飼わないと決めた。

紫陽花を見ると、その時のことがふっと蘇ってくる。私にとって梅雨ってそんな季節だ。

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この記事を書いた人

こばやしななこのアバター こばやしななこ サブカル好きライター

サブカル好きのミーハーなライター。恥の多い人生を送っている。個人リンク: note/Twitter