【連載/世界テーマパーク巡り】第1回: レ・マシーン・ド・リル(フランス)~サイバーパンクの楽園~

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(by 冬日さつき

機械仕掛けの象がゆっくりと歩いている、いつか夢で見た世界の一部分みたい。

フランス・パリにあるシャルル・ド・ゴール空港について、眠るだけの1泊をしたあと、TGV鉄道に乗ってフランス西部にある都市、ナントへ向かった。日本の新幹線みたいな位置づけだろうか。車内はしんとしていて、大きなアナウンスもなく静かに発車する。会話を交わす人々もいるけれど、フランス語ってあまりうるさく聞こえないなと思う。窓からやさしい陽の光が入ってくる。太陽はひとつしかないのに、光の種類はどこか日本とはちがうように感じた。

ときどき停車する駅でも、降りる人はまばらだ。そもそも乗っている人が少ないのかもしれない。9月でもまだ気温は高く、半そでの人が多かった。2時間くらい経っただろうか。ナント駅に到着して、外に出る。駅付近は工事中のところが多い。舗装されていない道をまっすぐ進んだ。スーツケースをがたがたと言わせながら、なんとかホテルまで到着する。

ナントは、SFの父といわれるジュール・ヴェルヌが生まれた町。ディズニー・シーにアトラクションがある、海底二万マイルの原作者でもある。その世界観を表現したという遊園地がここにはあって、わたしたちはそこを目指していた。受付の人に行き方を聞いてみる。ホテルの人が「あれ、今日って休みじゃないかな?」と言うから、つめたい汗がすっと身体を流れるのがわかった。正真正銘、そこに行くためだけにフランスへ来たのだから。

その情報が間違いであることを確認して安堵をしたあと、トラムに乗って目的地に向かう。実際、オフシーズンには休園の日や、午後のみの営業もあるようだ。フランスの街並みそのものがはじめてだから、すべてが興味深く映る。バスを降りて、ロワール川にかかる橋を渡った。ちょうど近くで若者向けのクラブイベントがあったのか、大きな音楽が響いている。薄着の人たちがそこへ向かって歩いている。いつも思うけれど、外国の人って身軽な服装でいいな。肌を出すことにあまり躊躇がない。わたしは遠い国の気温を見定めるのをまちがえて、長袖を着ている。

入ってすぐに回転木馬が見えた。羽の生えた馬やアヒル、人間のようなロボット、カメレオン、タツノオトシゴ、なんだかよくわからないもの……いろんなものが並んでいる。ひとまずそれには乗らずにそのまままっすぐ進むと植物園のようなギャラリーがある。入場料を払って、中に入った。

スチームパンク、そのものだと思う。すべてが機械仕掛けになっている。未来とはまた別の世界、新しいとか、古いとか、そんなものを超越した空間。一つひとつじっくりと見ていく。それらにあたたかみを感じるのは、現代に失われたもののように感じるからでもあるからだろうか。産業革命よりも前に生きた人たちは、これらに冷たさを感じたのかなとふと思う。

ときどき従業員が説明をして、挙手をした人はそれぞれ乗り物に乗せてもらえる。フランス語はひとつもわからなかったけれど、乗っている人びとはみんな楽しそうだ。

この遊園地のシンボルとなっている大きな象は、これもまた機械仕掛けになっていて、実際に人を乗せて動く。チケットを別に購入して、時間に合わせて乗り込んだ。中心部には操縦室がある。ゆっくりとした動きには安定感があって、ときどき鼻の先から水を噴射する。象の中からそれを見ていると、きれいな虹を作っていた。

さっき入り口付近でみたものよりもずっと大きい回転木馬があるという。象から降りたあと乗りに行く。クラゲやイカ、深海にいそうな魚たち。骨だけのものもいる。それに乗ってくるくるとまわった。当たり前だけれど、いちばん気に入った乗り物に乗るとその全貌が見られない。それでもしっかりとした高揚感があって、たのしかった。物語に入り込んだみたいな気持ちになる。

作られたすべてにすっかり満喫して、満足をしたところで現実に戻った。テーマパークは、日常生活からアクセスできる異世界のひとつだ。レ・マシーン・ド・リルみたいな遊園地が、この先もずっとあるといいなと思う。わたしだったらどんな空想の世界を作るだろうか。

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この記事を書いた人

校閲者、物書き。

新聞社やウェブメディアなどでの校閲の経験を経て、2020年フリーに。小説やエッセイ、ビジネス書、翻訳文など、校閲者として幅広い分野に携わる。「灰かぶり少女のまま」をはじめとした日記やエッセイ、紀行文、短編小説などを電子書籍やウェブメディアで配信中。趣味のひとつは夢を見ること。

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