ハニベ岩窟院

「ハニベ岩窟院」を訪れた者はまず、巨大な仏頭に出迎えられる。ほんとでかい。全長十五メートルある。五階建てのビル並みだ。しかもこれで未完成らしい。マジか。

ここで君はひとつの根源的問いにぶち当たるだろう――つか「ハニベ」って何よ。それでいい。君がセミナーなんかの「質問タイム」で訊きたいことは山ほどあるのに、気後れしてしまって挙手できないタイプ、いわゆるシャイであっても、こうした場所に君を躊躇させるしがらみは一切存在しない。ここではあらゆる問いが許される。多くの自問を引き出してくれる。

公式サイトによると「ハニベ」とは、はにわなどを彫刻する土部師(はにべし)と呼ばれる職人たちのことを指すらしい。要は「彫刻家」だ。すなわち「ハニベ岩窟院」とは「彫刻家が造った洞窟の寺」を意味する。かっけえ。ひとつ中二的な震えが走った。

実際院主も戦後間もない頃にハニベ岩窟院を創建し、平和を祈念して仏像を彫り続けた、彫刻家であった。

そのため「ハニベ岩窟院」は濃厚な創造のオーラに満ちている。こんなバカでかい仏頭をなぜ造ったのか――そうやって理に答えを求め、自分の理解を超えたものを自分の限られた常識内で咀嚼しようとする浅薄な者たちに、この仏頭は強烈に訴えかけてくる。

感じろ、そして造れと。

打たれた。おれ打たれた。創造の光に。クリエイティブの原初的エネルギーに。この仏頭を抜けた先の庭には、不動明王はともかく白い象みたいな動物や、形容しがたい赤い人の像が立ち並んでいて、一見節操がないように映る。が、何かを生み出してこそクリエイティブだ。完璧に仕上がる時を待っていては、いつになっても作品は日の目を見ない。とにかく造れ、そして世に問え。そうした創造者にとって大切な姿勢を、この像たちはあらためて教えてくれる。

石切り場の跡地に築かれた岩窟院の中は、薄暗い。そこには宗派や地域を一切問わない、古今東西の神々がずらりと立ち並んでいる。とりわけ釈迦の一生を描いた壁画群は素晴らしく、その中央には水木しげるの漫画に出てきそうな小僧が右手を上げて立っている。テーマに沿って考えれば、幼年期のお釈迦さまということになるのだろうが――はっきりいって怖い。暗いし。ひとりだし。今にもこの小僧が動き出すのではないかと、チキンな小生は遠ざかりながら何度も後ろを振り返った。

こうした仏像エリアを抜けると、その先にはそう、地獄エリアが待っている。「極楽洞」もそうだったが、地獄というモチーフは芸術家の創造意欲をよほど焚きつけるものらしい。この洞窟内にも、針のついた車輪で罪人を踏みつぶす鬼や、四人で楽しげに食卓を囲む鬼たち(カメラ目線の鬼がいるなど芸が細かい)の像、さらには無数の蛇が体にまとわりつく、へび嫌いの方が見たら卒倒しそうな「へび地獄」の像なんてものもある。もちろん閻魔大王もいるし、なぜかシーマンみたいのもいる。あれって地獄の生き物なのか。

いずれの像も細部まで美しく、色鮮やかで、そこはかとないユーモアを感じさせる逸品ぞろいだ。おまけに物量もすさまじい。しまいにはピカソ風のキュビスム彫刻まで現れるなど、この混沌の極みのような世界観を前にしては、人間ごときが捻り出すあらゆる理屈は跡形もなく吹き飛んでしまうだろう。

飼い慣らされたアートに食傷ぎみの方は、ぜひ「ハニベ岩窟院」に足を運んでいただきたい。

ハニベ岩窟院評価》(満点は★5つ)
アクセス:★★★
冒険度:★
芸術度:★★★★★
地獄度:★★★★

 

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