【旅行エッセイ】ベトナム旅行記(前編)

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ベトナム旅行記1

(by 冬日さつき

新婚旅行の行き先にベトナムを選んだわたしたちは、結婚式を終えた3月のはじめ春を飛び越え夏にいた。

はじめての東南アジア。飛行機の中でこんにちはとありがとうの言い方をひとまず覚える。ダナンというリゾート地でしばらく過ごしたあと、ホーチミンへ行くという旅程だから、国内線を乗り継いでダナン空港へ。空港から外に出ると雨の匂いがした。田舎で育ったからそれがわかるのかもしれない。湿った空気がぴたりと肌にはりついて、外国に来たことを実感する。

ホテルからの迎えの車に乗り込む。かいだことのない芳香剤の香りと、聴いたことのない音楽。わたしたちに気を使ってか、運転手が途中で若者っぽい曲に変えてくれたけれど、いつものでいいのになあと思う。道路にはあまりに多くのバイクが走っていて、ひとつのバイクに何人もが乗っていたり、不可解な量の荷物を運んでいたりする。小さいものがたくさん集まって動いているのを見るたびに「絵本のスイミーみたい」という感想を持ってしまうのはやめたいなと思うけれど、上から見たら、街を泳ぐ大きな魚にきっと見えるだろう。

予約したホテルのレビューには「従業員みんながポケモンGOにはまっていて、つかまえたポケモンを見せてくる」と書いてあった。それって日本みたいじゃなくていいな。チェックインを済ましたあと部屋につくまで、ベルボーイはわたしたちに語り続ける。いろんな観光地のことを説明しているようだ。そこに行くか?と何度も聞かれて、行かないと答えると残念そうな顔をした。紹介料みたいなものをもらえるのかもしれない。彼は現実世界のアフィリエイト広告を担っているのだ。荷物を持ってもらったのでチップをあげるべきか悩んだのだけれど、大きいお札しか持っていなかったから迷惑かもしれないと思いつつも日本の100円玉を渡した。日本に来ることなんてないかもしれないと、すぐにすこしだけ後悔をする。こういう客ってたぶんわたしだけじゃないだろう。彼の部屋の片隅に、使い道のない外国のコインが入った瓶があるのを想像した。

ベトナム旅行記1

外に出て散策していると、夫が「アベンジャーズが来た後の街みたい」と言った。ところどころ道路のコンクリートが割れたりしていて、それが破壊されたように見えるからだ。リゾート開発が進んでいるダナンは、新しいホテルの建設も進んでいて、10年後来たらまた雰囲気が変わっていそうな感じがする。

信号がない横断歩道が多いから、車やバイクに気をつけなければいけない。それらがビュンビュン通り過ぎるところを、タイミングを合わせながら操作するコンピューターゲームのように進んでいく。手をつないでいたほうがあぶないのに、車にはねられてしんでしまうのがこわくてずっと夫の手をにぎっていた。

次の日、ガイドブックに載っていたピンク色のダナン大聖堂へ行く。どう撮ろうとしてもまわりに建っている黒くて大きなビルが入り込んでしまい、うまく写真を撮れなかった。韓国の人が多くいてどうしてだろうと疑問に思っていたら、韓国人はキリスト教徒が多いらしい。きれいな大聖堂を見てみたいというだけで来たわたしみたいな人と、キリスト教を信仰している人とではこの場所で感じることがどれくらい違うのだろうかと思った。

ベトナム旅行記1

そのあと、ホテルで仲良くなった従業員の人に教えてもらって、ドラゴンブリッジという名前で知られている世界最長の橋で開催されるショーを見に行く。毎週末にやっていると聞いていたけれど、地元の人を含む多くの人が押し寄せていて、年に一度のお祭りみたいな規模だった。橋にあるドラゴンの口から火が出たり、水が出たりする。わたしたちは遠くから眺めていただけだったけれど、近くにいる人たちは大雨に降られたみたいにびしょびしょになるらしい。

その近くでは夜市があって、そこで夜ごはんをすませようとぶらぶら歩く。選んだ食材を揚げてくれるスタイルの屋台で、蛙を注文した。蛙をたべるのははじめてだった。わたしがそれを臆することなく口にしたのを見て、夫がとても驚いていた。お互いをよく知ってから結婚をしたのに、知られていないわたしの部分がまだまだあるのだなあと少しうれしくなる。蛙の肉はうわさに聞いていた通りの鶏肉みたいな味だった。

中編へ続く…)

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この記事を書いた人

校閲者、物書き。

新聞社やウェブメディアなどでの校閲の経験を経て、2020年フリーに。小説やエッセイ、ビジネス書、翻訳文など、校閲者として幅広い分野に携わる。「灰かぶり少女のまま」をはじめとした日記やエッセイ、紀行文、短編小説などを電子書籍やウェブメディアで配信中。趣味のひとつは夢を見ること。

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