ナイト・イン・ザ・ウッズ

20歳。日本では民法第四条の規定により、この年齢から成年とされる。

20歳になれば、酒が飲める。タバコが吸える。中型免許が取れる。
周囲の影響から、私もかつてはそのようなことができる大人に憧れたが、実際にその歳を迎えた私はどちらもできなかった。

タバコは、健康を害するものとのイメージが強くなって、憧れではなくなった。酒は違ったが、飲んでひどく体調を崩したため、以来避けるようになった。

他にも記憶から消し去りたい嫌な出来事も沢山経験するなど、20歳の一年はひどいものだった。もし、タイムマシンがあって昔に戻れるのだとしても、絶対に戻りたくない時代のひとつだ。

ナイト・イン・ザ・ウッズ

そんな苦い思い出を持つ身にとって、『ナイト・イン・ザ・ウッズ』は精神的に堪えるアドベンチャーゲームだった。

主人公の「メイ」は20歳。

ある事情から大学を中退。故郷の田舎に戻るも、当時の仲間達は就職し、未来を行く。一方のメイは目標を失い、刹那的に毎日を過ごすだけ。

多少状況は違えど、20歳当時、近い出来事を経験した身には、心中穏やかならぬ設定だ。とは言え、メイを始めとする登場人物達はみな、可愛らしい動物の姿をしており、台詞の文字フォントもポップな見た目。会話劇も少し笑ってしまうやり取りがあり、設定の生々しさはあれど、最初の頃は暗い気持ちになることなく楽しめた。

しかし、メイの心に巣食う闇と、彼女が大学を中退するに至った背景、仲間それぞれの抱える問題などが明らかになるにつれ、空気が重くなっていく。舞台となる故郷の田舎「ポッサム・スプリング」も、都会に出る若者が続出している現状から、老舗が経営難で店じまいするなど、緩やかに衰退していく様子が描かれる。そんな裏で起こる、住民の失踪事件。

終盤、メイと仲間達は事件を追いかけることになり、その末に恐るべき真相へと辿り着く。そこから様々な出来事と危機を経て、物語は一応の決着を迎えるのだが……。

詳しくは伏せるが、スッキリしない締め括りとなっている。丸く収まったように見えるが、実は全然収まっていない。幾つかの問題は残されたままだ。それもあって、言葉に表しがたいモヤモヤ感に襲われた。そして、この物語は一体、何だったのかと困惑した。

ただ、登場人物達の言動、日々の様子から推察するに、「普通に、楽しく生きることの大切さ」を伝えようとした意図は僅かながら感じ取れるものになっている。

現実には頑張ってもどうにもできない、覆せないことがある。理不尽な運命に見舞われることもある。縛られてしまうことがある。そして、そのために夢を諦めることにもなる。

メイを始めとする本作の登場人物、並びに「ポッサム・スプリング」はそれらを経験し続け、答えも出せず、救いも見いだせない現状に翻弄される。しかし、それでも何らかの楽しみと、少しの変化があることを求めて、日々を送っていく。

ナイト・イン・ザ・ウッズ

自らを「クソゴミ人間」と称すメイは、特に「普通」を願って生き続ける。例え今までと状況が変われど、小さな楽しみと幸せが得られるように。自分が自分でなくならないように。

本作は、そんな普通に生きていればこその僅かな「幸せ」を得る大切さを伝え、プレイヤーに考えさせることに物語が構成されていた。失踪事件はあくまでも、刺激を与えるスパイスでしかない。大事なのは、少しでも「幸せ」を作って楽しみ、日々を過ごすこと。

若干、個人的な憶測も入るが、それが意図するものであったかのように、登場人物からあちこちで起こる出来事は構築されていた。ゆえに私としては、色々と心苦しい気持ちにさせられ、普通に過ごすことの大事さを考えさせられた。

現に20歳の頃、沢山の苦しい思いをしたからこそ、あの頃にも「普通」と「救い」はあったことを改めて認識した。だって、辛くても美味しい御飯を食べる一時は幸せだったじゃない。ゲームをしこたま遊んで夜更かしするのも楽しかったじゃない。

ナイト・イン・ザ・ウッズ

器物損壊行為に走るのはダメだが。立派な犯罪です。

正直な所、人を選ぶゲームなのは間違いない。全部遊び終えてもスッキリすることはない。人によっては、拒絶反応すら起こすかもしれない。だが、メイに近い経験をした(或いはしている)人であれば、彼女に自らを投影しながら、この妙に現実味のある物語の虜になってしまいかねない”毒気”という名の魅力がある。

アクションゲームのようにキャラクターを動かし、時にはジャンプで足場を伝っていく場面があったり、リズムゲームを遊ぶなど、意外にイベント盛り沢山な内容にもなっている本作。ただ、難易度は低く、ゲームオーバーの概念もないのでエンディングまでは誰でも辿り着ける。ボリュームも大体5~6時間程度と手ごろだ。

ナイト・イン・ザ・ウッズ

元々は海外版しかなかったが、2019年3月29日、PLAYISMによる手の込んだローカライズが施された日本語版がNintendo Switch、PlayStation 4、そしてPCで遊べるようになった。

興味があれば、ぜひ、このなんとも言いがたい物語を通して「普通に生きる」ことを考えてみてはいかがだろうか。僅かでも、前向きになれるヒントを得られるかもしれない。思い出したくもないことを思い出すかもしれない。

だが、それはきっと何かを考えるきっかけになる……はず。

Night in the Woods™ © 2017 Infinite Fall. ©Active Gaming Media Inc.
ゲーム『ナイト・イン・ザ・ウッズ』Switch版サイト

 

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