【ゲームレビュー】失われたモノたちの暮らす世界へ『フォーゴットン・アン』

フォーゴットン・アン
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フォーゴットン・アン

(by 冬日さつき

「すべての失われたものや、忘れられたものが行き着く場所を想像したことはありますか?」

登山の途中で落としてしまった片方の手袋、留学中に寮でなくした大切な指輪。ベランダで太陽の光に当てていたらいつのまにか消えていたきれいな石、一度も読まないうちにどこにしまったかわからなくなった本。それに、気がつかないあいだに失ってしまったたくさんのもの。

それらはすべて、”フォゴットンランド”で見つかるかもしれない。

ゲーム『フォーゴットン・アン』(Swich、PS4、XBox One、Steam)では、人間の記憶から失われたものが”フォゴットリング”となりたどり着く世界、フォゴットンランドを舞台にして物語が進む。フォゴットリングはかつて靴だったもの、ランプだったもの、拳銃だったものとさまざまだ。彼らは意思を持ち、会話をし、この世界でかつてとは違う新たな生活を送っている。

主人公のアンは師匠のボンクと共にこの世界の秩序を守る者として暮らし、すべてのフォゴットリングが現実世界へ帰れるようになる装置”イーサゲート”の建設に取り組んでいる。アンは執行官と呼ばれ、左手につけている”アルカ”で、”アニマ”という電気のようなエネルギーを操る。アニマは機械の動力であり、フォゴットリングの命そのものでもある。これらをうまく利用しながらプレイヤーはパズルアクションをこなしていく。説明やヒントは少ないが、難しすぎず、簡単すぎるということもない。ゲームオーバーの概念やローディングがないため、プレイとムービーが常にシームレスにつながりアニメーション映画を操作しているという感覚が強い。

ある日、目を覚ましたアンは町で爆発があったことを知る。フォゴットリングの中にいる反乱勢力の襲撃だという。彼らは「この世界に来たものは誰の所有物でもない」と主張し、アンやボンクに対立する反体制派として描かれる。アンは彼らと接触し、次第に執行官としての自らの行いに疑問を持ち始める。そして、人間である自分とボンクがなぜフォゴットンランドにいるのか、という真相に近づいていく。

忘れられたことを忘れるためにバーに行くフォゴットリングたち。彼らは元の持ち主のことを記憶しつづける。かつての決められた役割から解放され、その上ではたして自分はどう生きたいのかと悩む者。与えられた役割の中で、なにを選び、どう生きていくか悩む者。それらは、現実世界での人間の葛藤とも重なる。

フォーゴットン・アン

ファンタジーというジャンルは、架空の話でありながらも、多くの場合で現実世界へのきびしいまなざしを含む。わたしたち人間は常に新しいものを探し求め消費を繰り返すが、そのひとつひとつの一生に目をやることはほとんどない。ゲーム後半では進化したアルカによって、フォゴットリングがかつての世界でどのように存在していたか知ることができるようになる。その一、二行の短い文は、人間が普段見過ごし、通り過ぎてきた物語でもある。

イーサゲートの完成が近づき、アンを取り巻く状況は大きく変化していく。そして、プレイヤーは最後にひとつの答えを出すことになる。エンディングを迎え、心に残ったシーンをひとつずつ思い出す。失われ、忘れられたものたちが語った言葉を、きっとわたしは忘れないだろう。

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(c) 2016, 2018 Forgotton Anne ApS.  (c) 2019 Chorus Worldwide
『フォーゴットン・アン』公式サイト

フォーゴットン・アン

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この記事を書いた人

校閲者、物書き。

新聞社やウェブメディアなどでの校閲の経験を経て、2020年フリーに。小説やエッセイ、ビジネス書、翻訳文など、校閲者として幅広い分野に携わる。「灰かぶり少女のまま」をはじめとした日記やエッセイ、紀行文、短編小説などを電子書籍やウェブメディアで配信中。趣味のひとつは夢を見ること。

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