(by 冬日さつき)
ゆっくりと、しかし確実に、たくさんの作品で描かれてきた「未来」は近づいていて、携帯ショップではロボットに話しかけられるようにもなった。自宅にはロボットクリーナーがいて、わたしは彼(彼女)が掃除をしやすいようにゴミをひとかたまりにしておく。そこまでするのならば、それをゴミ箱に入れてしまうほうが早いと思いながらも、スイッチを入れる。
人間の仕事をロボットが代行する、その景色が少しずつ身近になりはじめた現代。わたしが手に取ったのは『Detroit: Become Human』(デトロイト・ビカム・ヒューマン)というPS4用のゲームソフトだった。
舞台は2038年、デトロイト。人工知能やロボット工学が高度に発展を遂げた、アンドロイド産業の都。人間と同等以上の外見・知性を兼ね揃え、様々な労働や作業を人間に代わって担うようになったアンドロイドは、社会にとって不可欠な存在となっていた。
そんな中、あたかも自らの意思を持つかのように行動するアンドロイドが発見される。そうした個体は「変異体」と呼ばれ、世間を騒がせはじめていた。はたして彼らは人間の脅威になり得るのだろうか、と。
コントローラーでアンドロイドを動かす、アクション・アドベンチャーゲームだ。ゲーム中に提示される選択肢を選び、簡単なボタンアクションをこなす。主人公は3人おり、わたしの操作すべてに彼らの運命がゆだねられる。映像はどこまでも美しく、ゲーム上に存在するテレビ番組や雑誌などはいずれも見たり読んだりすることが可能で、それらは物語の奥行きをぐっと広げてくれる。
自分が下す決断や行動によって展開が絶えず変化する。ストーリーは章として区切られ、ひとつの章が終わるごとにフローチャートとして表示される。選ばなかったほうに別の結末があることが明示され、世界のプレーヤーがどのくらいの割合でその選択肢を選んだかが表示される。
ゲームを進めるにつれて、間違った選択肢を選びたくないという気持ちがすこしずつ大きくなっていった。思考することをやめて、正解と思える選択肢を選び「良い人」でいたいというだけの自分がいることに気がつかされる。もちろん、ほかのゲームにおいてはそれが正しい場合もあるし、それこそがゲームを攻略するということにもなり得る。しかしこのゲームにおいては、いちばん良いエンディングを見ることがクリアではないのだろう。
良心を問われ、判断を繰り返し、自分が持つ考えを少しずつ明確にする。その最後には、正真正銘の「わたしの物語」の結末がある。
自分の感情や意思で選択していくということ自体が、人間そのものの行いだ。間違えることも、人間を人間たらしめるものである。コントローラーを通して、アンドロイドをモノではなく命ある者にしていくのは、わたしだ。それこそが、この『Detroit: Become Human』というゲーム体験なのかもしれない。
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『Detroit: Become Human』公式サイト