【連載/字幕翻訳者の“この台詞が好きなんです”】第5回: 銃弾よりも人を傷つける言葉『L.A.ギャングストーリー』

LAギャングストーリー
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取り消せないことが2つある。撃った弾と言った言葉だ。

Two things you can’t take back on this job, bullets out of your gun and words out of your mouth.

映画『L.A.ギャングストーリー』より

(by 長夏実

「字幕翻訳者です」と言うと、99%の確率で「じゃあ、英語ペラペラなんですね!」と返されます。「全然話せないんですよ」と答えると、今度は「またまた~」と謙遜していると思われてしまいます。

実を言うと私は、英語を話すのが本当に苦手です。

「英語ペラペラでしょう?」の次によく聞かれるのが「帰国子女ですか?」「留学してたんですか?」

あくまで私調べですが、この質問は「初対面の人に翻訳者だと言えば、必ず返される返答トップ3」だと思っています。ちなみに私は山梨県生まれの三重県育ちで、甲州弁すら話せません。(もちろん外国語を日本語に訳すという仕事をしている以上、それなりの語学力は必要不可欠というのは承知のこと。)

そういえば、英語圏に長い時間滞在した経験がほとんどない私にも、唯一縁があった国がありました。LAです。

最初に訪れたのは高校1年生のとき。

夏休みに2週間、カリフォルニア(そのときはLAではなく、LAから2時間くらい車で走った砂漠地帯)でホームステイをしていました。それがきっかけで、今度はLAに行きたいと思い、大学生のときにインターンシップで再びLAを訪れることに。

聞くところによると、今どきの大学生はインターンシップに参加しないと就活のときに不利になるらしいのですが(ファミレスで大学生が話していた)、私が学生だったウン年前にそんな制度はなく、周りの反応も「インターンシップ?はあ…」というようなものでした。

私自身も、「まあ、行けたら理由は何でもいい」というのが本心で、だからこそたった1カ月間しかいなかったのに、今でもLAと聞くとまるで数年住んでいたような懐かしい思いがこみ上げてきます。本当に、1か月しかいなかったのに!大袈裟な奴です。

さて、今日ご紹介する映画は、そんな思い出の町・LAが舞台の『L.A.ギャングストーリー』。


この作品は、1940年~50年のLAでおきたロス市警vsギャングの抗争を描いた作品です。当時のLAはミッキー・コーエン(ショーン・ペン)率いるギャング団に支配され、警察もコーエンに買収されているか、コーエンを恐れて見て見ぬ振りをしていました。そこでコーエンたちの一掃を命じられた元軍人の巡査部長、ジャック・オマラ( ジョシュ・ブローリン)は生まれてくる自分の子供のためにもLAから悪党を排除しようとチームを結成します。

オマラの妻コニーのアドバイスのもとに集められたメンバーは、投げナイフの達人コールマン・ハリス(アンソニー・マッキー)、老いぼれたガンマン、マックス・ケナード(ロバート・パトリック)、盗聴のプロ、コンウェル・キーラー(ジョバンニ・リビシ)、そして、コーエンの世話係であるグレイス・ファラデー(エマ・ストーン)に恋したジェリー・ウーターズ(ライアン・ゴズリンク)です。

「取り消せないことが2つある。撃った弾と言った言葉だ」

この台詞が出てくるのは映画の冒頭部分。

勝手にコーエンが営む売春宿に押し入ったジョン・オマラ巡査部長に向かって、「コーエンには近づくな。我々にはルールがある。それを学べ」と苦言を呈する警部補。しかし、オマラは「警部補が出世したのは、そのルールに乗っ取ったから?」と返します。

そんなオマラに「口を慎め」という意味で使用されるのが、この台詞。

“撃った弾”という言葉のチョイスは、ギャング映画ならではだと思いますが、一度口から出た言葉が取り消せないのは、ギャングじゃない私たちも同じ。

むしろ、感情的になって言い放った「余計なひとこと」が、ときに銃弾よりも人を傷つけるということを、忘れてはいけないと学んだのでした。

++++
(c) Village Roadshow Films (BVI) Limited
『L.A.ギャングストーリー』公式サイト

LAギャングストーリー

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この記事を書いた人

英日字幕翻訳者。中国語も少し。最近は韓ドラにはまってます。字幕担当作品『キス・ミー・ファースト』など多数。

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